大河ドラマ『光る君へ』の最終回で『更級日記』の作者・ちぐさ(菅原孝標女)役を演じた吉柳咲良。彼女にとって2024年は大きな飛躍の年だったと断言してもよい。
1月にNHK BSで放送されたスペシャルドラマ『アイドル誕生 輝け昭和歌謡』では昭和歌謡のレジェンドで所属事務所の大先輩でもある山口百恵役を、3月に終了した連続テレビ小説『ブギウギ』では若手歌手・水城アユミ役をそれぞれ堂々と演じて注目を集めた。
加えて4月には自ら作詞・作曲にも参加した『Pandora』でアーティストデビュー。2025年1月からは松坂桃李主演のTBS系日曜劇場『御上(みかみ)先生』への出演も決まっており、ブレイクは時間の問題だ。まだ20歳……という言い方は失礼だろう。その言葉と表情からは、みなぎる生命力と無限の可能性が伝わってくる。
◆“元祖オタク”ちぐさ役に「似ているなと思いました」
――まずは『光る君へ』ですが、最終回のみの出演ながらインパクトがありましたね。
吉柳咲良(以下、吉柳):なにより20歳というタイミングで大河ドラマに出させていただいて、とても嬉しかったです。「大河」ということでもっと緊張するかなと思っていたのですが、18歳のときに『星降る夜に』(2023年)というドラマで共演させていただいた吉高由里子さんとまた一緒にお芝居ができると思ったら撮影も楽しくできました。
今回演じたちぐさは、古文や歴史が好きな方々から“元祖オタク”と呼ばれている存在で、あまりにも『源氏物語』が好きすぎて彫刻とか彫っちゃうくらい(※物語の続きが読みたくて自ら彫った仏像に祈りを捧げていたという)の人なんですけど、演じていて自分にとても似ているなと思いました。
――どういった部分が似ているのでしょう?
吉柳:好きなことについて語り出したら止まらないところとか、自分のなかに確固たる持論を持っているところとか。なので演じやすかったです。オタクが世界を救うと私は思っているので(笑)。
――令和を生きている吉柳さんの目に平安時代や平安文化はどう映りましたか。
吉柳:昔のほうが奥ゆかしくて好きだなと思いました。もちろん大胆さのある令和も好きですけど、ちょっともどかしくてちょっとこそばゆいというか。今はスマホだったりSNSだったり、昔とは気持ちの伝え方も全然違っていると思いますが、どの時代でも人が人を想う気持ちってすごい素敵なものなんだなって感じます。私、手紙が好きで。
――そうなんですか。
吉柳:よく人に手紙を書くタイプなのですが、平安っぽい書き方とかしてみたいなって思いました。手紙なのによく「なんだろなー」「あのー」「うーん」とか話口調も書いちゃうんですよ。LINEか!みたいな(笑)。
◆昭和の大スターたちを堂々と力強く演じ話題に
――2024年の年明けすぐに放送された『アイドル誕生 輝け昭和歌謡』では、山口百恵さんを演じていました。大先輩ということでプレッシャーもあったと思いますが、歌唱シーンも含めとても素晴らしかったです。
吉柳:本当ですか! ありがとうございます! ただ、あまりにも存在が大きすぎて、どう演じたらいいのか正解がわからなかったというか、いろいろな出来事や気持ちにしても、結局のところご本人にしか正解はわからないじゃないですか。
――確かにそうですね。
吉柳:そのなかで私が台本からどこまで汲み取れるか……誰もが知っている方なので「そうじゃない」と言われてしまうプレッシャーはありました。それでも佇まいや雰囲気を少しでも出せればと思ったので、撮影前に当時のオーディション映像やラストコンサートを拝見して。
――いかがでしたか?
吉柳:特に“目”が印象的でした。視線があまり動かないんですよ。常にジッと先を見ているイメージというか、いろいろなところで“覚悟”を持たれていたんだなって感じました。
――ドラマのクライマックス、レコード大賞を獲れず無言で会場を去っていくシーンが印象的でした。
吉柳:あのシーンは私も本当に悔しくて、もういてもたってもいられなくて。思わず立ち去ってしまう気持ちが理解できました。それだけのめり込んでいました。
――『ブギウギ』の水城アユミもインパクトがありましたね。大先輩で国民的スターであるスズ子(趣里)に堂々と立ち向かってました。
吉柳:彼女はとても素直な子なんだと思います。あまりにもまっすぐで、歌手としてスズ子に勝たないといけないという強い意志や欲をそのままぶつけて、肝が据わっているなと。
――共感できる部分はありましたか?
吉柳:スズ子の圧倒的な力を目の前で見せられて、ちゃんと砕かれる感覚、とても共感できました。どうしても勝てない自分の未熟さをわかりながら、『ラッパと娘』を歌うシーンでは「爆発するぞ!」という気持ちとともに、私も彼女と一緒になって本気でぶつかっていきました。
――ドラマといえば、2025年1月スタートの日曜劇場『御上先生』にレギュラー出演されるそうですね。
今回、私が演じる椎葉春乃はとある難しい問題を抱えている子ですが、ストーリーが進むにつれ、それが少しずつ明らかになっていきます。最初は辛くて台本が読めませんでした。なぜこのタイミングでこの役に出会ったんだ、というか引き寄せられたのか。同時に私自身、向き合いたくない自分の弱さとも向き合わざるを得なかったですし。私は演じることでしか彼女を救えないので、全うするしかない、という気持ちで今はいっぱいです。
◆これからも「答え」を求めて考え続けていく20歳
――ご自身で把握している自分の性格は?
吉柳:基本的に「面倒くさい」ってよく言われます(笑)。
――どう面倒なんですか。
吉柳:とにかく思考が止まらないんです。何か1つのことが頭に浮かんだら、それについて10深掘りしたいんですよ。ひたすら考えて考えて、書き起こしてはまた考えて……。突き詰めていくうちに派生した思考が意外と答えだったりするんですけど、最近「あなたのそれはもはや哲学だから、答えはないんだよね」と言われて「そういうことか!」と。でも答えをだしたいから、今はいろいろな本を読み始めています。
――たとえばどんな本を?
吉柳:エッセイがすごく好きで。キム・ユウンさんの『すべての人にいい人でいる必要なんてない』とか、Fさんの『20代で得た知見』とか。
――吉柳さんは今、たくさんインプットしている時期なんですね。
吉柳:やっぱり、みんな考え方が違うから「理解できない」と遠のけることは簡単にできるし、それも自分を守るために大切な一つの生き方だとは思います。でも、私は否定されたくないし、「間違っている」と言われるのが苦手だから、相手に対してもそうありたいんです。
――なるほど。
吉柳:ここからが私の面倒くさいところなんですけど、「間違っていることなんてない」と断定している時点でこれも否定なのではないか? と。そう思ったらもう止まらなくて。そんなことが365日ひたすら頭のなかで行われています。なので、常に周りの人たちからは「いったん止まりなさい」と言われてます(笑)。
◆挫けた分だけ、強い気持ちで挑んてきた
――改めて2024年を振り返るとどんな1年でしたか?
吉柳:てんこ盛りでした。仕事でもプライベートでも大きな成長がたくさんありました。基本的に私、ネガティブ思考なんですけど、その後ろ向きも良い後ろ向きだったと思います。
――と、いいますと?
吉柳:後ろ向きだからこそ演じられた役との出会いもそうですし、悩んでいるってことは私、今、しっかり考えられているんだと思うし。後ろ向きだけど確実に前へ進んできたと言える1年でした。無理に前向きである必要なんてなく、自分は自分のままでいいんだって。
――では、2025年はどうしたいですか。
吉柳:大きな目標としては「幸せになりたい」です。「このままでいい」という自分を受け入れただけではまだその先には進めていないと思うし、それが怠惰にならないよう気をつけたいです。
自分を大切にするのと同じくらい他人も大切にしたいので、自分が悩んできたことの解決策を見つけつつ、誰かのためにも生きられるようになりたい。あとは、全方向で戦っていける俳優になりたいです。映像作品、舞台、アーティストとして「使える」と思ってもらえる存在になりたいですね。
考えたり経験したりすることが多ければ多いほど、それが知識になってどこかで役立つと思うので、しんどいことだろうが楽しいことだろうが全部経験したいです。とにかくそれが一番です。
――思考が止まりませんね。
吉柳:私にとって大事な作品の一つでもある『ここは今から倫理です。』の原作をこないだひさびさに読み返して大号泣したんですけど(笑)、そこにでてくるパスカルの「人間は考える葦である」という言葉は一生忘れません。
あと私、自分の生命力だけは信じてます。ゴキブリ並みに強いです(笑)。みんなからはメンタル弱いと思われがちなんですが、めっちゃ体当たりしてめっちゃ傷ついた後でも、もう一回体当たりしていく力だけはあるんです。挫けることはものすごく多いですけど、その挫けた分だけ、這い上がってやる!という強い気持ちで挑んできました。
【吉柳咲良】
’04年、栃木県生まれ。’16年「第41回ホリプロタレントスカウトキャラバン PURE GIRL 2016」グランプリ受賞。’17年、ミュージカル『ピーター・パン』10代目ピーター・パンとして俳優デビュー。’24年、『Pandora』でソロアーティストデビュー。主な出演作は『天気の子』『ここは今から倫理です。』『アイドル誕生 輝け昭和歌謡』『ブギウギ』『光る君へ』など。最新出演作である日曜劇場『御上先生』は’25年1月TBS系にてスタート
<撮影/鈴木大喜 取材・文/中村裕一 スタイリング/hao 衣装協力 ALM.(ブーツ)>
【中村裕一】
株式会社ラーニャ代表取締役。ドラマや映画の執筆を行うライター。Twitter⇒@Yuichitter