2024年12月31日、「第75回NHK紅白歌合戦」(以下、紅白)が放送され、日本の大みそかを彩りました。今回は2019年から紅白取材を続ける記者が、リハーサルの裏側などを振り返ります。
●紅白取材の申し込み
コロナ禍以前は「FAXで企画書を送る」が恒例だった紅白ですが、ここ数年はメールで企画書を送るスタイルに変更されています。2024年もNHK広報部に向けてこれまでの取材実績や過去の紅白記事をまとめたメールを「クリスマスごろに送付してくれ」とのことだったため、12月25日に送信。
12月27日には、3日分の紅白リハーサルスケジュールが届き、無事に取材許可が下りました。
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●以前の取材スタイルは――
ここ数年ガラッと取材スタイルが変わった紅白ですが、以前のスケジュールはどんな形だったのか、2019年の取材スタイルを振り返ってみましょう。
●2019年の紅白取材スケジュール
12月24日:入館証受け取り
12月28日:音合わせ(板踏み)
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12月29日:音合わせ
12月30日:リハーサル(本番衣装/顔合わせセレモニー)
●2019年の取材ポイント
・午前5時ごろからNHKホール前に整列
・入館後は「囲み取材撮影」「ホール内でのリハーサル撮影」いずれかを選択して列に並ぶ
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・スマートフォンの電源は必ずOFF(利用発覚時はその場で取材終了の可能性あり)
アーティストが登場して立ち位置の確認を行う「板踏み」、音響をチェックする「音合わせ」などがNHKホール内で展開され、報道陣はその様子をスチール撮影したり、メモしたりしていくのですが、初日はほとんどのアーティストが“私服”で登場するのが見どころの一つでした。
●2024年の紅白取材スケジュール
12月27日:取材スケジュールがメールで到着
12月28日:音合わせとコメント
12月29日:音合わせとコメント
12月30日:音合わせ・司会と制作統括がコメント
●2024年の取材ポイント
・各日程のスケジュールに合わせてNHK放送センターの指定場所に集合
・一般メディアチームと記者クラブチームで取材方法は異なる
・音合わせの様子は事前に撮影された映像を見る形式
・記者クラブ(テレビ・新聞チーム)はコメント取材で質問権あり
・一般メディアチームは中継映像を元に記事化
取材については「囲み取材可能な会見場」に入る記者クラブチームと、「囲み取材の中継」が映し出される一般メディアチームの2グループに分けられており、ねとらぼ編集部は「囲み取材の中継」のチームに割り振られました。
初日となる12月28日は、正午ごろから受付が開始。名刺や身分証などの確認を経て3日間取材で使用するスタジオに通されました。
●長机供給&コンセント設置
今回も2023年と同じスタジオが取材会場でしたが、驚いたのは長机が並んでいたこと。
2023年の初日には長机の設置台数が少なく、パイプ椅子に腰かけて、膝の上にノートPCを乗せて記事を執筆する記者が目立ちましたが、なんとこの日は16台もの長机が設置されていたのです。
しかも机の上には3口のコンセントも設置されており、「充電用コンセント提供中:携帯電話やノートPCの充電にご利用ください」のはり紙が! これには多くの記者がありがたがっていました。
リハーサルの開始直前にはNHKの広報チームから自己紹介が行われ、リハーサルが「音合わせ映像だけ」「コメント映像だけ」「音合わせとコメント映像の両方」の3種類存在することが説明されました。またスクリーンに映し出される映像については一切撮影厳禁となるものの、音声の録音は可能とのアナウンスもあり、2023年同様従来の「スマートフォンの使用は厳禁」スタイルがかなり緩和された様子でした。
●NHK紅白取材必需品アイテム
いよいよリハーサルの裏側に迫る前にここで、ねとらぼ読者の皆さんがいつでも紅白取材に出かけられるように、紅白担当記者厳選の「必需品アイテム」をご紹介します。
●アツアツのドリンク
一般メディアが通されるスタジオは普段、テレビ番組の収録を行うスタジオのため、とても広く、寒い場合が多いです。そのため、長時間にわたる取材で体を冷やさぬようアツアツのドリンクが必須となります。
●栄養ドリンク(お昼ご飯)
紅白の取材は休憩時間が少ないこと、また、スタジオ内での食事は禁止(飲み物は可)とされているため、数人の交代制で取材に臨むメディアが多いのですが、ねとらぼ編集部は1人参戦のため長時間の離席は不可能。そのため今回は朝食をしっかり摂ったうえで栄養ドリンクを準備しました。
●防寒ブランケット
室内なので大丈夫だろうと思いきや、性質上底冷えしやすいスタジオ。足元が特に冷えるので防寒対策としてブランケットを準備していました。このブランケットは、寒くないときにもお尻の下に敷いておくと、座布団としても活躍します。長時間パイプ椅子に座ることになるので、ちょっとした対策で疲れ具合がかなり変わります。
●貼るカイロ
こちらも防寒対策グッズの定番。出演者の氷川きよしさんも出演者全員でのリハーサル時に愛用されていたそうで、別の出演者が「寒い」と話した際に自身が貼っていたカイロを手渡していたそうです。さすがは氷川さん、お優しい。
●モバイルバッテリー
今回の紅白では充電用コンセントの供給があったため出番はありませんでしたが、PC充電も可能なタイプの大容量のモバイルバッテリーを準備していました。不測の事態に備え、どんなときにもこのサイズのモバイルバッテリーを持っておくと安心です。
●ノートPC
これがないと始まらないというノートPCはどの記者もマストです。私はメモもPCで取るタイプなので、メモ帳とペンは用意していませんが、不測の事態に備えてPCは2台用意しておいた方がさらに安心です。
●急速充電グッズ
PCにもスマホにも使える急速充電コンセントとケーブルを準備しました。純正品は充電こそ早いのですが、重量がそれなりにあるため、今回はAnkerの製品を持っていきました。
●除菌グッズ
最後に除菌グッズ。大量のスタッフ、報道陣との接触があるため、万が一にもご迷惑をおかけしないよう、アルコール消毒できるウェットティッシュタオルを準備したほか、3日間ずっとマスクをつけていました。
以上のアイテムを引っ提げて、いざ紅白の取材がスタートです。
●初日:12月28日
リハーサルのトップバッターを飾ったのは白組初出場の新浜レオンさん。音合わせの映像は公開なしとなり、コメント取材には応援ゲストの所ジョージさんと、とんねるずの木梨憲武さんも登場するなど終始にぎやかな雰囲気でした。
取材はまずNHKの広報担当者から代表質問として「紅白出場に対する意気込み」に関する質問が1問。その後は記者クラブチームの記者が数問取材するという形式で、最後は芸能リポーターの方による「今年(2024年)を表す漢字1文字は?」という恒例の質問で締めくくるという形式。
初日は新浜レオンさんのほか、HY、郷ひろみさん、乃木坂46、THE ALFEE、あいみょんさん、天童よしみさん、ME:Iさん、櫻坂46らが取材に応じました。
特に印象的だったのは天童よしみさんのリハーサルで、多くの出演者の前で歌唱するという演出が組み込まれていたため、「MISIA」「石川さゆり」などのプラカードを首から下げた紅白スタッフたちが登場。おそらくダンス経験者だと思われるスタッフの姿も数人確認でき、ピリピリした雰囲気が続いていたリハーサルの中でスタッフたちも束の間笑顔を見せていました。
●2日目:12月29日
2日目は9時45分頃から受付がスタートし、21時終了予定とかなりの長丁場です。
トップバッターを飾ったのは白組初出場のこっちのけんとさん。リハーサルから迫力いっぱいの歌唱とダンスを見せるなど、終始楽しそうな様子が印象的でした。
この日はこっちのけんとさんのほか、Omoinotake、三山ひろしさん、LE SSERAFIM、Mrs. GREEN APPLE、TOMORROW X TOGETHER、BE:FIRST、Superfly、坂本冬美さん、Da-iCE、JO1、石川さゆりさん、ILLIT、純烈、山内惠介さん、TWICE、南こうせつさん/イルカさん、緑黄色社会、Creepy Nutsの19組が登場。
リハーサル最多19組の取材となることもあり、記者は初日から比べると倍増しています。
記者の間で注目が高かったのは、初出場の「Number_i」で、「うわ〜Number_iリハ公開なしかぁ」「一番注目してたんですけどね」と残念がる声も聞かれました。
2日目も初日と同様、リハーサルの進行状況やコメント取材の開始時間目安などが逐次伝えられていたほか、複数人のアーティストの場合は、立ち位置とアーティストの名前(読み仮名)が貼りだされていきます。
コメント取材に関してはまずNHKの広報広報担当者から「○○さんです!」とアーティスト名が紹介されたのちにご本人が登場。スチール撮影を経て質問という形式になるため、中継映像を元に記事を執筆する一般メディアチームは、スチール撮影のタイミングでメンバー名が貼りだされるボードに駆け寄りメモをして席に戻るという流れを取るのが主流でした。
またスチール撮影のタイミングでは中継スタジオにいるNHK広報のスタッフから「並び順をご紹介させていただきます。左から○○さん、○○さん、以上です」と言った形で口頭での並び順紹介も入るので、それも大変ありがたかったです。
この日はリハーサルスタートからほぼノンストップでスケジュールが進行していきましたが、14時22分時点で「15分の巻き(スケジュールよりも早く進行している)」との情報が入り、昼食休憩はできないと判断。栄養ドリンクを補給して後半戦に備えました。
また、同日は韓国・務安国際空港にて、航空機が爆発炎上する事故が発生したこともあり、会場にいる記者が紅白取材と同時進行で同事故の記事に対応している姿も見られたほか、「TWICE」「LE SSERAFIM」「ILLIT」「TOMORROW X TOGETHER」など多国籍グループの出場について心配する声も上がっていました。
さらに大幅な「巻き」の中、TWICEのリハーサルが押しているとの情報が入り、当初予定されていた順番を変更して、南こうせつさん/イルカさんのコメント取材を先に行うとのイレギュラー対応も。その後公開されたTWICEのリハーサル映像では、音響トラブルが発生していたような様子が見られましたが、メンバーは落ち着いてマイクやイヤーモニターを確認していたほか、JIHYOさんはイヤーモニターを外してアカペラでの歌唱を披露するなど、堂々とした様子が見られました。
そして最後のCreepy Nutsはリハーサル映像の公開こそなかったものの、コメント取材では笑顔を見せてサービストークする場面も多く、大いに盛り上がった2日目となりました。
●最終日:12月30日
リハーサル最終日となる12月30日は17時ごろに受付が始まり、19時ごろ終了の流れに。この日は水森かおりさんの音合わせ、コメント取材。そして司会の伊藤沙莉さん、有吉弘行さん、橋本環奈さん、鈴木奈穂子アナウンサー、紅白制作統括の大塚信広チーフ・プロデューサー(CP)が登場し、取材に応じました。
大塚CPは星野源さんの楽曲変更について「反響がありましたので、それを受け止めて」触れながら、「自信を持ってお届けできると思います」とコメント。
演出については「これまで発表したものが全てです。楽しんでいただければと思います」としつつ、本番ではB'zが「おむすび」の主題歌「イルミネーション」を中継の形で披露後に、サプライズでメインステージに登場。「LOVE PHANTOM」「ultra soul」のメドレーを披露するという演出でNHKホールに集まった観客が総立ちとなったほか、お茶の間を大興奮させるなど、日本の大晦日を大いに盛り上げました。
●光るNHK広報の気遣いと、変わり始めた報道陣
今回も「今、リハーサルが押しているという情報が入りました」「15分巻いて始まる可能性があります。皆さんの近くにいらっしゃった記者の方で姿の見えない方がいらっしゃったら教えてください」「もし巻いて始まったらご都合が良くないという方はいらっしゃいますか」と随時、報道陣を気遣っていたNHK広報チーム。
紅白本番に向けて大道具が運ばれるなど文字通りバタバタしていた待機スタジオ周辺ですが、外には「取材中 お静かに」とのはり紙が貼られるなど、取材に差し支えが出ないようにとの配慮もされていました。
またコメント取材時も終了直後に「NHK広報○○です。先ほどのコメント取材での回答ですが、正しくは○○となります」といった訂正・補足も非常にスピーディーに入り、さすがの対応力に驚かされました。
そしてこうしたやり取りの中で個人的に驚いたのが「報道陣のヤジの減少」です。コロナ禍以前の紅白取材といえばカメラマンからアイドルに向けて「もっと笑って!」などの怒号が飛ぶ場面も少なくありませんでしたが、今年は「はい、いい感じですよ〜! かわいく撮れてます〜!」など態度がかなり軟化。前述のように情報の訂正・補足が入っても以前のように不満を口にする人はおらず、大きな混乱はありませんでした。
また紅白本番に向けてのレイアウト変更が必要なため、取材終了後はなるべく早くスタジオから退出する協力を求められますが、ここでも報道陣はきびきび対応。本来は一刻も早く記事を配信させたいところですが、取材終了5分後にはほぼ全メディアが退出を完了させていました。
●やっぱりちょっと寂しい取材スタイルの変化
取材申し込みからリハーサル取材3日間を通して「スムーズ」という言葉がぴったりなほど順調だった今回の取材。
スムーズだったからこそ、やはり「リハーサル自体が事前収録の映像視聴」のスタイルに変更されたこと、「記者クラブのみ質問権があるコメント取材」には少し寂しさを感じます。
例えばNHKが用意してくれているカメラはリハーサルの様子を良く映し出しており、分かりやすさはあるものの、取材は「記者の目」を通して「どこに注目するか」が媒体ごとの“味”につながるため、同じ提供素材を全員で視聴するスタイルの場合「目」が固定されてしまうのでどうしても“味”が弱くなりがちなのです。
特に「リハーサルそのもの」よりも、「リハーサル前後」の流れ(アーティストの入場、あいさつ、雰囲気、私服のファッションチェック)、空気感などを重視している媒体にとっては、やや物足りない感は否めませんでした。
また「記者クラブのみ質問権があるコメント取材」については、基本的には良い取材手法だと思いましたが、記者クラブの記者が詳しくないアーティストの登場時に質問が2問のみになるなどする場面も見られたため、一般メディアから残念がる声も上がっていました。
ただ、このような取材スタイルに変更された背景には、感染症対策はもちろんのこと、報道陣由来のトラブルを減少させる狙い、収録となるため万が一リハーサル中にトラブルが発生しても記事化されない、アーティストが報道陣の目を気にせずリハーサルに取り組めるなどのメリットがあると考えられます。
元来リハーサルはアーティストと番組のために行うもので、それを取材させてもらえるという状況だけでもありがたいため、今後もこのようなスタイルの中、どのような伝え方が最も良い方法なのかを考えることが我々報道陣の課題になっていくとも感じました。
紅組34勝、白組40勝の中、白組の優勝で終幕した「第75回NHK紅白歌合戦」。第76回ではどのような演出で大晦日に華を添えるのか、今から楽しみです。
本年もねとらぼをよろしくお願いいたします。
(Kikka)
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