初の自著『年収300万円で心の大富豪』を出版したり、念願のFP1級・一種外務員資格試験に合格したりと快進撃が続くサバンナの八木真澄さん(@yagimasumi1974)。吉本興業の「営業出演本数ランキング」でも10位以内にランクインしており、話題性にも事欠かない存在だ。
インタビュー前編では、著書を出版した経緯やFP1級・一種外務員試験合格後の展望について聞いた。後編では、営業についてうかがった。大ピンチの中で見つけた「営業の神髄」とは?
◆営業-1グランプリのライバルは?
――YouTubeで「営業-1グランプリ2024総決算スペシャル」がアップされ、2024年の八木さんの営業出演回数は71回で4位(2023年は66回の3位)でした。今一番のライバルは誰ですか?
八木真澄(以下、八木):うーん、ぶっちゃけライバルはいないですし、そういうことでもないと思うんですよね。そもそも営業という仕事は、吉本興業が物産展やヒーローショーなんかの他のイベントと競って得るものだと思いますし……。
僕が何か意見できるような立場にあるわけじゃないですが、吉本内で少ないパイを奪い合っていても仕方がない。まずは吉本がひとつのチームとなって、他の候補に勝たないとダメだと思うんです。なので、吉本の芸人はライバルじゃなくてファミリーです。他の営業芸人それぞれがすごいスキル持っていますし、本当にリスペクトしかないです。しいて言うなら、ライバルは他のイベントです。
――吉本の芸人はファミリー、ライバルは他のイベント……。その意識があるから、2024年は2023年よりも全体的に営業件数が増えたのかもしれないですね。なんだが、経営者みたいな考え方ですね。
八木:自分では意識していませんでしたが、もしかしたら、お金の勉強をはじめてから、世の中の動きなんかも、少しずつ理解しだしたのかもしれないですね。
◆「犬と20分漫才をする」より強烈な営業
――動画の中にはありませんでしたが、2024年一番印象に残っている営業は何ですか?
八木:2つあります。これまでの「犬と20分漫才をする」という強烈な営業よりも、めちゃくちゃ刺激的で、めちゃくちゃ勉強になったのがありました。
1つは、ある業界の売り上げアップと人材確保について語るという講演会です。お客さんは60代くらいの経営者層。自分の引き出しにないリクエストだったんで、話をもらった瞬間に背筋が寒くなりましたね。
業界のことも含めていろいろ勉強したり、奥さんに協力してもらいながら資料を作ったりしましたし、先方とも打ち合わせを重ねて、何とかやり切りました。めちゃくちゃ苦労したんですけど、ひとつ新しいジャンルが開発できたんで、逃げずに挑戦してよかったです。もう基礎はできたので、次に似たような依頼が来ても大丈夫です。
◆営業の神髄が見えた「NG3連発」営業
――逃げずに挑戦した結果、講演内容の幅が広がったんですね! ちなみに、もう1つはどんな営業ですか?
八木:タンクトップ・ギャグ・客イジリNGの営業です。僕の芸は、ギャグと客いじりで成立してるようなものなのに……。最終的に、この3つのNGが決定したのは講演の直前で、どうしていいかわからないまま会場へ行って、いつものようにスタートしました。でも、話しはじめてすぐに、お客さんの気持ちがスッと離れていくが分かりました。なので、「すいません」と一言謝ってから、テレビの全レギュラーがなくなった日のことを話しました。こんな感じです――。
『僕は今日、営業でここに来てるんです。何でかっていうと、僕ね、悲しいけどレギュラー全部なくなったんですよ。相方はテレビ出てるけど、僕には何もないんですよ。
現場マネージャーをまとめるチーフマネージャーという人がいるんですけど、なかなか会うこともないし、電話がかかって来ることもないんですが、その人から携帯にかかってきたんです。この人からの電話は、いいことか悪いことのどっちかです。
今でも忘れられないんですけど、渋谷の無限大ホールを出た時にチーフマネージャーから電話がかかってきて、約10年続いてた全国ネットの2時間のレギュラー番組がたった1分の電話で終わったんです。渋谷の街で、僕、立ち尽くしたんです』
そんな話をしたら、遠ざかっていたお客さんの気持ちが帰ってきて、全員の目がグーっと僕に集まったんです。その時に、大事なのはウケるとか、スベることじゃなくて、お客さんの心を揺さぶることなんだって気づきました。そして、お客さんの心を揺さぶるのは、芯を食った話なんだって。それからは、いろいろな講演で自分自身のストーリーを話すようになりました。お客さんの食いつきもいいですし、本当にやってみてよかったです。
◆ピンチをチャンスに変えた極真空手の教え
――1回の舞台で、お客さんの心を掴む感覚を得たんですね。
八木:そういうと聞こえはいいですけど、勉強と同じで、日々の訓練があったからだと思います。すでにベースができていたから、ピンチがチャンスになったんです。
高校時代にはじめた極真空手に「千日をもって初心とし、万日をもって極みとする」という教えがあります。3年続けてやっとスタートラインに立ち、30年続けて一人前と言える、という意味です。この教え通りに手を抜かずに、ひとつひとつの営業と向き合ってきたので、その積み重ねが形となったのでしょう。
FPに関しても同じで、勉強をはじめて3年なので、ようやくスタートラインに立ったところです。基本的な仕組みや方程式は理解できましたが、今後どこかの営業で家庭の事情や法律なんかも絡む複雑な相談をされるかもしれません。僕はどんなことからも逃げないと決めているので、それに応えないといけません。そのために、毎日勉強を続けてるんです。
◆「楽屋」の空気感を次の世代に伝える
――最後に、今後の目標を教えてください。
八木:営業に関しては、お金にまつわる話で日本全国津々浦々をまわりたいですね。イチ芸人としては、代々受け継いできた「吉本の空気感」を忘れないこと、それを次の世代の芸人に繋げることだと思います。
今は昔と違ってSNSが発達していて、一般の方でも知名度が高い人もいますし、YouTubeを見れば、面白いことをやっている人がたくさんいます。つまり、芸人と芸人じゃない人との違いがなくなってきているんです。
でも、だからといって、芸人が面白くなくなったワケではありません。お笑い怪獣と呼ばれる明石家さんまさんは、昔からずっと面白いから、今でもバラエティー番組の最前線におられます。テレビでよく見る千鳥も、若手だと霜降り明星とかも、それぞれ違った面白さがあります。
独自の面白さを持つ芸人が何人もいるから、「吉本=面白い」というイメージがあって、他の芸人にも声がかかると思うんです。だからこそ、諸先輩方が築いてきた「吉本=面白い」というイメージを損なわずに、守り続けないといけないと思うんです。そのためには、「吉本の空気感」を大事にして、次に繋げることなんです。
◆「前時代的な部分」だから貴重
――吉本の空気感とはどんなものですか?
八木:言葉ではうまく言い表せないですし、目に見えるものでもないんですが、あえて言うなら「楽屋」ですね。出番の合間にご飯を食べている芸人もいれば、スポーツ新聞や雑誌を読んでる芸人もいるし、その横でたわいもない話をする芸人もいたりする。そこには、吉本興業が110年の歴史で育んできたたくさんのものが詰まっています。お金では買えない、吉本の芸人だからこそ見ることができて、経験できるものばかりです。
もちろん現代においては、いろいろと効率的ではなかったり、前時代的な部分もあると思います。だからこそ貴重だと思うんです。
自分より1日でも遅く入った芸人は売れている、売れてないに関係なく、誰もが後輩で、お金がなくても先輩がジュースをおごったりする独自の文化が生まれて、それが受け継がれてきた場所です。昔から続く楽屋の景色を守り続けることが、吉本のお笑いを先輩から後輩に繋いでいくことなんだと思います
<取材・文/安倍川モチ子 撮影/星亘>
【八木真澄】
吉本興業所属。お笑いコンビ「サバンナ」のツッコミ担当。FPの資格を取得し、お金にまつわる営業でも活動中。初の自著『年収300万円で心の大富豪』(KADOKAWA)が好評発売中。X:@yagimasumi1974
【安倍川モチ子】
東京在住のフリーライター。 お笑い、歴史、グルメ、美容・健康など、専門を作らずに興味の惹かれるまま幅広いジャンルで活動中。X(旧Twitter):@mochico_abekawa