2025年のNHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』が1月5日、放送を開始した。遊郭の街・吉原で生まれ育ち、日本のメディア産業/ポップカルチャーの礎を築き上げた「蔦重」こと蔦屋重三郎の生涯を描く作品で、NHK放送100年企画の目玉として注目を集めている。
参考:2025年大河ドラマ、蔦屋重三郎関連本続々登場ーー江戸時代のカリスマ編集者が現代でも魅力的な理由とは
江戸文化に詳しく、直近でも『Art of 蔦重: 蔦屋重三郎 仕事の軌跡』(笠間書院)や『仕事の壁を突破する 蔦屋重三郎 50のメッセージ』(飛鳥新社)など、蔦屋重三郎についての著作を多数上梓している時代小説家/江戸料理文化研究所代表の車浮代氏は、第一話を観て制作陣のこだわりに感心したという。
「吉原という場所が非常にわかりやすく説明されており、素晴らしいセットとともに当時の風俗がきちんと描かれていました。女将たちが眉をつぶしていたり、行燈部屋に河岸女郎が押し込められていたり、宴会の台の物が翌日のお弁当になっていたり……と細かな部分にこだわりを感じますし、普通の時代劇だったら“チャキチャキ(の江戸っ子)”というところを語源とされる“ちゃくちゃく(嫡々)”と言っていたり、時代背景に合わせた言葉遣いも面白い。そのなかで、例えば<大文字屋は河岸女郎にかぼちゃを食べさせて成り上がった>という趣旨のセリフが出てきますが、彼の狂歌名が加保茶元成(かぼちゃのもとなり)だという説明は一切なく、わかる人はわかる、という小技も利いています」(車氏)
放送後、衣服を剥ぎ取られ、打ち捨てられた遊女たちのショッキングな姿が話題になったが、このリアリティのある描写にも、蔦重の人物像を伝える上で大きな意味があるという。
|
|
「光だけでなく闇の部分をしっかり描くことで、江戸のメディア王になる蔦重が背負っていた大義が強調されています。蔦重は何も持たず、周囲の人々も厳しい状況にあるなかで、人のために力を尽くすことを生き甲斐にして、多くのアイデアを実現していった。NHKの大河ドラマで“裸の死体”が描かれたことに多くの視聴者が衝撃を受けましたが、仏教用語でいう忘己利他の精神に説得力を与える、意義深いシーンだったと思います」(車氏)
初回は視聴率こそ振るわなかったものの、Xでは「#大河べらぼう」がトレンドになり、漫画やアニメを含む“クールジャパン”の再起動、新たなジャポニスムという文脈からも注目を集めている本作。第一話にも漫画文化に通じる描写があった。
「鱗形屋孫兵衛のくだりで、恋川春町の『金々先生栄花夢』という、いわば吉原のPR誌が出てきますが、吉原再建ですら放ったらかしだった鱗形屋があんな黄表紙(草双紙)を考えられるとは思えず、これも蔦重のアイデアでしょう。黄表紙は後の漫画文化にも通じるものがあり、蔦重をその源流のひとつと見ることもできそうです。日本のコンテンツが海外であらためて高く評価されているなかで、多くの人の関心を集める作品になっていくのではないでしょうか」(車氏)
前作『光る君へ』に続き、“戦”を描かない大河ドラマとなった『べらぼう』。だからこそ、視聴者が共感して学びを得る作品になっていってほしいと、車氏は今後への期待を語る。
「明るい話題が少なく、自分さえよければいい、という考えになりがちな昨今ですが、がむしゃらに人のために生き、そのために求められる以上のアイデアを次々と実現していく蔦重の姿は痛快です。武術ではなく、知の力で上り詰めていく姿には、私たちが見習える部分が非常に大きいと思いますし、武将を描く大河より身近で応援したくなるドラマになっていくのでは。ネットではすでに評判ですし、蔦重関連の本も山ほど刊行されていますので、期待は大きいですね」(車氏)
|
|
初となる“江戸庶民の大河”で、横浜流星が演じる稀代の出版プロデューサー・蔦屋重三郎は今後どんな姿を見せてくれるのか。天才・平賀源内(安田顕)が登場する第2話は、1月12日放送だ。
(橋川良寛)
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 realsound.jp 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。