社会人が勉強する上で、私が最も重要だと思っていることがある。
【画像】仕事における人の成長に関する「70:20:10の法則」。
それは、十分な勉強時間を確保することだ。おそらく、多くの人は反論するだろう。「大学受験や資格勉強でもないのにそんなに時間が必要か?」と。
確かに週に20時間、30時間も勉強する必要はない。しかし、毎日数分、週に1時間程度の勉強では「ゼロ勉強社会人」を卒業したとはいえない。それでは、どれぐらいの勉強時間を確保すべきなのだろうか?
●社会人に「勉強時間」はどれくらい必要なのか?
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その問いに答えるため、人材教育にまつわる有名な「ロミンガーの法則」を用いて考えてみたい。「ロミンガーの法則」とは、仕事における人の成長に関する影響をまとめたもので「70:20:10の法則」とも呼ばれている。3つの割合がある通り、人の成長に大きな影響をもたらすのは以下の3種類であり、それぞれ、
・業務体験:70%
・他者からの薫陶:20%
・研修/読書:10%
とされている。
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そこで年間の労働時間を一人当たり2000時間として計算してみる(1日8時間×月21日間労働×12カ月=2016時間)。これを「70:20:10の法則」で分解してみると、
・業務体験→1400時間
・他者からの薫陶→400時間
・研修/読書→200時間
となる。ここで気になるのが200時間の「研修/読書」だ。この200時間は、自ら特別に意識して確保すべき勉強時間のことであり、この時間を月平均にすると、毎月16〜17時間を研修や読書といった新しいことへの学びの時間として作らなければならないという計算となる。
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これを1日に換算すると、おおよそ「毎日1時間」となる。
●忙しい社会人にお勧めするのは「仕事中勉強法」
とはいえ、こういった時間を確保できるかというとなかなか難しいはずだ。資格試験対策のためなら半年や1年は一時的になら頑張ることはできる。しかし、10年も20年もコンスタントに月16時間も勉強し続けられるかというと、
「そこまでできない……」
「やれる自信がない……」
と受け止める人が大半だと思う。さらに年齢を重ねるごとに子育て、親の介護などいろいろなライフイベントがめじろ押しだ。
そこで、私がお勧めするのが「仕事中勉強法」だ。私が提唱している社会人に特化した学習法で、時間がない人が就労時間内に本気で執り行う勉強法である(「本気でやること」がポイント)。
誤解がないようにしたいのは、職場で目先の仕事はそっちのけで隠れて勉強するといったことではない。自分に与えられた業務をしっかりとこなしつつ、そこに学び(勉強)の要素を取り入れていくという方法だ。
会社に貢献するためはもちろんのこと、将来の自分のためにも仕事をしながらしっかり勉強もするという形となり、一例を挙げると、
・企画書を書きながら「ピラミッドストラクチャー」を学ぶ
このように決めたら、まずは「ピラミッドストラクチャー」が紹介されている書籍を「水平読書」して知識を身に付け、職場では、会議中に「ピラミッドストラクチャー」を少しずつ実践しながらこの技術を体得していくのである。
その他にも、
・ランチのときに「フェルミ推定」のトレーニングをする
・飲み会の幹事を引き受けたら「ダンドリ力」を鍛える
・お客さまとの打ち合わせの際に「質問力」を意識する
など「仕事をしながら勉強にも励む」を常に実践するのだ。就労時間内だからダラダラ勉強している余裕がない。自然と集中できるから勉強の効果も高くなる。
●「仕事中勉強法」3つのポイント
社会人が勉強する上で仕事中に勉強するのが一番効率的かつ効果的だと私は考えている。そのやり方を「仕事中勉強法」と名付けた。この「仕事中勉強法」のポイントは3つある。
1. 仕事で結果を出そうとすること
2. ポータブルスキルに焦点を合わせること
3. 徹底して社内制度を活用すること
まず1つ目の「仕事で結果を出そうとする」から解説していこう。
仕事で結果を出すために勉強する――この発想は普通だ。誰だってそうするだろうし、そうすべきだ。しかし、そうではなく、「自分の勉強のために仕事で結果を出そうとする」と逆の発想をするのだ。自分の未来のために目先の仕事で結果を出そうとする。
そもそも効果的に勉強するには、多少なりとも負荷が必要である。なんとなく研修を受けたり、本を読んでも頭に入らない。
スキルアップもしない。結果を出そうとするから適度なストレスがかかり、その結果としてスムーズに知識習得ができるのだ。このやり方を選ぶメリットは2つある。
1. 社内で評価される
2. 気持ちよく継続できる
「社内で評価される」のは当たり前だ。本音は勉強のためだが、仕事で結果を出そうとして必死に勉強するわけなので、社内で評価されるに決まっている。
「気持ちよく継続できる」のも当然といえよう。どんなに将来に役立つ資格試験の勉強をしていたとしても、仕事に直結しないことに多くの時間を割いていると継続しづらくなっていく。
しかし、仕事で結果を出そうとして、「業務効率化のために、『ダンドリ』を勉強しています」「お客さまの購買心理を知るために、『行動経済学』の研修を受けてきます」といった姿勢をとれば、周りからも支持されるはずだ。
●「ポータブルスキル」に焦点を当てろ
「仕事中勉強法」の2つ目のポイントは「ポータブルスキルに焦点を合わせる」ことだ。
「ポータブルスキル」とは、一般社団法人人材サービス産業協議会(JHR)が開発した「業種や職種が変わっても持ち運びができる職務遂行上のスキル」のこと。これはビジネスパーソンにとって極めて重要な概念だ。
ポータブルスキルについて、詳しくは厚生労働省のWebサイトで確認できる。
大別すると、「仕事のし方」と「人との関わり方」の2つのスキルに分けられ、その中の各要素は下記の通りとなっている。
●ポータブルスキルを2つのスキルに分類すると
【仕事のし方】
・現状の把握
・課題の設定方法
・計画の立て方
・実際の課題遂行
・状況への対応
【人との関わり方】
・社内対応
・社外対応
・部下マネジメント
20年近くコンサルタントをしてきた経験からして、このまとめ方は素晴らしいと思う。とても重要な要素が抜き出されていて、これらのスキル向上が自分自身の市場価値(マーケットバリュー)を高めることになるに違いない。
ただし、表現が分かりづらいとも思う。抽象的すぎて何をどうしたらこれらのスキルが身に付くのかがイメージができない。従って本書の中では以下のように表現を変えたい。
●「コンセプチュアルスキル」と「ヒューマンスキル」
・「仕事のし方」=コンセプチュアルスキル(定義:複雑な事象を概念化して本質を把握するスキル)
・「人との関わり方」=ヒューマンスキル(定義:交渉や調整の際に円滑なコミュニケーションをとれる対人スキル)
このように「コンセプチュアルスキル」と「ヒューマンスキル」と名称を改め定義することで、何をどう勉強したらいいのか具体的なイメージを持てるだろう。この2つのスキルに着目する最大のメリットは、将来の仕事だけでなく、目の前の仕事にも役立つということだ。
●社内制度を活用しないのはもったいない!
「仕事中勉強法」3つ目のポイントは、「徹底して社内制度を活用すること」だ。
実務で役立つ研修などは誰でも受講する。なぜなら、その知識や技能を習得しないと自分に与えられた業務を遂行することができないからだ。これらは「マスト(Must)」の勉強といえる。
経理担当は簿記の勉強をしなければならないし、システムエンジニアはシステム設計やプログラミングを習わないと仕事ができない。
一方、先述したコンセプチュアルスキルやヒューマンスキルは「マスト(Must)」ではなく、どちらかというと「ナイストゥハブ(Nice to have)」の勉強となる。「あればよい」けれど「必須」ではないと受け止められがち。
なので、「『ロジカルシンキング』の研修を受けてみないか?」「『マネジメントスキル』をゼロから学べる講座があるが、どうだ?」と会社からすすめられても、
「時間があればぜひ受けたいのですが、最近忙しいので……」
などと言って断る人が実に多い。私自身がこういった研修の講師をしているので、この点は肌で感じている。
しかし、この姿勢は極めてもったいない。「忙しいから研修を受けられない」ではなく、「研修を受けるために、仕事のダンドリを整えよう」「日ごろから上司と対話を心掛けよう」と意識すべきだ。
その意識だけで、ポータブルスキル、ヒューマンスキル向上に役立つ。
せっかく手厚い社内制度があり、活用できる権限があるのにもかかわらず、まるで無関心の人はとても多い。以前、会社を辞めてフリーランスになった人が「独立してからは勉強するのにもお金がかかる。会社員のときにしっかりと社内制度を活用しておけばよかった」と言って、とても後悔されていた。
また、社内制度を活用すれば堂々と業務時間内に勉強できる。もし時間外であったとしても、それは残業として見なされる。
社内制度をよく知らないという人は、今すぐ確認したほうがいい。社内制度を利用せず、自分のお金で、しかも業務時間外にオンラインサロンに参加したり、コミュニティーに所属して時間を浪費したりするのはやめよう。
「楽しむこと」が目的ならいいが、純粋な勉強、スキルアップにはつながらない。勉強は原則、一人でやるものだから。
●著者プロフィール・横山信弘(よこやまのぶひろ)
企業の現場に入り、営業目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の考案者として知られる。15年間で3000回以上のセミナーや書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。現在YouTubeチャンネル「予材管理大学」が人気を博し、経営者、営業マネジャーが視聴する。『絶対達成バイブル』など「絶対達成」シリーズの著者であり、多くはアジアを中心に翻訳版が発売されている。
※この記事は、横山信弘氏の著書『トップコンサルタントの「戦略的」勉強法』(翔泳社、2024年)に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。なお、文中の内容・肩書などは全て出版当時のものです。
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