『べらぼう』歴代最低視聴率でも「面白い大河になる」予感。綾瀬はるかの“スマホ”は序の口、ハズレなし脚本家の狙いとは

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2025年01月12日 16:20  日刊SPA!

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『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~ 前編』(NHK大河ドラマ・ガイド)
NHKの新大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(日曜午後8時)が5日に始まった。第1回の個人全体視聴率は7.3%(世帯12.6%)。世帯視聴率は昨年の『光る君へ』の12.7%を0.1ポイント下回り、大河の歴代最低を更新した(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。
このまま沈むのか、それとも浮上するのか。先行きを読み通したい。まず関東地区の視聴率のみではフラットな評価を行いにくいので、関西と名古屋の数字も見てみたい。

◆世代別、性別にみた個人視聴率

■関西 個人7.1%(世帯12.0%)
■名古屋 個人7.3%(世帯13.2%)

 スタートダッシュに成功したとは言えないが、出だしでつまずいたとも言いがたい。それが妥当な表現ではないか。第1回で高視聴率が獲れなかった理由について、「遊郭だった吉原が舞台なので女性に敬遠された」との声もあるようだ。本当だろうか。確かめるため、性別、世代別の個人視聴率も見たい。

■M1(男性20〜34歳)1.1%
■M2(同35〜49歳)2.3%
■M3(同50歳以上)11.0%
■F1(女性20〜34歳)1.8%
■F2(同35〜49歳)3.5%
■F3(同50歳以上)14.7%

 実際の視聴者数は女性のほうがかなり多かった。虐げられていた女性たちの物語でもあるから、不思議ではない。また、主人公の蔦重こと蔦屋重三郎役の横浜流星(28)が女性に人気が高いことも見逃せないだろう。

 横浜は2011年にデビュー。2020年に日本テレビ『私たちはどうかしている』、2022年に映画『嘘喰い』、2023年に同『ヴィレッジ』、2024年に同『正体』にそれぞれ主演した。全身を駆使した躍動感のある演技をする人だが、それでいて目しか使わないような細かい表現も得意。『正体』では昨年の報知映画賞の主演俳優賞を受賞した。

◆格差と搾取の場だった吉原を舞台に

 第1回では蔦重が、女郎に満足に食事を与えない女郎屋の主人たちを怒鳴り飛ばした。蔦重よりはるかに格上の人間たちである。

「オレたちは女郎に食わせてもらってんじゃねぇか!」

 貧しい家から吉原に売られてくる女郎たちにとって、唯一の希望は食事が取れるようになること。ところが、病気だったり、稼ぎが悪かったりすると、十分な食事が与えられなかった。蔦重は女郎屋の主人たちに炊き出しの実行を訴えるが、一笑に付されたため、怒りを爆発させた。もっとも、蔦重の願いは聞き入れられず、それどころか義父で引手茶屋の駿河屋市右衡門(高橋克実)によって階段の2階から1階へ突き落とされてしまう始末。蔦重は無鉄砲なところのある青年らしい。引手茶屋とは客を女郎屋へ案内する茶屋である。

 一方で栄養不足と胸の病から女郎の朝顔(愛希れいか)が他界した。蔦重は幼いころに世話になったため、弁当を届けていたが、朝顔は手を付けず、腹を空かせた若い女郎たちに食べさせていた。かつての朝顔は花魁(位の高い女郎)だったものの、体を壊してしまったため、最下層の女郎が集まる河岸見世にまわされていた。

 朝顔の死や女郎屋の主人たちの冷酷ぶりにより、吉原が格差と搾取の場でもあったことが強調された。脚本を書いている森下佳子氏(53)は18世紀後期の江戸を描くことにより、現代社会の問題を浮かび上がらせようとしている。

◆江戸時代にスマホの地図アプリが…

 そう考えると、ナレーターの九郎助稲荷(綾瀬はるか)を擬人化し、花魁姿でスマホの地図アプリを使わせた演出も理解できる。森下氏は蔦重の時代と現代の垣根を低くしようとしているようだ。第1回の前半でスマホを登場させたのは早いうちにドラマのスタンスを示そうとしたのだろう。

 ムチャクチャな時代劇をやっているわけではない。過去にもNHKは同様のことをやっている。伝説の大ヒット時代劇『天下御免』(1971年)である。描かれている時代も全く一緒だ。

 今回は安田謙(51)演じている平賀源内には山口崇(88)が扮した。主人公だった。渡辺謙(65)が扮している老中・田沼意次は故・仲谷昇さんが演じた。

『天下御免』はゴミ問題や公害問題、受験戦争などを取り上げた。源内らが銀座の歩行者天国をぶらつく場面まであった。この作品を書いた故・早坂暁さんは、「現代の問題を探っていくと、(答えは)江戸時代に全部ある」と語っていた。すべて人間が起こす問題なのだから、そうなのかも知れない。『べらぼう』も負けてはいない。今後はアニメーションの挿入が予定されている。

 男性の視聴率が低かったのは名将や名将軍が登場しないせいでもあるだろう。歴史マニアの女性「歴女」が増えているものの、それ以上に男性には歴史マニアが多い。戦国武将が主人公の大河は男性の視聴率が高くなる。

 今回は合戦も一切出てこない。18世紀後期は元禄時代と幕末の間で、世の中は落ち着いていた。この時代が大河ドラマになるのは初めて。これまでの大河のスタッフは平穏なこの時代で物語をつくるのは難しいと考えたのではないか。

◆ハズレ作品が1本もない

 それでも面白い大河になると読む。理由はまず脚本に期待が出来るから。ドラマづくりのセオリーは「1に脚本、2に俳優、3に演出」である。森下氏は過去にTBS『JIN-仁-』(2009年) 、NHK『ごちそうさん』(2013年) 、同『大奥』(2023年)などを書いてきたが、ハズレ作品が1本もない。

 よしながふみ氏(53)の漫画を原作にした『大奥』は放送文化基金賞の優秀賞などに輝いた。男女逆転の世界を舞台とする難しい作品だったものの、森下氏は難なく書き上げた。今回もデリケートな問題が絡む吉原が舞台になるので、脚本執筆は簡単ではないだろうが、挫折することはないはず。ちなみに制作チームは『大奥』と一緒である。

◆第1回のストーリーをさくっと振り返る

 第1回は吉原も火の海に包まれた明和の大火(1772年)から始まり、蔦重が7歳のときに親から捨てられたことや駿河屋市右衡門(高橋克実)に拾われたことが説明され、のちに火付盗賊改方になる長谷川平蔵(中村隼人)と蔦重の出会いや田沼への請願などが描かれた。これだけのエピソードを無理なく1時間に収めたのだから、その構成力は傑出している。

 田沼への請願では警動を求めた。幕府公認の吉原以外にも品川、内藤新宿、千住などにあった女郎屋を取り締まってほしいと頼んだのである。そうすれば吉原に来る客が増えると考えた。

 この男は人のために生きようとしているらしい。明和の大火でも女郎たちの救助に奔走した。のちに浮世絵師の喜多川歌麿や東洲斎写楽らを見出し、その作品を世に広めたが、大衆を楽しませるためだったと考えれば、矛盾しない。蔦重を魅力的な人物に見せようとする森下氏のたくらみの第一歩は成功だろう。

 もっとも、田沼への請願は失敗に終わった。田沼は吉原以外の女郎屋が潰れることを憂慮。一方で吉原に客が来ないのは工夫が足りないからだと諭される。これが蔦重にとって値千金の助言となる。第2回以降でPR作戦を始めるつもりだ。

◆今後注目の俳優、そして展開は?

 女郎、女郎屋の女将による恋愛、戦い、友情も見ものである。まず蔦重の幼なじみで花魁・花の井(小芝風花)に注目だ。売れっ子である。やはり花魁の松の井(久保田紗友)は面倒見がよく、蔦重にとって頼りになる存在となる。さらに花魁に次ぐ座敷待ちの立場のうつせみ(小野花梨)が登場する。 松葉屋に所属し、自分専用の座敷を2部屋持っていた。テレビ東京『初恋、ざらり』(2023年)などで知られる小野は純情派のイメージが色濃いが、今回はどうなるか。

 女郎屋などの女将は既婚者なので、眉を剃っていた。そのうえ化粧が濃いため、ちょっと区別が付きにくいが、大黒屋の女将はりつ(安達祐実)。肝が据わっている。

 うつせみが所属する松葉屋の女将はいね(水野美紀)。元花魁である。蔦重の養母で駿河屋の女将はふじ(飯島直子)。飯島はデビュー33年にして時代劇も大河も初出演となる。

 ほかにも見どころは多い。その1つは徳川幕府内の暗闘。財政がピンチに陥り、改革を迫られ、田沼が先頭に立つものの、周囲は協力してくれるのか。田沼は足軽の家の生まれで、それが泣き所になっていた。ここでも格差社会なのである。

<文/高堀冬彦>

【高堀冬彦】
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員

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