―[貧困東大生・布施川天馬]―
東京大学は、日本トップクラスの大学だ。偏差値的な話でももちろん、世界大学ランキングで29位(2024年版タイムズ・ハイヤー・エデュケーションの調査による)で、国内外を問わず知名度は高いといえる。
研究設備だって国内トップクラスだ。日本中の学生たちが東京大学を目指して、受験戦争に明け暮れる。
東京大学に入学してみて、やはり素晴らしい大学だと感じた。同年代トップの頭脳を持つ人々に囲まれながら、最高クラスの研究の様子をみられる。もし進学先として迷っている人がいるなら、東京大学は間違いないと断言できる。
◆学生の評判が良くない東大の学食
ただし、一点だけ不満がある。学食がおいしくないのだ。
学食においしさを求めるほうが間違っているのかもしれないが、町のレストランやコンビニ弁当などのレベルが急上昇している昨今では、明らかに時代に取り残されてしまっている印象がある。
今回、周りの学生にも話を聞いたが、「おいしい」と話してくれる子は一人もいなかった。
私は、食が趣味だ。稼いだお金の大半は、おいしいものを食べるために使う。だからこそ、東大入りたての頃は苦痛だった。おいしくない学食を、おいしくないとわかっているのに、食べざるを得なかったから。
今回は、日本トップ大学である東大の学食の残念さについてお伝えする。
◆早い、高い、おいしくない
「早い、うまい、安い」はかつての吉野家のキャッチコピー(現在は「うまい、安い、早い」)。だが、学食に求めるものと共通する部分も多いだろう。
授業に部活にバイトにと忙しい学生にとって、「注文後すぐに出てくる」ことは重要だし、貧乏学生の懐にも優しい値段であってほしい。もちろん、おいしいほうがいい。
だが、実際の東大の学食はほぼ真逆。「早い、高い、おいしくない」なのだ。確かに注文後の提供スピードは非常に早い。だが、値段はお世辞にも安いとは言えない。
今回の記事執筆にあたって、私は2024年12月に東京大学駒場キャンパスを訪れた。学生食堂につきものの「カレー」について、実地調査を行うためだ。
カレーライス中サイズが308円(生協組員価格)。だが、私が東京大学運動会応援部吹奏楽団の部員として活動していたころは、カレー中サイズ程度では全く足りなかった。大サイズ(396円)を食べても満足できなかった思い出がある。
結局、一品で満足しきれないサイズだから、2つ、3つと追加注文をする。すると、結局700円〜800円程度の会計となってしまう。値段自体は良心的に見えるが、食べ盛りの大学生にはまったくもって量が足りない。
◆「カレーらしい」ばかりで偽物感がぬぐえない
問題は、量だけにとどまらない。味のクオリティが令和とは思えないほどに低いのだ。このクラスのカレーに言うのもお門違いかもしれないが、スパイスの風味などまったくしない。
ドロッとしたルーには、おそらく小麦粉がたっぷり練りこまれているのか、粘性ばかりが高く、それでいてコクがない。カレーの風味は感じるが、「カレーらしい」ばかりで、どこか偽物感がぬぐえない。
また、後味が非常に悪く、飲み込んだ直後には、舌の上に茶渋を含んだ時のような、何とも言えないえぐみ、苦みが広がる。正直に言って、おいしくはない。
外食チェーンのカレーは、東大カレーより100円〜200円程度高いが、400円、500円クラスのカレーでも十分においしいルーが提供される。30年、40年前ならいざ知らず、令和を生き抜けるほど、東大カレーは洗練されていない。
◆「おいしくない」のに選ばれ続ける理由
普通ならば、ここまでおいしくない店は消費者から選ばれない。市場競争の原理にのっとって消え去りゆく定めだ。だが、いまだに残り続けているのは、ひとえに「キャンパス内で食べられるから」に他ならない。
東京大学の授業スケジュールは、他大学と比べても休憩時間が短い。授業間の休み時間はわずか10分。昼の長い休みも50分しかない。この短時間に、東大中の学生が近隣の食べ物屋に殺到する。
当然、レストラン1つや2つでは収容できないが、特に駒場キャンパスの周りには飲食店が少なく、外に食べに行く時間がない。だからこそ、まずくて割高感があっても、「すぐに食べられる」一点で学食が選ばれ続けているのだ。
だが、これは積極的ではなく消極的な支持によるもの。おいしくはないのだ。食事のクオリティより授業への出席を取る合理的思考によって成り立っているこの均衡は、明らかに東大生たちの胃袋事情が軽視されている。
東大は日本でもトップの大学だ。だからこそ、学生をサポートする環境も日本トップクラスであってほしいと願うのは、不自然なことだろうか?
オープンキャンパスに行きたいと話す高校生に「学食のおすすめメニュー」を聞かれた時のやるせない気持ちを、わかってほしい。
東大生協には、「日本トップクラス」を支えるプライドが残っているのだろうか。
―[貧困東大生・布施川天馬]―
【布施川天馬】
1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を自ら編み出し、東大合格を果たす。著書に最小限のコストで最大の成果を出すためのノウハウを体系化した著書『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』がある。株式会社カルペ・ディエムにて、講師として、お金と時間をかけない「省エネ」スタイルの勉強法を学生たちに伝えている。(Xアカウント:@Temma_Fusegawa)