日本テレビ系『情報ライブ ミヤネ屋』(平日午後1時55分、以下ミヤネ屋)とTBS系『ゴゴスマ〜GOGO!Smile!〜』(同、以下ゴゴスマ)による午後帯の生情報番組の視聴率争いにおいて、2024年は『ゴゴスマ』が勝利した(関東地区)。
関東での両番組の対決は2015年に始まった。一昨年までは『ミヤネ屋』が常に上回り、『ゴゴスマ』が年間単位で勝つのは初めて。世間がメディアに求めているものの変化が、生情報番組の対決にも表れているようだ。名古屋市のCBCテレビが制作する『ゴゴスマ』の番組開始は2013年4月。2015年4月からはTBSでネットされ、関東圏でも流れるようになった。しかし当初は『ミヤネ屋』に大苦戦した。
◆タカ派の『ミヤネ屋』とハト派の『ゴゴスマ』
『ゴゴスマ』が伝える情報は事件、事故、天気などで、大枠では『ミヤネ屋』と同じだが、スタジオは井戸端会議のような和やかな雰囲気。MCの石井亮次氏(47)はマイクを独占したり、番組を強引に仕切ったりするようなことをしない。一方の『ミヤネ屋』は攻めと強気の姿勢が目立ち、ときにMC・宮根誠司氏(61)の独演会になる。両番組は対照的だ。
コメンテーター陣も『ゴゴスマ』は岡田圭右(56)や元A.B.C-Zの河合郁人(37)ら穏健に見えるメンバーが揃う。一方で『ミヤネ屋』は梅沢富美男(74)、ガタルカナル・タカ(68)、アンミカ(52)らアグレッシブな印象を受ける人が目立つ。
『ミヤネ屋』は大阪市の読売テレビの制作で2007年10月に放送が始まり、翌08年4月からは日テレにもネットされるようになって、関東でも観られるようになった。先行した強みもあり、年間世帯視聴率争いでは負けなしだった。
2017年には成功の立役者である宮根氏が降板し、フジテレビに移籍すると一部で報道され、大騒ぎになった。宮根氏に降板されたら、『ミヤネ屋』は壊滅的な打撃を受ける。のちにこの報道は誤報だったと分かるが、「ミヤネ屋は強い」「宮根氏は視聴率男」と思われていたことの表れと言えた。並みの情報番組だったら、MCの移籍や降板くらいでは騒ぎにならない。
だが、このころから少しずつ潮目が変わっていた。同年10月4日には『ゴゴスマ』の世帯視聴率が初めて『ミヤネ屋』を上回った。当初は世帯視聴率が1%にも満たなかった番組が、常勝を誇っていた番組に勝った。視聴者が望むものが変わり始めた。
◆視聴者が求めるものに現れた“変化”
変化の1つに視聴者側が放送内容にモラルを強く求めるようになったことがある。この点で昨年の『ミヤネ屋』は痛恨のエラーを犯した。
同11月27日に起きた自民党の猪口邦子参院議員(72)宅のマンション火災を『ミヤネ屋』は同28日の放送で伝えた。トップ項目だった。火災では東大名誉教授の孝さん(享年80)と長女(享年33)が亡くなった。
『ミヤネ屋』は燃え盛る炎の中いる女性らしき人影が映った映像を流した。「視聴者提供」とあったが、日テレの報道局から提供されたものだという。それを放送するかどうかのジャッジをしたのは『ミヤネ屋』である。
放送終了後、BPO(放送倫理・番組向上機構)には視聴者から 「非常にショッキングであり配慮すべきだ」といった批判的意見が約250件も寄せられた。かなり多い。読売テレビ、日テレにはもっと数多くの批判が寄せられただろう。
この映像を流したセンスは40年以上前のものと言わざるを得ない。1982年のホテルニュージャパン火災(東京・赤坂)の際、炎熱の中で窓伝いに逃げようとする宿泊客を各民放は映した。この時も批判の声が上がった。
1985年の日本航空123便墜落事故の際には生存者以外の乗客を各民放は映していない。それだけに今回の『ミヤネ屋』の判断は分からない。まさか攻めと強気の姿勢の表れではないだろう。
攻めと強気は番組内でも表れる。コメンテーター同士が衝突するこがある。昨年11月26日放送で、兵庫県知事選で再選された斎藤元彦知事(47)に「公職選挙法違反疑惑」が浮上している問題について取り上げた際、元大阪地検検事の亀井正貴弁護士と中大法科大学院教授の野村修也弁護士がぶつかった。
野村氏は疑惑が事件に進展する可能性について説明した亀井氏の言葉をほぼ全面的に否定。野村氏が亀井氏の話に割り込んだり、野村氏が亀井氏の説明を笑い飛ばしたりする一幕もあった。野村氏が亀井氏の発言内容に介入までしたため、亀井氏が「表現の自由が害される」と憤然とする場面もあった。
◆攻めと強気の番組は他を見渡しても
攻めと強気の番組は減少の一途を辿っている。かつて午前中は日テレ、TBS、フジ、テレビ朝日の4局が硬派な生情報番組を放送していたが、日テレは2023年から生活情報番組『DayDay.』(月〜金曜9時)を放送するようになり、TBSは情報バラエティー『ラヴィット!』(月〜金曜午前8時)を流している。フジ『めざまし8』(同)は事件や事故を報じるが、料理コーナーも設けられ、もう硬派一色ではない。
テレ朝『朝まで生テレビ!』は2021年にBS朝日に移行し、出演者同士が対立するような番組は地上波から消えた。『ミヤネ屋』の視聴率低下の一因は時代との乖離なのではないか。
今年1月7日放送では宮根氏がコメンテーターのデーブ・スペクター氏(70)を叱った。対立ではないが、摩擦だった。
気象情報コーナーのあと、宮根氏はデーブ氏に向って「まだ終わってないよ、番組!気を抜かない!」と語気を強めた。さらに「すぐに気を抜くんだから」と叱責した。
◆スタジオに流れる不穏な空気もマイナスに?
出演者同士の対立はまだあった。昨年5月27日放送で、立憲民主党の蓮舫参院議員(当時)の東京都知事選への出馬会見を取り上げた際のことである。読売テレビの高岡達之特別解説委員(60)は「(都知事に)なってからの夢を語るのかと思っていたけど、そうではなかった。東京の有権者にとって(裏金問題の自民党や小池百合子都知事への)批判票だけで勝ち目はあるのか」と冷ややかに語った。
これにコメンテーターのRIKACO(58)が反発した。
「『蓮舫は夢を語っていない』とおっしゃっていましたけど、裏金問題というのは、私たち本当に、すごい腹が立っています。そういう気持ちを表現してくれていることが、夢を語っているということにもつながるんじゃないかな」
出演者同士の対立がよくあることもあって、『ミヤネ屋』のスタジオの雰囲気は良いとは言えない。『ゴゴスマ』とは好対照だ。これも勝敗が分かれた理由ではないか。
MCに一層のモラルが求められるようになった。その点、宮根氏の失態も痛かった。昨年3月、ドジャース・大谷翔平選手(30)が出場するMLB開幕戦「ドジャース−パドレス」を取材するために入国した韓国で、路上喫煙をやってしまった。その姿が撮影され、X(旧ツイッター)に投稿されると、猛批判を浴びた。普段が攻めと強気の姿勢だけに反発は大きかった。
こう見ると、『ミヤネ屋』の敗北は自壊に近い。今年は立て直せるのか、それとも『ゴゴスマ』への流れは止まらないのか。
<文/高堀冬彦>
【高堀冬彦】
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員