お笑い芸人でありながら都内の書店でも働く“書店員芸人”という異色の肩書きで、本を紹介する番組やメディアにたびたび出演し、豊富な知識とプレゼン力で話題を博すカモシダせぶん。
創作活動にも取り組んでおり、9月には『探偵はパシられる』(PHP研究所)で小説家デビューを果たしたほか、芸人では初となる「日本推理作家協会」にも入会。
そんな彼が読書との出会いや“書店員芸人”と名乗り始めたきっかけ、「日本推理作家協会」の知られざる実態について語ってくれた。
◆お笑い番組に憧れて高校生で養成所入り
――お笑い芸人になったきっかけは?
カモシダせぶん(以下、カモシダ):小学生のときに爆笑問題さんやネプチューンさんが出演していた『黄金ボキャブラ天国』にハマって、その後『M-1グランプリ』がスタートした影響もあって、ずっとお笑い芸人に憧れがあったんです。
それで芸人デビューするなら早ければ早いほうがよいと思い、高校3年生から松竹芸能の養成所に通い始めたのがきっかけです。
――読書に対しても、お笑いと同じくらいの熱量があったんでしょうか?
カモシダ:中学生ぐらいまでは活字の本は全然読みたくないと思っていました。だから、最初の読書体験もお笑いがきっかけですね。
中学生のときに朝読書の時間があって嫌だったのですが、爆笑問題さんの『爆笑問題の日本史原論』という本があることを知って。
それは日本史の登場人物を題材にした漫才形式の本なので、活字を読みながらお笑いを見られるぞと(笑)。あとはドラマ『トリック』が好きだったのでノベライズ版を読んだりもしていました。
でも、そんなズルをしているうちにもだんだん活字が面白くなっていって、小説も読むようになりましたね。
◆書店員として出演した『ノンストップ』が転機に
――いつから書店員をされているんですか?
カモシダ:最初は本だけじゃなく、DVDやCDも売っている中古販売店でバイトをしていました。そこで中古本を買っていくうちに読書が趣味になっていって、図書館にも通ってよく本を借りていたんですよ。それで本が好きなら書店で働こうと思ったのが始まりです。
――そのときは“書店員芸人”と名乗ってなかったんですか?
カモシダ:まだですね。5年組んだコンビを解散したぐらいのタイミングで、ピン芸人になっていたんですけど、自分の色が見つけられなくて困っていた時期です。
そんな矢先、書店員バイトをしていてフジテレビの朝の情報番組の『ノンストップ』で本に関する取材を一般の書店員として受け答えしたら、友達から「芸人辞めたの?」と連絡がたくさん届いて(笑)。これはまずいと思って、いっそのこと“書店員芸人”と名乗ることにしました。
――戦略的なものではなく、たまたまだったんですね。
カモシダ:そうなんです。そこでようやく「自分の色はこれだ!」と気付けて、人生の転機になったので感謝しています(笑)。
当時から『アメトーーク!』で読書芸人がフィーチャーされていましたけど、出演者は売れている芸人さんばかりだったので、読書好きぐらいじゃ引っ掛かりはないだろうと思っていて……。
でも“書店員芸人”は他に聞いたことのない肩書きだったので、自分にもチャンスはあると思いました。
――そこから仕事が増えていった感じですか?
カモシダ:“書店員芸人”という肩書きもそうですが、事務所が主催する「松竹お笑いビブリオバトル」という芸人が本のプレゼンをする大会で優勝できたのも大きかったです。
初めて自分の芸と趣味が噛み合った瞬間でした。そこから本に関する仕事をもらえるようになりましたね。
◆荷分け作業のおかげで全ジャンルに精通
――今は書店員と芸人の仕事の割合はどれぐらいですか?
カモシダ:まだ圧倒的に書店の仕事が多いです。週3〜5日は書店員をしています。ただ、芸人の仕事は突発的に入ることが多いので、社員ではなくアルバイトにさせてもらっています。
――主な業務内容は?
カモシダ:社員の方々は文芸やコミックといったそれぞれの担当を持つことが多いんですけど、自分はバイトなので荷分けや混雑時のレジ作業がメインです。
書店にあるさまざまな本を仕分けするので、オールジャンルの本に詳しくなることができるので、今の業務は芸人の仕事にすごく役立っていますね。
◆『アメトーーク!』出演で紹介した本が売り切れに
――“書店員芸人”になって一番うれしかった仕事は?
カモシダ:やっぱり『アメトーーク!』に出演できたことですかね。売れていないと無理だと諦めていた時期もあったので感無量でした。
そして、自分が一番好きな小説家の詠坂雄二さんの『5A73』を紹介できたこともうれしかったです。
ケンドーコバヤシさんがその小説に食いついてくださって、翌日には「amazonランキング」で1位になったり、働いている書店でも売り切れたりしましたし。
芸人としてはもちろん、書店員としても最高な瞬間でした。
◆自身初の小説を執筆『探偵はパシられる』
――2024年9月にはミステリー小説『探偵はパシられる』を発売されましたが、オファーがあったのですか?
カモシダ:知人の小説家さんと食事した際に編集担当さんがいらっしゃって、最初は書店員をしている話や、家が火事になった話など面白いエピソードがあるので、エッセイを書くように声をかけていただいたんです。
でも、その後打合せしたときに「小説は書いてないんですか?」と言われて。実はコロナ禍に短編ミステリーをいくつか書いていたので、ここぞとばかりにそれを送ったら小説を出せることになりました。
――送った短編はどんなものだったんですか?
カモシダ:今回出した『探偵はパシられる』の中の2本で、どちらも“パシリ”を題材にしたものです。なぜか私、パシリを題材にしたネタの評判が良くて…それを小説っぽくブラッシュアップしたら、編集の方にも「面白い」と言っていただけて。
ずっとパシリのネタばかりやっていたことが小説で活かせるとは意外でしたね(笑)。
――実際に小説を出した反響はいかがですか?
カモシダ:同じ事務所の芸人も面白いって言ってくれましたし、南海キャンディーズ・山里さんが帯文を書いてくれて、品川庄司・品川さんにも褒めていただきました。小説家の朝井リョウ先生も週刊誌で紹介してくださって、最高に嬉しかったです。
働いている書店でも大きく展開していただいて、「僕が書いたんですよ」とお客さんに声を掛けたらギョッとされました(笑)。
◆大御所・人気作家ぞろいの『日本推理作家協会』とは?
――ミステリー小説を執筆されたことをきっかけに、芸人で初めて『日本推理作家協会』に入会されたそうですが、どんな組織なのですか?
カモシダ:1947年に江戸川乱歩先生が最初に設立したもので、ミステリー作家同士でお互い助け合うことを目的とした協会です。
「江戸川乱歩賞」「日本推理作家協会賞」という2つの賞も運営しています。東野圭吾先生や宮部みゆき先生、湊かなえ先生も入会されている権威ある協会で、お笑い芸人では僕が史上初の入会だったんですよ!
――名だたる作家がそろっていますね。どうしたら入会できるのですか?
カモシダ:面接はないんですが、理事と協会員からの推薦が必要なんです。「日本推理作家協会会員」という肩書きに憧れが合って、編集担当や作家のツテを辿っていったら、理事の佐藤青南先生から「ぜひ入ってください」と言っていただきました。
◆日本推理作家協会のソフトボール大会には「レジェンド作家が登板」
――活動はどんなものがあるんでしょうか?
カモシダ:パーティーの主催や将棋、麻雀、囲碁、ゴルフやソフトボールといったレクリエーションもありますね。
――大学のサークルに近い雰囲気を感じますね(笑)
カモシダ:ソフトボール部の試合に実際に参加した方から聞いて驚いたのが、「ミステリー界の巨匠で今年81歳の逢坂剛先生がピッチャーをされていて7イニングを投げ切っていた」ことです(笑)。
対外試合で「日本将棋連盟」のチームとも対戦しているらしいんですが、作家も棋士も“指”が商売道具のはずなのに大丈夫かなって心配になりました(笑)。ハツラツとしているレジェンド作家さんがたくさんいますよ。
初の芸人会員として、日本推理作家協会についてどんどん発信していきたいですね。結果的に、日本の推理小説界隈に少しでも貢献できたらと思っています!
◆目標は賞レースで結果を出して“書店員芸人”の卒業
――今後の目標を教えてください。
カモシダ:やっぱりお笑いを頑張りたい。ピンでは「R-1グランプリ」、コンビでは「キングオブコント」で決勝に出たいです。
“書店員芸人”でテレビに出させてもらっていますが、賞レースファイナリストが書店員だったというほうが、より書店業界にとって明るいニュースになると思うので。
――もし賞レースで結果が出たら書店員の仕事は続けますか?
カモシダ:うーん、書店員バイトは卒業したい。今の自分があるのは書店さまさまですが、お笑いだけで食べていけるようになるのがずっと目標ではあるので。書店で働いてなくても、本の知識を誰よりも語れる人気芸人になることができれば本望です!
【カモシダせぶん】
‘88年、神奈川県出身。松竹芸能所属のお笑いコンビ・デンドロビームで活動しつつ“現役書店員芸人”として『アメトーーク』『ヒルナンデス!』の出演をはじめ、テレビやラジオ、イベント出演など多方面で活躍。本をプレゼンして一番読みたくなる本を競う書評合戦「ビブリオバトル」で司会を務める。2024年9月に初小説『探偵はパシられる』(PHP研究所)を発売。
<取材・文/瀬戸大希、撮影/星亘>