NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」。江戸時代中期、日本のメディア産業やポップカルチャーの礎を築き、時にお上に目を付けられても面白さを追求し続けた“蔦重”こと蔦屋重三郎。その波乱万丈の生涯を描く笑いと涙と謎に満ちた痛快エンターテインメントドラマだ。主人公・蔦屋重三郎を演じるのは、これが大河ドラマ初出演となる横浜流星。初めての大河ドラマで主演を務める意気込みや作品の舞台裏を語ってくれた。
−“蔦重”こと蔦屋重三郎は、現代ではそれほど知られた人物ではありませんが、横浜さんの考える蔦重の魅力とは?
蔦重は江戸を豊かにする多くの功績を残し、“江戸のメディア王”、“出版王”と呼ばれた人物です。現代に置き換えれば、出版社の社長で、プロデュースも営業も全て自分で担う多彩な人物といったところ。そんな偉業を成し遂げた大きな要因は、情に厚く、責任感があり、失敗しても挑戦を諦めなかったことです。ただ、僕の考える彼の最大の魅力は、自分ではなく、誰かのために動けるところではないかと。吉原や女郎、絵師、あるいは世の中のため。そんなふうに考えて動ける人間は、やっぱり強い。多くの人の協力を得て、何倍もの力を手にすることができるので。僕もそんな蔦重のような人間でありたいと思っています。
−初めての大河ドラマ出演が主演ということで、オファーを受けた時のお気持ちはいかがでしたか。
大河ドラマは、俳優として目標にはしていましたが、僕はこれまでNHKの作品に携わったことがなかったので、お話をいただいたときは驚きました。ただ、選んでいただいた以上は、責任と覚悟を持ち、作品を届けたいと思っています。
−演じるにあたって、役作りはどのように?
役作りでは、題材になる作品を見て、実際に蔦重が生まれ育った場所を訪れて空気を感じ、資料を読み、専門家の先生にお話を伺い…と、できる限りのことをしました。また、映画『HOKUSAI』(20)で蔦重を演じられた阿部寛さんにもお話を伺い、「流星らしく、世に広めてくれ」というお言葉をいただきました。その一言に阿部さんのさまざまな思いが込められていると思うので、それをきちんとくみ取り、蔦重として生きられたらと。中でも、最も大事にしているのは、(脚本家の)森下(佳子)先生の作った世界で蔦重として生きることです。
−放送を拝見すると、横浜さんの見事な江戸っ子ぶりが爽快です。映像作品で時代劇に出演されるのは初めてだそうですが、所作などで苦労も多かったのでは?
所作の一つ一つが本当に難しく、苦労の連続です。江戸ことばも、普段使い慣れているものではないので、蔦重として違和感のないように頑張っているところです。あらゆる面で、ご指導いただく先生方の協力を得て、蔦重に落とし込んでいます。
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−演じるにあたって、監督からはどんなお話がありましたか。
監督からは「明るく」と言われ、そこが蔦重の良さでもあるので大事にしています。ただ、僕は朝が弱いので、自分なりに明るさを出してみても、「ちょっと暗い」と言われることがあり、一番の課題です(苦笑)。
−物語の舞台となる江戸時代中期については、どんな魅力を感じましたか。
自分が実際に生きたわけではないので、想像するしかありませんが、森下先生の作った蔦重が生きる世界としての江戸時代は、いい時代だと思います。不自由で理不尽なことも多いですが、現代のように情報が氾濫していない分、蔦重だけでなく、誰もが自分の意志を持って行動している。現代では、氾濫する情報に流され、自分を持てずにいる人が多い気がします。また、人との交流を大切にするのも当時の特徴で、今は携帯一つで誰とでも交流できますが、僕も蔦重のように人と直接会って話すことを大事にしなければと。そういう意味で、僕もあの時代を生きてみたいと思いました。
−人と会って話すという点では、第一回でも蔦重が老中・田沼意次(渡辺謙)に会いに行き、吉原の女郎たちの窮状を訴える場面が大きな見どころとなりました。
あの行動力には驚かされました。現代に例えれば、市井の片隅で暮らす1人の国民が総理大臣に向かって意見を言うようなもの。毎回、蔦重の行動力には驚かされますし、なぜそういう行動をとれるのか探ってみると、やっぱり「誰かのために」なんですよね。そういう意味で、誰もが「こんなふうに生きられたら」と思うような人間なので、僕も1人の人間として、蔦重をリスペクトしています。
−渡辺謙さんとの共演はいかがですか。
謙さんのたたずまいやお芝居から学ぶことが多く、現場でご一緒する時間は大切にしています。謙さんとは以前、映画でご一緒したとき、いろいろなお話をさせていただきました。「ちょうど流星と同じくらいの年齢の時、自分も大河の主演をやった。とにかく、真っすぐ全力でやればいい」と、力強いお言葉をいただいたので、それを信じて蔦重として生きています。
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−蔦重には、女郎たちを救おうとする真っすぐな正義感がある一方で、幼なじみの花魁・花の井(小芝風花)の気持ちには気付かないもどかしさもあり、2人の関係も注目を集めそうですね。
吉原で生きる男女には、恋愛関係になってはいけないというおきてがあるので、それを植え付けられているのだと思います。その鈍感さが、彼のいいところでもあるので、存分に鈍感な蔦重を演じています。お芝居については、小芝さんや監督とも相談しながら作っているので、皆さんぜひ、2人の関係にツッコミを入れながら楽しんでください(笑)。
−撮影を通して感じた作品の魅力を教えてください。
作品と向き合って感じるのは、いい意味で大河ドラマらしくない“新しい大河ドラマ”になっているな、ということです。派手な合戦はありませんが、その代わり、商いの戦いを繰り広げる“ビジネスストーリー”としての見どころがあります。しかも、森下先生の描く江戸時代には陽気な人間が多く、喜劇のようで、展開も非常にスピーディー。とても面白いエンタメに仕上がっています。その分、大河ドラマに対して今まで「堅い」というイメージを持ち、身構えていた若い世代の方にも楽しんでいただけるのではないかと。そういう方々にこの作品を届けることも、僕の使命だと思っています。
−それでは最後に、これから1年にわたる物語に臨む意気込みをお聞かせください。
1年間続く物語に出演できることは、とてもぜいたくで幸せなことです。僕は同じように“戦隊もの”を1年経験したとき、お芝居の楽しさを知り、この世界で生きていくことを決意しました。こうして10年経った今、再び同じような経験ができることに、運命を感じています。その中で、形に捉われず自由に生き、自分にしかできない皆さんに愛される蔦重を作っていけたらと思っています。
(取材・文/井上健一)
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