動画配信サービスとして、日本国内での存在感をさらに高めている「Netflix」。世界の市場でも、昨年の上半期で登録者が2億7000万人と、まさに王者となっています。次々と生まれるヒット作の裏側や、日本の作品が広がった背景とは?エンタメ社会学者の中山淳雄さんに解説していただきました。
<東京ビジネスハブ>
TBSラジオが制作する経済情報Podcast。注目すべきビジネストピックをナビゲーターの音声プロデューサーである野村高文と、週替わりのプレゼンターが語り合います。本記事では2024年12月29日の配信「さらに存在感を増すNetflix。ヒット作が生まれるその秘訣とは?」を抜粋してお届けします。
野村:動画配信サービスとして日本国内でさらに存在感を高めているNetflix。世界の市場でも昨年の上半期で登録者が2億7000万人と、まさに王者となっています。次々生まれるヒット作の裏側を中山淳雄さんに解説いただきます。
中山:Netflixが日本上陸して、今年で10周年になるそうです。会社自体は1997年からあり、ストリーミングになったのが2010〜11年で、アメリカでは15年ぐらいですね。
野村:当時、彗星のごとく現れた印象ですが、中山さんが思うNetflixの独自だった点はどこだと思いますか?
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中山:僕は2013〜14年頃にカナダにいて、当時はNetflixの話ばかりしていました。HBOやワーナーなどありましたが、Netflixがすごくて便利、しかもとても安いと話題になっていました。
カナダでディズニーチャンネルは月額30ドルぐらい。日本のテレビ番組を見たかったらプラス40ドル。それらを見るために、大体僕は月額1.5万円ぐらい払っていました。逆に言えば、1.5万円払わないと「これは見ないな」と思うようなひどいテレビしかないわけです。
デフォルトで1万円〜1.5万円払うという生活していた僕にとって、Netflixは10ドルでしかもいろいろなコンテンツが見られるサービスだな、という印象でした。
日本オリジナルへの投資のきっかけは『全裸監督』中山:一方、日本は2016〜2018年頃が「dTV最強時代」でした。
野村:dTVはdocomoが提供していた動画配信サービスですね。
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中山:その頃にはU-NEXTやフジテレビのFODなども台頭してきていました。あのときNetflixは『火花』や『アンダーウェア』、『テラスハウス』などいろいろな日本のオリジナルタイトルを作っていましたが、そんなに跳ねなかったんですよ。
2018年頃まで数字が上がらなくて、「日本オリジナルのコンテンツは作らなくていい」といわれていたようです。「日本は難しいから、作るのではなく、作品を買ってこい」と。そのままでは他のストリーミングサービスに勝てないというなかで、分岐点とされるのが2019年の『全裸監督』でした。
野村:『全裸監督』が分岐点だったんですか。
中山:具体的な数字は公表されていないのですが、『全裸監督』が日本オリジナルの作品が評価されるきっかけとなって、『今際の国のアリス』で世界に波及していったと感じています。
野村:日本のオリジナルが作れない「冬の時代」があったのですね。
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中山:当時は韓国の方がお金かけていたのですよね。韓国ドラマのNetflixって年間やっぱり1兆円〜1. 5兆円かけていて、僕は日本でももっと投資したらいいのにと思っていました。
やはり『イカゲーム』の後はもっと韓国シフトになっていて。そういう中で『全裸監督』『今際の国のアリス』『サンクチュアリ』が出てきたあたりから、「日本のドラマは海外でも当たるよね」という声が日本のテレビ局からも聞こえてくるようになりました。
そしてNetflixが花開いたのは2024年だと僕は思います。『シティーハンター』『地面師たち』『極悪女王』ですね。「もうええでしょう」という『地面師たち』のセリフがあちこちから聞こえてくるようになりました。
2020年ぐらいからようやくオリジナル作品が花開き、投資もするぞっていう流れになりました。こうしたきっかけで、この頃に作り始めた作品が、『地面師たち』や『シティーハンター』のはずなのですよね。それでいうと近年5年で花が開いた印象です。
『シティーハンター』は世界にどう広がったか?中山:つい最近の発表によると、Netflixは日本で登録している世帯が1000万世帯になりました。1世代あたり視聴人数は2人以上とか。僕も家族3〜4人で見ているので、そう考えるとおそらく3000万から4000万人が視聴していると考えられます。
無料サービスの「TVer」のユーザー数が4000万とかなので、有料サービスのNetflixが無料ベースのサービスと同じくらいのインパクトを持ち始めたということですね。
野村:冬の時代がありつつも、コンテンツ投資が実って、今の地位が獲得できたということだと思います。近年だと2024年『シティーハンター』『地面師たち』『極悪女王』などの日本原作が、世界でも見られるようになってきたということですか。
中山:まだ海外での数字は公表してくれていないです。ただ、『シティーハンター』がどうやって海外で広がったかというデータを見せてもらったことがあります。まるで音楽が広がるように人気が波及していました。
まず日本で大きく再生数が上がります。そして、インドネシアなどで上がってきたなって思ったら、東アジアからだんだん東欧に広がって、ヨーロッパで流行って、ここからアメリカに行ったようです。流行が広がる順番が見えるような感覚でした。
ストリーミング世界において日本は『シティーハンター』などもともと漫画やアニメがあったから受け入れられやすかったと思います。だけど『地面師たち』や『今際の国のアリス』はそうではないのですごいですよね。
“桁違い”な制作費が及ぼす影響とは野村:Netflixによるコンテンツ投資はどんどん盛んになるのでしょうか。
中山:僕もNetflixに2回3回ぐらい執拗に聞きました。日本でいくら使っていますかって。でも、教えてくれないですね。一方、日本のテレビキー局のドラマ制作費はNHKも含めて全部足したら300億ぐらいあったはずです。
野村:6局足した1年間の制作費ですか。
中山:Netflixの1年間の韓国でドラマを作っている制作費(1兆〜1.5兆円)に負けていますよね。1作の単価がだいぶ違いますが、日本って300本とか作っているので。1本当たり1億円ぐらいでしょうか。逆にNetflixは1時間あたり2〜3億円ぐらい。1作品で15億とかだから、すごいお金のかけ方ですよね。
野村:一点豪華主義じゃないですけど、お金かかっているなって作品を作った方がヒットするということですかね。
中山:初期の「いろいろやろうぜ」から進化して「ガンガンいこうぜ」になってきているかなと思います。ただ、近年は「守りを大事に」という流れにもなってきていますね。
野村:Netflixが日本の中で頭ひとつ抜けましたが、日本のクリエイターにはどんな影響がありますか?
中山:僕はテレビ社会の競争の中で吊り上げられたことによる「ちゃんとお金かけようね」という意識があると思います。TBSを代表に『VIVANT』から本当に予算をかけていますよね。勝負しようという中で競争が生まれています。
Netflixの台頭によって見えてきたのが、日本のなかで「テレビ局横並び」という環境がよくなかったんだと思うんですよ。クリエイターにとって、チャンスが増える、日本以外でヒットするかどうかというのが未来を開かせると感じます。
一方で『ゴジラ-1.0』のようなお金をかけないヒット作も生まれています。ワーナー映画は150億円ぐらいかけている一方で、『ゴジラ-1.0』の予算は15億円ほど。10分の1の制作費なのに、売り上げ的には3分の1ぐらいまで達しています。掛けた金額が全てではないですが、その工夫の確立によってバラエティーができること自体はプラスしかないと僕は思っています。