2025年、日本の自動車業界は今年も「東京オートサロン」から始まった。ビジネスデイと呼ばれる初日の1月10日、会場を歩いて感じたのは、トヨタのハイエース、メルセデス・ベンツのGクラスはかなり影を潜めた印象であった。
その代わりに台頭してきたのは、さまざまなメーカーのブースだ。国産乗用車メーカーは当然としても、海外メーカーや大手パーツサプライヤーなど名うてのブランドが参入してきた印象がある。
BYDとヒョンデが大型ブースを展開していたのも、国内外から集まるクルマ好きに自らのブランドを印象付けようとしているからだろう。BYDは今春発売予定のSUV、SEALION(シーライオン)をお披露目し、ヒョンデもコンパクトEVのINSTER(インスター)を持ち込んだ。
INSTERは丸いヘッドライトをボクシーなシルエットと組み合わせた、レトロなムードとシンプルなデザインがなかなか個性的で、デザイン重視の女性ユーザーなどの人気を得そうな印象だ。市販モデルのほか、クラシックミニのモンテカルロ仕様をオマージュしたカスタム仕様を試作して展示していたことから、そんな狙いが感じ取れる。
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フォルクスワーゲンは高性能モデル、ゴルフRのワゴンモデルをこのオートサロンで発表する力の入れようで、5ドアのゴルフR、ゴルフGTIも並べて、日本車に負けじと高性能ぶりをアピールしていた。
パナソニックグループの車載部品メーカーであるパナソニックオートモーティブシステムズも出品していた。ブースでは同社のコックピット統合ソリューションによる近未来の乗車体験を提供していた。
これは単にエンドユーザーに向けたものではなく、アフターマーケット業界の企業へもアピールすることで、さまざまなビジネスの広がりを期待しているのであろう。
まるでモビリティショーやCESのようなブースがオートサロンの会場内にも展開されるとは意外だった。ますます自動車業界の幅広い領域を飲み込んでカオスな状態へと成長しつつあるようだ。
●ファンが喜ぶアイテムを用意
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ホンダは市販予定モデルのプレリュードを展示したほか、「無限」ブランドのシビックタイプR用パーツを展示するなど、ホンダファンが喜ぶアイテムを用意していた。スバルは限定車S210のプロトタイプを展示。週末は黒山の人だかりで、ファンの期待ぶりが分かるほどであった。
マツダは「マツダスピリットレーシング」を商品ブランド化し、市販車を発売することを発表した。手始めにロードスターのSF(ソフトトップ)モデルに2リットルエンジンを搭載したモデルを設定するとともに、エンジンチューンや内外装も念入りに仕立て上げた限定車も用意した。
うわさになっていた2リットルエンジン搭載車は特別なブランドとして用意した、というわけだ。このやり方はなかなかうまい。レース活動によってブランドを認知させて、その高性能で未来的なイメージを市販車へと広げた。
トヨタのGRと似ているが、まずはピュアなスポーツカーにだけ設定したことで、より繊細で上質さを感じさせる。今後の発展ぶりにも期待したい。
●ランクルの人気ぶりが際立つ
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2023年のジャパンモビリティショーで発表された小ぶりのランクル250も人気だが、やはりより堂々としたボディのランクル300の方がこうしたイベントで映えることもあって、展示されている台数は多いように感じた。
他にもランドローバーのディフェンダーやレクサスLX(中身はランクルだが)、三菱トライトンなどの人気車種も多く、冒頭で述べた通りメルセデスのGクラスは一気に影を潜めた感がある。都心部の高級住宅街などではタクシーと同じくらいGクラスを見かけることもあるが、高いリセール性を維持するにはカスタムはご法度であり、そうした需要は減っているのだろう。
トヨタはGAZOO RacingとランクルBASEと名付けた2つのエリアでブースを展開。GAZOOはこれまでの歴代ツーリングカーマシンを展示し、GRヤリスをベースに開発中の2リットル4気筒エンジンをミッドシップに搭載した試作車を公開した。
このエンジンが高級スポーツカーに搭載されるのは、従来の高級車を知る人間にとってはやや複雑な心境だが、コンパクトなユニットの利点を生かして、こうしたホットハッチへのドーピングに用いるのはオートサロンの来場者には受ける手法だろう。
そしてオートサロン名物とも言えるブランドは、今年も大人気であった。リバティーウォークはエアロパーツメーカーとして立ち上げられ、さまざまな車種にワイドボディキットを用意して話題を集め、認知度を高めたブランドだ。
毎年オートサロンでド派手なデモカーを発表し、注目を浴びることでますますその人気を高めていった。最近は原宿や海外でアパレルを展開し、その独自の世界観が浸透するにつれ、絶大な人気を集めている。
今年は往年のスーパーカー、ランボルギーニ・ミウラをワイドボディとグラフィックによりリバティーウォーク仕様にモディファイしたものと、R32型の日産スカイラインGT-Rをベースに街道レーサーを現代的に解釈したド派手なカスタムを披露した。
●TONEブースの盛況ぶりに驚く
これまでほとんど毎年、東京オートサロンの会場を取材しているのに気付かなかったのだが、工具メーカーのTONEのブースが異常な盛り上がりを見せていた。かなり前からオートサロンでは福袋を用意しており、その価格には定評があったらしい。
さらに、ここ数年は福袋以外にも大特価(4〜6割引きくらい)でさまざまな工具を販売しており、それを目当てに来場する人もいるようだ。とにかく広めのブースにもかかわらず、熱心に工具を吟味する来場客でブース内はごった返しているのである。
正直言って、一般の自動車オーナーに工具の需要があるとは思っていなかったので、この熱気には少々驚かされた。最近は愛車のボンネットを開けたことがないというオーナーも多いと聞くので、このブースでの盛り上がりにびっくりしたのだ。
もちろんここはオートサロン、一般の自動車オーナーでもクルマ好き、なかでもカスタムやチューニング好きのオーナーが集まるだけに、クルマ愛が深いオーナーが多いのだろう。
さらに最近のハンドツール(手の力だけで操作する工具)は機能性が向上していたり、デザインや仕上げに凝ったものがあったりと、眺めていじり回しているだけで楽しめるものも多い。そうした工具オタクもジワジワと増えているようだ。
筆者はDIYメンテ歴が長いのでハンドツールや特殊工具なども一通り所有している。そのため、TONEの福袋やセール品を購入することは踏みとどまったが、持っていない工具があれば、この安さなら予定外の買い物をしてしまうに違いなかった。
●オートサロンのブランドは海外でも通用するように
洗車好きは一定数存在するが、共働きが増えたこともあって、休日に洗車を家族で楽しむようなユーザーは減っている。その代わりディーラーやカークリーニング業者にガラスコーティングをしてもらい、自分は時々洗車機で洗うという時短派ユーザーが増えている。
つまり高級な洗車用品を使って、たっぷり時間と水を費やして洗車を楽しむようなユーザーは、それほど増えてはいないようだ。
また最近は実店舗や通販だけでなく、クラウドファンディングで洗車用品の新商品を購入するなど、購入経路も多様化しつつある。ディテーリングビジネス(自動車の清掃・修復などを提供するサービス)自体はまだ拡大傾向にあるだろうが、洗車用品はそろそろ飽和状態になってきたと言えそうだ。
もちろんこれらは会場内を歩いてつかんだ感触であり、隅から隅まで完璧にチェックできているわけではないから、筆者と異なる印象を抱いた人もいるかもしれない。
そもそもオートサロンでは、出展を希望する企業の要望が全てかなっているわけではないのだ。毎年、出展する企業の多くは抽選に参加しており、当選しなければ出展さえできない高倍率ぶりなのである。
しかも巨大な幕張メッセという箱をすでに目いっぱい使っている状態なので、これ以上の会場面積の拡大は望めそうもない。
また自動車整備士学校の生徒たちの卒業制作を披露する場所としても、オートサロンは欠かせないイベントになっている。今年もユニークなカスタム、入念にレストアされたクルマが並べられていた。
2025年の東京オートサロンでは、前年を上回る25万人以上の来場者を記録した。海外でも開催されるなど、ブランドの輸出も始まっているが、まだまだ人気は衰えそうもない。当分、クルマ好きを集客する強力なブランドとして君臨しそうである。
(高根英幸)
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