【モデルプレス=2025/01/17】昨年、TBS系ドラマ「ライオンの隠れ家」で演じた自閉スペクトラム症の“みっくん”役で、話題となった俳優の坂東龍汰(ばんどう・りょうた/27)。2017年の俳優デビュー以降知る人ぞ知る若手実力派として、幅広いジャンルで出演作を重ねてきた彼が、満を持して単独初主演を務める映画『君の忘れ方』が2025年1月17日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開。運命的なものを感じたという今作との出会い、そして「自分の出会い、運、努力といった全部が今に繋がっているのかなという感覚はありました」と振り返る、俳優としての現在の胸の内に迫った。<モデルプレスインタビュー>
【写真】坂東龍汰&西野七瀬が仲良く密着◆坂東龍汰、単独初主演映画「君の忘れ方」
今作は、“死別の悲しみとどう向き合うか”をテーマに、恋人を亡くした構成作家の青年が、悲しみを負う人に、さりげなく寄り添う「グリーフケア」と出会い、自らと向き合う姿を描いたラブストーリー。
昴(坂東)は付き合って3年になる恋人・美紀(西野七瀬)との結婚を間近に控え、幸せに満ちた日々を送っていたが、美紀が事故で突然亡くなってしまう。愛する婚約者を亡くした昴は、深い喪失感に苛まれながらも、南果歩演じる母・洋子(南果歩)に促され、久しぶりに故郷の岐阜へ帰省。そこで同じ悲しみを抱えるグリーフケアの仲間たちと出会い、少しずつ美紀の死を受け入れ始めるが…。そんなある日、昴の前に突然、美紀が現れる。彼女は現実なのか、それとも“まぼろし”なのか。悲しみの果てに昴が見つけたものは?
◆坂東龍汰、運命的なものを感じた今作との出会い
坂東は、今作のテーマについて「どこか他人事とは思えない本で、読みながら自分と向き合うことができて、不思議な感覚になりました」とコメント。自身の過去の経験と重ね合わせたという想いとは。
「死別を題材にする映画はたくさんありますし、誰しも身の回りで大切な存在との別れを経験することが一度はあると思うので普遍的なテーマだと思いました。僕自身も20数年生きてきて身内の別れを経験したことがあったので、個人的なことも含めて昴というキャラクターと映画に向き合うことが、僕自身にとってもワンナップする大きなきっかけになるだろうと感じました。脚本を読ませていただいたときに、この脚本と監督の元でどうしてもやりたいと思ったんです」
自身が身内との死別を経験したのは3歳のとき。記憶はほとんどないという。坂東にとっては今、この映画と出会えたことが運命だった。
「今は北海道に住む家族と離れて暮らしていることもあり、そのことについて今まであえて向き合ってこなかった部分がありました。向き合わないことを選択するのは簡単だと思うんですけど、大人になった今ならと。いずれ当時のことを聞くタイミングを持たなければと最近思っていたこともあり、昴を演じることで映画に良いエッセンスや僕が演じるからこそ昴に込められる想いがあるんじゃないかなと思いました。実際に映画が決まってからすぐに家族に作品のことを話して、どう思ったかや当時のことも少し聞くことができて良かったです。
監督も実際に経験された上で脚本を書かれているので、気持ち的にも辛い部分があったと思うんですが、この脚本を生み出してくれたことへの運命的なものも感じましたし、このタイミングで僕がこの本と監督の船に乗って一緒に良い作品を世の中の人に残すことは今しかできないと思ったし、この映画に関わることが、僕自身にとっても大きな意味を持つと思いました。
身近な人ではなくても、ペットや推している相手など、誰しも大切な存在を失う経験は避けられないと思うんです。そういう心の傷の癒し方・封印の方法はなかなか答えのないこと。この映画でも全ての答えが描かれているわけではありませんが、経験された方はもちろん、これから死別というものと向き合うことになるかもしれない方も含め、観てくださる方にどんな風に届くかは僕も未知数なので楽しみです」
今作を通して、自身の心境にも良い変化が訪れた。
「『グリーフケア』を詳しくは知らなかったので、知れたことも大きかったですし、今後悲しい出来事に直面したときに、1つの選択肢として誰かに助けを求めることや自分の気持ちを吐露する場所があると知ることができただけでも良かったです。撮影をしていく中で、決してバッドエンドではなく徐々に昴の心が希望の方向に向かっていって再生されていく様子を丁寧に繊細に描いていたので、彼の気持ちと一緒に僕自身も晴れやかな気持ちで最後の撮影の日を迎えられました」
◆坂東龍汰、西野七瀬との1日がかりの“恋人写真”撮影「その時間があって本当に良かった」
数々の作品でまったく違う役柄での振り幅の広い演技が評価されている坂東だが、今作でのアプローチは他の作品とは「ちょっと違ったかもしれない」と話す。
「単独初主演、主役というところで今まで以上に個人的な気持ちが入っていたのはあるかもしれないです。それを背負って全部感情で出すのではなく、脚本にある余白や、観ている人が『昴は何を考えているんだろう』と感じてもらえるような出力で演じたいなという気持ちもありました。できるだけ主観で昴の気持ちになって、『こういう風に見せたい』というよりも、瞬間瞬間でどう彼が感じて行動に起こすか、どういう呼吸をしていくかを大事にしてちゃんとキャッチできるように心も身体も整えて撮影に臨みました」
そして、西野演じる美紀は死後、“まぼろし”として昴の前に登場する。
「幻影が見えるという設定なので、そのリアクションや感情をどう表現するかが難しい部分でした。ただ、撮影の過程で昴の背景や感情が積み重なっていたので、いざそのシーンの撮影のときは、本を読んで想像していたときよりは昴になれていて特別な準備をしなくても余計なことを考えずに素直な反応ができたかなと思います。嬉しいのか、悲しいのか、驚いているのかといった感情を決めつけるのではなく、昴の感情が自然と湧き上がるように演じました。監督の演出や音楽、カット割りなどが全て合わさり、最終的に深みのあるシーンに仕上がったと思います」
西野とはクランクイン前に劇中で使われた恋人写真を様々なシチュエーションで1日がかりで撮影した。
「結果的にその時間があって本当に良かったと思います。西野さんとはこれまでお会いしたこともなくて。劇中では生前の美紀との時間があまり描かれていないので、昴としての最愛の人を事故で亡くすということに真実味を出すのはすごく難しいなと思ったんですが、その日1日でお話して、そこにちゃんとした2人の時間があったのでその時間を忘れないように撮影をしていました」
◆坂東龍汰、飛躍の2024年「ライオンの隠れ家」街での反響実感
2024年は、「ライオンの隠れ家」で解像度の高い表現にまで落とし込んだ演技に各所から称賛が寄せられ、より幅広い層への知名度を一気に広げた。しかし、成長を感じたことを聞くと「あまり変わらない」と、本人はあくまでも地に足のついた言葉を紡ぐ。
「反響とか、現場や街中で『観てるよ』と声を掛けていただくことはすごく多かったんですけど、僕自身の役に向き合う熱量は毎回同じなので、スタッフさん、キャストや作品全体のバランスが整った瞬間に起こるパワーが起こした奇跡だと思っています。あとは自分の出会い、運、努力といった全部が今に繋がっているのかなという感覚はありました」
それでも、反響の大きさは肌で実感しているそうで、街での印象的だったエピソードを身振り手振りを混じえて教えてくれた。
「自分が思った以上に色々な方が観てくださっていて『みっくんロス』とか『ライオンとみっくんもう見られないのかな』と言っていただけます。僕は、基本変装もしないし眼鏡とかもほぼ掛けないんですけど、今まで全然街で気付かれることがなかったんです。普段の僕自身とみっくんはあまり繋がらないと思うんですけど、それでも気付いてもらえることが増えたのは嬉しいですね。この間、観葉植物を買いに行ったら店員のおばあちゃんが膝から崩れ落ちるんじゃないかぐらいの勢いで『みっくんだ…!』と喜んで『私の周りみんなみっくんファンよ!』と言ってくださって(笑)。しかも1話か2話が放送された直後くらいだったので僕も驚いて、一緒に行った友達も『すごかったね』と言っていました。とても嬉しかったです」
1つの役柄でイメージが強く固定されることへの不安はないのか、と思わず聞くと、回答からは役を生きる俳優としての一貫した姿勢が伝わってきた。
「その店員さんは結局僕が誰かはおそらくわかっていらっしゃらなかったと思うんですけど、僕自身はそれが一番嬉しくて、僕が誰とかは全然気にしないでくれていいんです。坂東龍汰としてよりはそのキャラクターを愛してもらえている方が嬉しい。僕が前に出ることは必要ないし、じゃないと多分その役を愛してもらうことは難しいんじゃないかなと改めて今回思いました」
“みっくん”とはまた真逆の役柄をやりたい、という野望はないか問うと、「サイコパスとかもやってみたいですよね」とニヤリ。ドコメディの役柄を観てみたいと記者がリクエストすると「ドコメディもやってみたいです。でもこの作品にもクスッと笑えるシーンがなかったですか?」と、シリアスなテーマを描いている作品でもふとした日常の明るい部分を意識する大切さを語る。
「やっぱり作品を重たくしすぎないというのも今回の僕らの大きなテーマでもあって、もちろん扱っている題材は重い部分もあるしちゃんと背負っているんですけど、その中でも人はやっぱり生きていかなきゃいけないし、面白いことでクスッと笑ってしまうときもあるし、ワクワクする時間もあるというのはちゃんと描いていきたいなと思っていました。それがなかったら、ただただ辛い映画になっちゃうので、そこは僕も意識して演じましたし、『君の忘れ方』もそうだし、『ライオンの隠れ家』に関してもちょっとクスッと笑えるシーンがあった方が、より愛されるキャラクターにもなるし、観た人の心が明るく軽くなる瞬間があったら良いなと思っています」
◆坂東龍汰の夢を叶える秘訣
最後にそんな坂東に、夢を追う読者に送る“夢を叶える秘訣”を聞くと、自身の経験から気持ちが込められた力強いエールを送ってくれた。
「ここ数年ありがたいことに忙しすぎて、逃げ出したいみたいに思うことも正直ありました。誰かに手伝ってもらうこともあるけど、そうじゃない時間の方がやっぱり多くて、自分と向き合うことも多く、大変で孤独な仕事だと思うんです。その期間がすごく長く続いたとしても、例えば『ライオンの隠れ家』だったら色んな人から『観てるよ』とか『救われた』とか『1週間の楽しみです』と言ってもらえる日がいつかは来ると信じていれば頑張れるし、追い続けられるかなと最近思いました。下手したら10年・20年に1回かもしれないけど、心の底から嬉しい楽しい瞬間に出会うために、日々簡単な方や楽な方に逃げずに、自分から難しいことや辛い方に舵を切りながら頑張ること。もちろん遊んだりお酒を飲んだり人と話す時間もすごく大事だと思うし、それもしていいと思うんですけど、そればっかりになりすぎない。みんなやっていると思うけどその大切さを、改めて2024年は感じた年でした」
(modelpress編集部)
◆坂東龍汰(ばんどう・りょうた)プロフィール
1997年5月24日ニューヨーク生まれ、北海道出身。2017年デビュー。『フタリノセカイ』(22年/飯塚花笑監督)で映画初主演を務め、第32回日本映画批評家大賞の新人男優賞(南俊子賞)を受賞。主な出演作に映画『春に散る』(23年/瀬々敬久監督)、『バカ塗りの娘』(23年/鶴岡慧子監督)、『一月の声に歓びを刻め』(24年/三島有紀子監督)、『若武者』(24年/二ノ宮隆太郎監督)、『シサム』(24年/中尾浩之監督)、劇場アニメ『ふれる。』(24年/⻑井龍雪監督)、ドラマ「RoOT / ルート」(24年/TX)、「366日」(24年/CX)、「ライオンの隠れ家」(24年/TBS)、舞台「三人姉妹はホントにモスクワに行きたがっているのか?」(18年/作・演出:岩松了)、「う蝕」(24年/作:横山拓也・演出:瀬戶山美咲)などがある。舞台「ベイジルタウンの女神」(作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ)が5月より上演。
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