松坂桃李、15周年を迎えた俳優人生は無我夢中 大切にしてきたのは“柔軟であること”

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2025年01月22日 09:10  クランクイン!

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松坂桃李  クランクイン! 写真:高野広美
 さまざまな作品で多彩なキャラクターを演じ、観る者の心を魅了する俳優・松坂桃李。そんな彼が次にスクリーンで体現するのは、江戸時代に天然痘から人々の命を救おうと種痘の普及に尽力する実在の町医者の生きざまだ。1月24日公開の映画『雪の花 ―ともに在りて―』で小泉堯史監督のもと貴重な経験を重ねた松坂に本作に込めた思いを聞いた。

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◆名匠・小泉堯史監督の現場で感じた「役者に対する愛の深さ」

 吉村昭の小説『雪の花』を実写化する本作は、多くの人命を奪う疫病と闘った町医者の実話を描く本格時代劇。松坂は、江戸時代末期に、有効な治療法がなかった天然痘から人々を救おうと、周りの妨害にも負けずワクチンの普及に尽力した福井藩の町医者・笠原良策を演じる。

 黒澤明監督に師事し、監督デビュー作『雨あがる』以来、一貫して人間の美しい在り方を描いてきた小泉監督がメガホンをとる本作。出演オファーに松坂は「小泉監督からお声がかかったといううれしさがありました。小泉組に参加できるということは、一生のうちにあるかどうかの貴重な機会。ぜひお願いしますと手を挙げさせていただきました」と振り返る。

 「黒澤組を経験し厳しい荒波を越えてこられた方ですし、サングラスをずっとかけていて(笑)、怖い方なのかなと思っていたのですが、撮影前に何度かお話しさせていただいて、物腰が柔らかく懐の深い、愛にあふれた方」と小泉監督の印象を語る松坂。その印象は撮影が進む中でさらに確かなものになった。「小泉監督はリハーサルをすごく重ねる方。本読みもたくさんやって、なんなら衣装もかつらも全部付けた状態でリハーサルをやる。そうして本番に臨むときに、『あとは素直にやってもらえれば大丈夫です』とおっしゃったんです。その一言で僕の中でほどけるようなものがありました」。

 監督からは、役者に対しての愛の深さが端々に感じられたとも語る。「『監督っていう仕事はね、役者が芝居をしやすいように整えてあげる。演出なんかよりも、どう芝居がしやすいようにするか。あとはご自由にやっていただければ、それで十分だ』とおっしゃっていました。撮影でも寄りの表情を撮るときには、カメラを遠くに敷くんですね。『そうすると役者さんってカメラの存在を忘れるでしょう。気にせずに芝居ができるんだよ』と。お芝居へのケアを一番に考えてくださる、そういう方ですね」と監督への尊敬があふれる。

 そんな愛がありつつも、現場には緊張感もあったそう。「黒澤組を経験したスタッフさんたちばかりなので、現場に入った時の緊張感は今まで経験したことのないような空気感。劇中で使う薬草をすりつぶす小道具(薬研)は映画『赤ひげ』で使ったもの。『それはいいんですか? 博物館とかに収めるものじゃないですか?』っていうものを平気で使われるんです」と笑う。「全編フイルムでの撮影でプレッシャーも感じました。でも、当時の黒澤組でお芝居をしていた大先輩の方々もこの空気の中でやっていたのかと思うと、ちょっとした高揚感もありました」と、緊張も力に変えて撮影に臨んだようだ。

◆“時代劇”だと距離感を持って観てほしくない


 松坂にとって本作は『居眠り磐音』以来、5年ぶりの時代劇挑戦。「時代劇というカテゴリーでくくってしまうと、観る方にとって距離ができてしまう。特に今回は実話を基にしたお話なので、距離感を持って観てしまうと、『こういうことがあったんだな』と歴史の教科書を見るような感じで終わってしまうかもしれない。でも、監督もおっしゃっていたんですけど、歴史があるから今があって、ちゃんとつながっている。当時の人たちがいろんなことを成し遂げたからこそ、今の人たちの時代がある。そこを分けて見てしまうとすごく損だと思うんです」と思いを吐露。「本作は、コロナを経験した今だからこそリンクするところもあります。作品にも描写として出ていますけど、天然痘に罹った人を隔離するんです。コロナも隔離したじゃないですか。同じことをやってるんです。時代って本当に繰り返されるので、その中で、未知のものに対して人間って同じような恐怖や不安を抱いたりする。だからこそ、本作を“時代劇”と距離感を持って観てほしくないんです」と熱く伝える。「演じる僕自身としても時代劇だからといって意識しすぎないよう、フラットに笠原良策という人物とちゃんと向き合うことを意識しました」。

 演じる良策は、まっすぐひたむきに、志高く医師としての使命に邁進した人物だ。笠原良策という男からは「一人じゃ何もできないということ」を学んだと語る。「サブタイトルに『ともに在りて』とあるように、共にいてくれる人がいるからこそ、何かを成し遂げることができる。無名な町医者がこれだけのことを成し遂げるって難しいことだと思うんです。そんな中で、良策には献身的な妻がいて、師がいて友がいる。いろんな人たちの支えによって、多くの人たちの命を救うことができた。改めて、一人じゃ何もできないなということを実感しました」と口にする。

 良策を献身的に支える妻・千穂を演じた芳根は「撮影の前から太鼓の練習を重ね、腕にテーピングをぐるぐる巻いていました。そういう努力を微塵も見せず、現場では明るい笑顔で振るまってくれた芳根さんの姿に千穂とリンクしているところを感じました」と信頼を寄せる。

 また、良策の師匠である蘭方医・日野鼎哉を演じた役所広司とは、『孤狼の血』『VIVANT』など共演も多いが、「今回の現場で役所さんが初めて衣装で出てこられたときは、『赤ひげが来た!』って思いました」と笑う。「それくらいの迫力と説得力、そして慈愛に満ちた空気をまとって僕と対面してくださって。『利を求めず、名を求めず』という日野先生のセリフがありますが、良策プラス僕自身にくれた言葉のような、役を飛び越えた感情をくれました」と感謝する。

 実在の人物を演じることには緊張感もあるという松坂。「資料を読み込み、監督と僕で想像を膨らませて演じる大変さはあるんですけど、共演者の皆さんとお芝居をさせてもらうことで引き出してもらえることも多いんです。あとは『素直に演じてくれれば』という監督の言葉にもつながるのですが、本読みを入念にやり、相手のセリフを聞いたことで、自然と出てくる言葉や表情が正解につながる。台本をたくさん読み、良策と自分が向き合う時間をしっかりと作った結果がこれにつながった」と、みんなで作り上げた良策像に手ごたえを感じている。

◆15周年を迎えた俳優人生  “柔軟さ”はなくてはならないもの


 松坂は2024年に俳優デビュー15周年を迎えた。「まったく自覚がなかったですね。事務所の皆さんからお祝いしていただきました。菅田(将暉)も同期なんで、一緒に抱き合わせで」と笑いながら、「15年経ったと気づかないくらい無我夢中でやることができたというのは、ありがたいことだなと思っています。いろんな人の支えがありましたし、ご縁や運も。その連続だったと思います」と振り返る。15年の間には、さまざまな大きな出会いがあったというが、「一番の出会いは今のマネージャーさんと一緒に仕事ができているということかもしれない」と周囲への感謝を忘れない。

 良策は、医師として天然痘患者の命を救うという譲れない思いを心に抱いていたが、松坂にとって俳優として譲れないものは何だろう。そう質問すると、「それが見つけられないんですよね」との答えが。「俳優にとって、そういう譲れないものは時として邪魔になることも。主演の時もあれば脇を演じる時もありますし…。いろんなジャンルの作品に挑戦するにあたり、柔軟でありたいとは思いますね。柔軟さというのはなくてはならないものです」と教えてくれた。

 36歳になり「体力が落ちてきましたね。疲れやすい」と苦笑い。「運動していない僕が悪いんですけど。みんなジムに行ってますよね。10人に聞いたら10人行ってます。なんであんなにジムに行ってるんですかね…。運動はやったほうがいいんだろうなって思います。でもなんか気乗りしないんです(笑)」とお茶目なカミングアウトも。

 いつも変わらず穏やかで真摯な人柄で、取材陣からの人気も高い松坂。今回のインタビューでも、「コロナ禍を経た今だからこそ、本作を多くの人に観てほしい」という思いが真っすぐに伝わってきた。幕末に生きた1人の町医者の熱い志を、小泉監督が映し出す日本の美しい景色とともにぜひ大画面で受け止めてほしい。(取材・文:渡那拳 写真:高野広美)

 映画『雪の花 ―ともに在りて―』は、1月24日全国公開。
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