一生無縁のままに人生を終える人も多い刑務所生活。外からは見えない世界だからこそ、好奇心を刺激されるところもあるのではないでしょうか。その中でも気になるのが「食」。自由とはかけ離れた環境に身を置く受刑者たちにとって、日々の食事は数少ない楽しみとなっているようです。そんな刑務所内での食事について全国の受刑者200人にアンケート取材し、それをまとめたレシピ集として出版されたのが『刑務所ごはん』。知られざる"ムショメシ"の世界について詳しく知ることができる一冊です。
同書においてカラー写真で取り上げられているのが、料理家が再現した刑務所のごはんです。たとえばある日の朝食のイメージとして紹介されている献立は、米7:麦3の割合の麦飯に薄い味噌汁、そしてわずかばかりの副菜二品。これを見ると、「えっ、大人ひとりでこれだけ!?」と驚く人も多いかもしれません。それでも「最も美味しく感じられるのが朝食」(同書より)と感じている受刑者は多いそうです。
3食の中で最もメニューのバリエーションが多いのが昼食。しかし、総じて「炒め物であっても水気が多くて煮物のよう」との不満も見られるようです。同書には「ハヤシライス」「豚肉とナスのキムチ炒め」「ナポリタン」などのレシピが掲載されていますが、自宅で"ムショメシ"の味を再現するなら「水を多めに加える」「長時間じわじわ過熱する」「とにかく薄味に徹する」などを意識すると近づけられるのではないか、とのことです。
夕食は17時ごろとかなり早め。そのため、受刑者は耐えがたいほどの空腹を抱えて長い夜を過ごすこともあるようです。さらには昨今の物価高により、「肉類は種類もボリュームも以前と比べて目に見えて寂しくなっている」(同書より)との声も。「焼肉」「青椒肉絲」「すき焼き風煮」などのレシピは、名前は魅力的ではあるものの、その詳細を見てみると、毎日一人あたり400円強の予算で献立を組まなくてはならない栄養士の苦労がうかがえます。
ほかにも同書ではクリスマスや正月に出されるハレの日メニューや、人気メニュー・不人気メニューなどについても紹介。中には、「王道メニューはぜんざい」「大阪刑務所のコッペパンが美味しいとよく言われる」「容器を使って食材を発酵させることでアルコールを醸造しようとする人も少なからずいる」など、ここでしか目にできないような情報も......。また、物価高騰や不景気、コロナ禍などの影響は食の面へも出ており、昔に比べると味のみならず量の面でも物足りないと感じている受刑者が多いのが現状のようです。手書きの手紙やインタビューも収録されており、全国の受刑者たちのリアルな心情もうかがえる同書。刑務所でのリアルな食事情を知りたい方は手に取ってみてはいかがでしょう。
[文・鷺ノ宮やよい]
『刑務所ごはん』
著者:汪楠,ほんにかえるプロジェクト
出版社:K&Bパブリッシャーズ
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