TikTokは存続できるのか? 米中対立が引き起こす巨大プラットフォームの試練

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2025年01月24日 08:01  ITmedia ビジネスオンライン

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米国で、TikTokはどうなる?

 1月19日、米国で中国の動画アプリ「TikTok」の利用禁止措置が大きな物議を醸した。米国では1億5000万人が利用している人気アプリで、若者を中心に世界でも10億人が使っているとされる。日本のユーザー数も2700万人ほどだ。


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 そんな人気アプリが米国で禁止になったことは、米中摩擦にからんで国際問題化している。その行方について、世界中でニュースとして大々的に報じられている。


 米国で禁止措置となったTikTokはどうなるのだろうか――。今後の動向について深掘りしてみたい。


 まず最新の動きでは、1月20日に就任したドナルド・トランプ大統領が就任初日に大統領令を発表し、ひとまず、米国における利用禁止措置は一時停止になる救済措置が取られることになった。これによって米国では引き続きTikTokを利用できるようになったが、ただこれは一時的な措置に過ぎない。


 今後この話題がどう展開していくのかを考察する前に、米国のTikTokを巡るこれまでの流れをおさらいする。


 まずTikTokは、中国企業であるバイトダンスによって、2016年にサービスが始まった。スマホを使って動画撮影・投稿ができるもので、若者からの絶大な人気を誇ってきた。


 米国におけるアプリ名はTikTokだが、中国では「抖音(ドウイン)」という名前で、中国版がオリジナルだ。


●なぜ「禁止すべき」という議論が出てきたのか


 米国でTikTokを禁止すべき、という議論が初めて出たのが、第1次トランプ政権時の2020年。2015年に中国の習近平政権が「中国製造2025」を発表して以来、米国はそれまでの中国の市場解放を促す方針から、中国の覇権主義に対抗する姿勢へと舵(かじ)を切った。中国製造2025とは、2025年までに中国を「世界の工場」から先端技術を生み出せる国にする取り組みだ。


 この流れで、当時のトランプ大統領はデータセキュリティ(中国製品がデータを盗むこと)とダンピング(中国政府の補助金による不当な価格低下)を理由に、中国の電気機器メーカーのファーウェイなど中国企業への締め付けを強化している。その中で、2020年にTikTokもやり玉に挙がった。


 当時トランプ大統領は、すでに米国人利用者の多いTikTokを「米国製」にするために、TikTokを米国企業に売却するよう要求。何社かの米企業が名乗りを上げたが、結局買収計画は頓挫した。


 一方で2022年、TikTok側はいかにアプリが安全かをアピールするために「プロジェクト・テキサス」なる活動を開始した。TikTok公式サイトによれば「プロジェクト・テキサスは、TikTokを利用する全ての米国ユーザーに安心感を与え、データが安全であり、プラットフォームが外部の影響を受けないという信頼を与えることを目的とした前例のない取り組みです」とし、「国家安全保障上の懸念に具体的かつ測定可能なソリューションで正面から取り組むことで、透明性と説明責任の概念を実践します」と宣言している。


 2023年にはジョー・バイデン政権で、TikTokの米国法人のCEOが連邦議会の公聴会に呼ばれ、アプリの安全性について5時間にわたって厳しい質問を受けた。ただ、中国政府がTikTokにどれほどの支配権または影響力を持っているのかについての質問に明確に回答しなかったために、メディアからも厳しい批判を受ける結果となった。要は、中国政府がTikTokのユーザーデータなどにアクセスできるという疑念を払拭することができなかった。


●中国政府がコンテンツを操る“疑念”


 そもそもTikTokにはいくつかの疑念が生じている。まずは中国政府がバイトダンス(つまりTikTok)の事業に影響を持っているのではないかという疑惑だ。中国には、政府が中国企業に内部データへのアクセスを要請できる国家情報法などがあり、全ての中国企業は政府の手の内にあると西側諸国では批判されている。米国や日本などで収集されたユーザーデータが中国政府の手に渡ることを警戒する向きもある。


 筆者がさらに重要だと思うのは、コンテンツへの影響だ。TikTokでは、特にオススメ機能に中国政府の影響が及ぶ可能性が指摘されており、オススメのコンテンツから中国政府に都合の悪い情報が排除されるのではないかという疑念がある。逆に、中国政府が「喧伝(けんでん)」「教育」したい情報は、ユーザーが意識しないうちに出てくる仕組みになっているとされる。中国政府などが都合よくユーザーの価値観を変えてしまいかねない。


 先に触れた公聴会でも、これらの指摘を覆すような回答はなかったとして、米国ではTikTok排除への動きが続いてきたのである。


 2024年4月、米議会がTikTok禁止法を可決。すぐにバイデン大統領が署名し、TikTokが禁止される可能性が高まった。それによれば、2025年1月19日までにTikTokを売却しなければ、国家安全保障を理由に米国で禁止すると定めている。


 するとTikTok側がこの決定を不服として、米最高裁に法律の差し止めを求める申し立てを行い、最高裁で協議が続いていた。だが、最高裁は2025年1月17日に禁止法を全会一致で支持する決定をしたというわけだ。


 TikTok側の言い分としては、ソースコードは中国にあってエンジニアリングも中国で行われているため売却は不可能だ、というものだ。


 すると、就任目前のトランプ氏がコメントを発表。「合弁事業を設立して米国が50%の所有権を持つことを望む。そうすることで、TikTokを救うことができ、安全に成長させることができる。米国の承認がなければ、TikTokは存在できないが、承認があれば数千億ドル、または数兆ドルの価値になる」と述べている。


 つまり、米国企業との合弁事業として50%の所有権を米国が持つ、ということだ。


●救済措置がビジネスや外交を有利にする?


 この提案は強引に聞こえるかもしれないが、そもそも中国も米国製のアプリを制限している。中国では、SNSのXやFacebook、Instagramなどが政府により禁止され、使うことができない。WhatsAppやFacebookのMessenger、LINE、Telegram、Signalも使えない。GmailやYouTubeなどGoogle系サービスも禁止されている。


 そんな中で、米国が安全保障の問題でTikTokを禁止することに、中国は何ら口を出すことはできない。50%の所有権を手放すことで米国で引き続きビジネスができるのなら、トランプ大統領に感謝すべきところだろう。


 ちなみにトランプ大統領が、TikTokの全面禁止を支持しない理由は別にある。それは、ゴリゴリの共和党支持者でトランプ支持者でもある大富豪のジェフ・ヤス氏の存在だ。ヤス氏はバイトダンスの株式の15%を保有する米企業の共同設立者で、トランプ大統領にTikTokを禁止にしないよう働きかけたとみられている。


 トランプ大統領が前政権から変節した理由の一つがこれだという。


 これには、前駐日大使だったラーム・エマニュエル氏が米CNNに出演して、以前は危険だと言っていたTikTokに対してポジションを変えるのはいかがなものかと苦言を呈している。「中国は米国人を狙っている。どうして米国の子どもたちのデータが中国の影響にさらされ、データが収集されるのを許すのか」とも述べている。「トランプは米国の安全保障よりも大口寄付者を優先している!」ということだろう。


 一方、今回の問題について、トランプ大統領が大人の対応で海外企業を救ったとなれば、今後の米国への投資にプラスに働く可能性がある。さらにトランプ大統領が今後、習近平国家主席とさまざまな交渉をしていくなかで、この救済措置をカードとして使っても不思議ではない。


 とにかく、TikTokは今後も米国で中国色を薄めてサービスが続けられる可能性が高い。ただそれでも、データの安全性や中国の影響など、TikTokに対する懸念は解消されないだろう。また、米国国内の政治や米中関係の外交のカードとして使われるだろう。今後の動きから目が離せない。


(山田敏弘)



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