生成AIがライフスタイルを大きく変える。スマホ並みの存在感、その実態と活用方法とは

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2025年01月24日 09:31  日刊SPA!

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 ここ数年、生成AIの活用が生活の質を左右する重要な要素となっている。仕事の質も飛躍的に向上し、AIを活用する者としない者との間には、今後圧倒的な差が生まれるだろう。
 東京大学の池谷裕二教授は「現代において生成AIを使わないのは、『自分はスマートフォンを持たない主義だから』『私はEメールは使わないから』と主張するようなものです」と語るが、これからの時代に必要な生成AIの活用方法とは一体?

 本記事は『生成AIと脳〜この二つのコラボで人生が変わる〜』の一部を再編集してお届けする。

◆生成AI、スマホ以上の生活必需品に?

 生成AIは、日常のどんなことに使えるのでしょうか? 私の場合、日常のとても多くの場面で生成AIを利用しています。あまりに依存しすぎて、生成AIが登場する前の自分が、どんな風に仕事をしていたのか、もはや想像できません。「よくこれだけの仕事を、生成AIなしでこなしていたなあ。当時は、さぞや非効率な仕事の仕方をしていたのだろう……」と、昔の自分を気の毒にすら思います。

 生成AIの有無による違いは、携帯電話がない時代とある時代の違いに匹敵するほどです。私が大学生の頃には携帯電話がありませんでしたが、当時どうやって友達と待ち合わせをしていたのか、ほとんど覚えていません。電車が遅れたとき、どうしていたのでしょうか。

 当時は、インターネットが普及していません。飲み会の幹事を任されたときも、どうやって店を探していたのでしょうか。おそらく情報誌などを読み、必死に情報収集をしていたことでしょう。言えるのは、現代と比べて当時は圧倒的に不便だったということです。

 ネットやスマートフォンが当たり前に使える現在から振り返ると、「あの頃の自分はよく生きていたな。まるで、武器を持たずに敵と戦っていたようなものだ」と感じます。

 それと同じような感覚を、2年前の生成AIを持たない自分に対しても抱きます。それほどまでに、生成AIは私の仕事に大きなインパクトを与える存在です。

 断言できるのは、生成AIによって、仕事のクオリティは格段に向上したということです。もし生成AIを使わず、自分の素の実力で仕事をした場合、アウトプットの質は明らかに低くなってしまうでしょう。生成AIを使っている人と競争した場合、その差は歴然で、敗北することは間違いありません。

 現代において生成AIを使わないのは、「自分はスマートフォンを持たない主義だから」「私はEメールは使わないから」と主張するようなものです。妙なプライドを掲げて、こだわりを持ち続けると、本人が損をするのは目に見えていますし、利用している周囲の皆にも迷惑を掛けてしまうかもしれません。

 ちなみに、2024年9月に行われたアンケート調査では、人々のAIに対する態度は5つに分類されるそうです。皆さんはどのタイプに属するでしょうか。
1.マキシマリスト: AIを頻繁に使い、他者にもAIの話題をする
2.地下運動派: AIを頻繁に使うが、仲間には秘密にしている
3.反逆派:AIの流行に乗らず、AIの使用をズルいと考える
4.スーパーファン: AIに興味はあるが、まだ仕事で使用していない
5.観察派:AIを活用しておらず、様子を窺っている

◆トップレベルの大学生の17%以上が、レポート作成にChatGPTを活用

 教育現場でも、生成AIの活用は欠かせないものになりつつあります。 ChatGPTが登場した当初、生成AIを教育に利用してよいかどうかという議論が起こりました。発表された2ヶ月後の2023年1月の時点で、「トップレベルの大学の学生で、レポート作成にChatGPTを使用した割合は17%以上」と報告されています。これには「学生の本来の学力が身につかないのではないか」といった社会的な批判もありました。

 しかし、私の研究室では、ChatGPTが登場すると即座に、学生たちへ「論文の作成には生成AIを使用するように」と伝えました。前述のように、ChatGPT、Gemini、Claude、Llamaの4つのモデルの回答を比較するための独自のシステムも、研究室の学生やスタッフに最新バージョンを無償で提供しています。

 現在も、「生成AIに学習利用は正しい教育か」「学生の真の学力は伸びるのか」という議論が続いていますが、私はむしろ「生成AIを使いこなせない学生を自分の研究室から送り出すわけにはいかない」と考えています。

 今後、生成AIは社会の中であらゆるツールに組み込まれていくことでしょう。確実に利用が進むのだからこそ、使用を規制するのではなく、むしろ、そのよしあしを理解して上手に使いこなせる人材を育成することが、教育者としての私の責務だと考えています。

 このツールが登場した瞬間、「教育者としても私自身がこのツールを使いこなさなくてはならない」と強く感じました。そのリサーチも兼ねて、私は日々生成AIを使い続けています。

◆生成AIを使いこなすには「プロンプト」が必要不可欠

 生成AIを使う際に、重要なのが「プロンプト(指示)」です。 プロンプトとは、生成AIへの質問のことです。「この文章を要約してください」「ネコのイラストを作ってください」「キャベツを使ったレシピを教えてください」などの生成AIに対する一連の質問やお願いが、プロンプトに当たります。

 AIに指示をするといっても、プロンプトを使ううえで、プログラミングをしたり、特殊なコード等を打ち込む必要はまったくありません。ただ、普段通りの言葉を投げかけるだけでいいのです。高度な知識を必要としないため、生成AIの導入は、初心者にとって敷居が低いものです。

 どんな指示を入力するかによって、生成AIが作り出すアウトプットは大きく変わります。望ましい出力を得るために効果的なプロンプトを設計・最適化する技術を探究する「プロンプトエンジニアリング」という領域もあるほどです。

 プロンプトは丁寧に書き込めば書き込むほど、回答の精度は上がります(唯一の例外はOpenAIのo-1)。

 たとえば「生成AIの社会実装を扱ったエッセイを書きたいのですが、読者にわかりやすい前振りを教えてください」とざっくりした質問をするより、「40〜50代のビジネスマン男性で、普段から雑誌などの文章を読み慣れている人が対象の週刊誌に、最新の研究をテーマにしたエッセイを書きたいと思います。実験のテーマは2023年に行われた『生成AIは人間よりも気配りができるかどうか』です。この実験を紹介する上で、上記の読者の心に刺さる前振りを5つ考えてください」と細かく伝えたほうが、よりよい回答が得られます。

 ジョークを交えたい場合も、どのようなニュアンスがいいのか、たとえば相手をいたわるジョークなのか、相手をちゃかすものなのか、自虐的なものがよいのかなど、具体的に指定してあげたほうが、望み通りの出力が得られます。

 漠然とした質問をプロンプトとして入力しているままでは、欲しい回答が得られないので、いつまでたっても使いこなせません。「プロンプトこそが重要だ」と感じた私は、ChatGPTが登場して3か月後には、自分の研究室の学生を対象に、プロンプトエンジニアリングの講義を行いました。

 美しいプロンプトを組むことができれば、生成AIからはどのような情報でも引き出すことができます。私は、生成AIをフル活用できるプロンプトの組み方を教える授業を行い、今でも年に2回は、生成AIのレクチャーを実施しています。

 リリース当初から現在に至るまで、「ChatGPTは全然使い物にならない」と言う人もいますが、それは質問としてのプロンプトが悪い、もしくは無料版を使っているために回答の精度が低いからだと思われます。回答が思ったような内容ではない場合、生成AIの性能を疑うよりも、自分自身のプロンプトの技量を見直すべきかもしれません。

 言語の問題も無視できないかもしれません。ChatGPTが登場した当初は、英語を前提としたプログラムで動いていたため、日本語で質問した場合、一度英語に翻訳され、その後処理されてから、再び日本語に翻訳されるというプロセスが発生していました。そのため、初期の頃のChatGPTは日本語があまり得意ではなく、「ああ、アメリカ人だったらこういう回答をしそうだよね」というような、日本人が違和感を抱く回答が多かったのです。

 まだ英語がベースの生成AIも多いのは事実ですが、少なくともChatGPTやClaudeとGemini、Grokの4つの生成AIついては、日本語での学習が2024年に入って一気に進み、自然な日本語が戻ってくるようになりました。もし初期バージョンを使ったことがあって、「出力された日本語が不自然で使い物にならない」と利用をあきらめた方は、今ではその日本語の巧みさに驚くのではないでしょうか。

◆“お願いする役割”を明確にする。生成AIを最大限活用するためのプロンプト術

 上手なプロンプトを書くコツは、生成AIにお願いしたい役割を明確に伝えることです。

 論文を添削したいときに、ただ「添削してください」と言っても精度は上がりません。「あなたはアメリカ在住の著名な生物学の教授です。次の文章は学生が書いた論文です。この学生は英語がネイティブではありません。この文章をオリジナルの文法をできるだけ保ったまま、誤字脱字の修正をはじめ、生物学の分野の学術論文のスタイルに沿った論文を作成してください。特に間違いがない場合は、修正しなくても構いません」のように、お願いしたい条件や内容を可能な限り詳細に記載することが肝心です。

 論文を翻訳する場合も、ただ「翻訳してください」では不十分です。「あなたはプロの和英翻訳者です。アメリカに住む友人への結婚祝いの言葉を送ろうと考えています。友人は冗談が好きで、くだけた雰囲気の文章を好みます。若者が使う言葉をふんだんに用いて、次の日本語を英語に翻訳してください」といったプロンプトを入力します。

 これを見てもわかるように、生成AIから精度の高い回答を得ようと思うほど、プロンプトが長くなっていくわけです。そのため、学生たちから「プロンプトを毎回書くのは面倒くさい」という声が上がることもあります。とはいえ、日常の仕事の大半はルーチンワークですから、よく使うプロンプトは限られています。毎回決まった用途で使う方は、同じプロンプトが自動で出てくるように、カスタマイズすることも検討してみてもいいかもしれません。

 私は、パソコン内のメモ帳に、便利なプロンプトをいくつか保管し、さらに、そのメモを研究室のメンバーに共有しています。また、プログラミングが得意な卒業生の協力を仰いで、プロンプトを使わなくても論文を添削してくれるような専門の生成AIをカスタマイズし、これも研究室内限定で無料で提供しています。入力欄に自分の書いた文章を入力するだけで、わざわざプロンプトを書かなくても、添削してくれるのです。

 プロンプトがうまく書けないときや、AIに私の指示がうまく伝わっていないと感じるときは、プロンプトそのものを生成AIに書かせましょう。「●●のシチュエーションではどんなプロンプトを書けばいいですか?」と生成AIに質問するのです。生成AIはプロンプト書きも上手ですから、これを利用しない手はありません。

 ちなみに、私の知り合いのAIの専門家は、ChatGPTが思い通りの文章を書いてくれないときに、「ClaudeやGeminiはもっと上手ですよ」とプロンプトを入力していました。実際、これで本当に性能が上がるから驚きます。

◆生成AIをうまく使いこなし、新たな価値を生み出そう

 生成AIが、仕事の質を劇的に向上させ、情報収集を容易にするだけでなく、学業や日常生活にも大きな影響を与えている今、もはやAIを使うか否かが、時代の勝者と敗者を分ける要因となると言っても過言ではないだろう。

この波に乗り遅れることなく、私たちも未来を見据え、生成AIをうまく活用して新たな価値を見出していきたいものである。

【池谷裕二】
1970年 静岡県藤枝市生まれ。薬学博士。 東京大学薬学部教授。 2002〜2005年にコロンビア大学(米ニューヨーク)に留学をはさみ、2014年より現職。 専門分野は神経生理学で、脳の健康について探究している 。また、2018年よりERATO脳AI融合プロジェクトの代表を務め、AIチップの脳移植によって新たな知能の開拓を目指している。文部科学大臣表彰 若手科学者賞(2008年)、日本学術振興会賞(2013年)、日本学士院学術奨励賞(2013年)などを受賞。また、『夢を叶えるために脳はある』(講談社)で小林秀雄賞受賞(2024年)。

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