NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」。1月19日に放送された第三回「千客万来『一目千本』」では、主人公の“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)が、改めて吉原を救うため、入銀本『一目千本』の出版に奔走する様子が描かれた。
前回も蔦重はガイドブック『吉原細見』を使って人を集めようとしていたので、一見、同じようなことをしているようにも思える。だが、大きく異なるのは、既存の内容を改めたに過ぎない『吉原細見』に対して、今回は本のアイデアから資金集め、印刷、製本まで、全般にわたって蔦重が中心となって進めたことだ。
前回、「序」の執筆を平賀源内(安田顕)に依頼し、古い内容を丁寧に改訂した『吉原細見』だったが、それだけでは吉原に人を呼ぶことができず、蔦重は次の策を考える。
そこで思いついたのが、本を売るのではなく、手に入れるためには吉原に来る必要がある、という誰もが欲しがる魅力的な本を作ることだった。そこで、広く人々から資金を募って作る“入銀本”の出版(現代の“クラウドファンディング”のような形か)を計画。巧みに女郎たちの競争心をあおって資金を集めると、絵師の北尾重政(橋本淳)に協力を依頼。北尾と相談の結果、女郎たちの姿をそのまま描くのではなく、一人一人を花に見立て、それぞれの個性を強調することにする。
やがて女郎たちの協力も得て、製本まで完了した蔦重は、出来上がった入銀本を手にしてしみじみとこう語り、笑顔を見せる。
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「なんか、すげえ楽しかったなぁ…。いや、やることは山のようにあって、寝る間もねえくらいだったけど、てえへんなのに、楽しいだけって。こんな楽しいこと、世の中にあって…俺の人生にあったんだって。なんかもう、夢ん中にいるみてえだ。みなさん、ありがとうございました!」
この前にも女郎屋の主人たちから「お前の細見も評判がいいぞ」「あんた、本作るの向いてんじゃないのかい」と、その才能を見込まれていた蔦重。この回は自ら本の制作からプロモーションまで全般に携わり、天職ともいえる本作りに巡り会う姿が描かれた。上に引用したせりふからはそんな蔦重の喜びが実感を伴って伝わると同時に、視聴者にも、そんな幸せを感じる仕事と巡り会いたいと思わせるものがあり、強く印象に残った。さらに、それを表現する横浜の芝居も、相変わらず魅力的だった。
こうして見事に入銀本『一目千本』で吉原に人を呼び戻すことに成功した蔦重。だがその一方では、長谷川平蔵宣以(中村隼人)から詐欺同然の行為で大金を巻き上げる危うさも見られた。(それを、「粋」の一言で片付けるおおらかさが爽快だったが。)また、ラスト近くでは、『吉原細見』の改訂に協力的だった地本問屋の主人・鱗形屋孫兵衛(片岡愛之助)が、『一目千本』を手にして険しい表情を見せる一幕もあった。それらが今後の蔦重の行く先にどんな影響を及ぼしていくのか。いよいよ本作りと巡り会った蔦重の今後が楽しみだ。
(井上健一)
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