松重豊&遠藤憲一、血だらけの出会いから育んだ絆 60代も互いの活躍に刺激受け切磋琢磨

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2025年01月31日 08:40  クランクイン!

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クランクイン!

(左から)松重豊、遠藤憲一  クランクイン! 写真:高野広美
 2012年からテレビ東京系列で放送されている人気ドラマを松重豊の監督・脚本・主演によって映画化した『劇映画 孤独のグルメ』が、「心が温まった」「とにかく腹が減った」など好意的なレビューにあふれ、大きな話題を呼んでいる。その中でも会場をドッと沸かせているのが、劇中でのパロディードラマ『孤高のグルメ』の主人公として遠藤憲一が登場する場面。松重が長年演じてきた“井之頭五郎”と重なる、“善福寺六郎”に扮した遠藤は「まさか松ちゃん(松重)の化身のような役を演じるとは!」、松重は「遠藤さんしか思い浮かばなかった」と大きな笑顔を見せる。下積み時代は背格好が似ていることから役を取り合いながら苦楽を共にしたという“戦友”の2人が、お互いから受ける刺激を明かした。

【写真】これは貴重! 井之頭五郎&善福寺六郎のW「腹が、減った…」ポーズ ほかにも仲良しショットがいっぱい

◆「遠藤さんは、半分、家族のような人」

 輸入雑貨商を営む主人公、井之頭五郎が、営業先で訪れた土地で見つけた食事処にふらりと立ち寄り、食べたいものを独り自由に食す様子を1話完結で淡々と描いたドラマは、食欲をそそる料理と松重演じる五郎の大胆な“食べっぷり”や“心の声”に多くの共感が生まれ、その魅力にハマる人が続出。このたびテレビ東京開局60周年特別企画として、『劇映画 孤独のグルメ』となって登場した。

――本日は、五郎と六郎を演じたお二人に役衣装でお越しいただきました。

松重:すごく貴重ですよね。僕も遠藤さんと対談できるのが楽しみ!

遠藤:すみませんね、しゃしゃりでてきちゃって!

松重:何をおっしゃる。今回の映画で、すばらしいキャラクターが誕生したと思っています。六郎の場面では、客席から笑いと拍手が起きるんですよ。僕も、あそこまで笑っていただけるとは思いませんでした。遠藤さんに出ていただいたおかげです。

遠藤:本当に!?  それはうれしいな。

――完成披露舞台挨拶で松重さんは、キャスト陣について「大好きな人しかいません」とお話ししていました。遠藤さんにはどのような思いでお声がけをしましたか?

松重:遠藤さんとは(名脇役が本人役として共演を果たしたドラマシリーズ)『バイプレイヤーズ』という作品をやっている頃は、半分家族みたいに暮らしていたので、家族のように知っている人というか(笑)、やはり遠藤さんには特別な思いがあります。今回、『孤独のグルメ』のセルフパロディーをやろうとなった時に、井之頭五郎的な役には遠藤さんしか思い浮かびませんでした。どう考えたって、遠藤さんしかいない!(笑) 遠藤さんに断られたらあの部分は成立しないので、その時にはやらないつもりでした。遠藤さんありきのシーンです。恐る恐るお願いしたところ「いいよ!」とお返事をいただけました。

遠藤:はじめは、どんな役を演じるのかはまったく知らなくて。ただ松ちゃんが監督をやると聞いて、監督業第1弾となる記念作に呼んでもらえるなんてうれしいし「もちろん、いいよ!」という感じだったんだけれど、まさか松ちゃんの化身みたいな役を演じるとは! 役をもらって「ウソだろう!?」と思いました(笑)。『孤独のグルメ』にはファンの方がいっぱいいますからね。がっかりさせてしまったらどうしようと、プレッシャーがありました。

あとオレ、食べるのがすごく下手くそなので…。何もかも「ヤバいな…」と。ラーメンを食べることになると聞いていたので、すぐに松ちゃんに連絡をして「これまでの麺を食べている回のDVDを送ってくれないかな」とお願いをしました。松ちゃんは食べることに関して、天才だからね。「どうやって食べればいいの?」と相談したら、「普通に食べればいいんですよ」と言うんです。松ちゃんは普段から美味しそうに食べるし、松ちゃんからしたらそうだろうけど、こっちは参っちゃいますよ(苦笑)。

松重:僕らは何度も一緒に飯を食っているので、遠藤さんがどんなふうに食べるかも目にしてきています。だから「普通に食べればいいんですよ」とお伝えしたんですが、「松ちゃん、どうすればいいの」「松ちゃん、自信ないよ!」と「松ちゃん! 松ちゃん!」と言うんですよ(笑)。こちらはもう「自由に食べてください!」という感じで。あの場面は、実際に『孤独のグルメ』を撮っているような空気感でやっていただきました。1日で全部撮り終えるという臨場感があって、とてもよかったなと思っています。

◆「松ちゃんは、お父さんみたいな人」


――現場で、松重さんの監督としての姿をご覧になっていかがでしたか?

遠藤:六郎がラーメンを食べている横で、五郎が普通にチャーハンを食べていて。不思議なシーンですよね。松ちゃんは役者を温かく包み込んでくれて、リラックスして芝居ができるようにしてくれました。あの日はアングルやカメラの動きにものすごくこだわっていて、松ちゃんは先生のようになって、スタッフに一生懸命に指導をしていました。演じながら、スタッフの教育もしながら、演出もしながら…と一人で何役もやっている姿を見て「本当にすごいな」と感心しました。

松重:『バイプレイヤーズ』は役者中心に脚本について話し合ったりする現場でしたが、その際にも僕は皆さんの意見をまとめる役割をしていたんです。役者たちから意見が出ると、スタッフを集めて「“こんなことをやりたい”と話しています」と、話し合いの段取りをしたり、意見調整をしたり。監督というのは、ある意味ですべての調整役でもあるので、その頃からその下地はできていたんですね。僕はそういうことが嫌じゃないタイプなので、向いているんだと思います。

遠藤:松ちゃんは調整がうまいだけでなく、こだわりが強いからね。『バイプレイヤーズ』の時も、僕らがなんとなくの感覚でやっていたとしても、松ちゃんは整理がつかないと納得がいかない。考えを深めていくのを見ていると「こういうところが自分には欠けているんだな」と気づかされることがたくさんありました。監督業は、こだわりの強い松ちゃんにぴったり! 今回の脚本を読んでもすっきりしていて、計算された空気感があって気持ちがいいなと思いました。出来上がった映画を観ても「これはすごいな」と、本当に面白くて感動しました。観終わってすぐに「大傑作だ」と松ちゃんに連絡しました。

――本作では、人や食との出会いの喜びが描かれています。お二人の出会いとはどのようなものだったのでしょうか。

遠藤:初めて共演した作品って、なんだろう。

松重:瀬々敬久監督のVシネマだと思います。

遠藤:そうだったっけ!

松重:遠藤さん、血だらけになる役でしたよ。大体、僕らは血だらけになることが多かったんですけどね(笑)。瀬々監督のVシネマで遠藤さんとご一緒した時に、「こんなにすごい集中力を持った人は初めて見た。とても真似できない」と感じたことをよく覚えています。遠藤さんは韓国語を話しながら死んでいく役で、ものすごい気迫と集中力だった。

若い頃から、遠藤さんができなかった役がこちらにまわってきたり、僕ができなかったものが遠藤さんのところに行ったりと、お互いにやったり、やられたりしてきたわけです。周りからはライバル関係とも言われますが、僕は遠藤さんを尊敬していて、仲もとてもいいんですね。遠藤さんがどんどん技術をつけていくと、こちらも一生懸命にしがみつくようにして保っていた部分があります。

遠藤:そうだよね。大体、松ちゃんや光石(研)さんといったメンバーで、順番のようにいろいろな役をやっているなという意識があった。それが『バイプレイヤーズ』で一気に距離が近くなって。

松重:あそこから完全にフェーズが変わりましたね。怖い印象のあったおじさんたちが、「かわいい」と言われ始めましたから。おかしいんですよ! あんなにすごい集中力で血だらけになっていた人が、女の子から「かわいい」と言われるんだから(笑)。

遠藤:松ちゃんはあのメンバーの中で一番年下なんだけれど、お父さんみたいな人なんです。すべて段取りをして、すべてをまとめてくれる。そんな人は、松ちゃんしかいません!

松重:また大杉漣さんという、一番の年長なのに、一番やんちゃで人の話を聞かない人がいるから! 大変なんですよ(笑)。

遠藤:大杉さんが亡くなった後に、松ちゃんと光石さん、(田口)トモロヲさんと一緒に、大杉さんの家に行ったんです。地下鉄の駅で待ち合わせをしたんだけれど、その時にも松ちゃんが「何時に、何駅のどこで」とみんなに連絡をしてくれて。オレと光石さんが地下鉄の階段を上がったところで待っていたら、松ちゃんが下からやってきて「なんでここにいるんですか! 改札の前で待ち合わせだって言いましたよね!」とすごい怒られちゃって(笑)。

松重:「なんで上にいるんですか! 下だって言ったでしょう!」ってね(笑)。

遠藤:『バイプレイヤーズ』のメンバーは、とにかくみんなで言いたいことを言い合って、楽しんでものづくりをして。自分としても、大きな思い出の作品になっています。大杉さんのこともあったので、みんなが元気でやっていることが一番。とにかく元気でいろいろなことをやっている姿を見ると、それだけで刺激になります。

松重:遠藤さんのインスタからも、元気をもらいます。今回の映画でインスタをやろうとなった時に、モデルにしたのは遠藤さんのインスタです(笑)。あれも「かわいい」と言われているでしょう! 血だらけの遠藤さんを知っていて、今こうして遠藤さんが輝いているという歴史を思うと元気になりますよね。

◆60代の展望は?


――本作で監督・脚本・主演を務めた松重さんの姿から、刺激をもらうこともありましたか?

遠藤:ものすごく刺激を受けました。昔は「俳優は俳優のやることだけ考えていればいい」という時代でしたが、今はそれがどんどん変わり始めています。『SHOGUN 将軍』の真田広之さんもそうだけれど、自分の中にあるものを形にしたいという思いをきちんと持って、いろいろなことに挑戦する俳優さんが増えてきています。たくさんの才能が芽吹いていて、本当に面白い時代が来たなと感じています。松ちゃんは今回、その走りとして突き進んでくれた。松ちゃんに負けないように頑張りたいし、とても勇気をもらいました。

松重:テレビ局や映画会社のこれまでの枠組みや成功体験だけでやろうとしても、今後は面白い作品が出てこないのではないかという思いもありました。現場を見てきた僕らだからこそできることや、僕らにしか気付けない視点がきっとあるはず。役者がこういうチャレンジをしていいんだという空気を、伝染させたいなと感じています。

――切磋琢磨している、すばらしい関係性です。お二人は60代をどのように過ごしていきたいと感じていますか。

松重:40年の間、俳優業をやってきて、僕自身がキャスティングをする立場になるとは思っていませんでした。今回監督をやってみても感じましたが、やっぱりいい俳優さんというのは、にじみ出る人間性なんだと思うんです。遠藤さんにしても、どれだけ血だらけになってお客様を怖がらせていても、そこからにじみ出てくる人間性に僕も虜にされていました。そういう俳優さんのことを思うと、自分の作品でこんなふうに輝いてほしいと感じたりしました。これからは、監督ではなかったとしても、プロデューサーという立場などで、これまで自分がキャスティングしていただいた恩返しをしていきたいなと思っています。

遠藤:59歳の時に、亡くなられた西郷輝彦さんから「お前、いくつだ」と聞かれたことがありました。こちらとしてはどんどん年を取っていくなと思いながら「もうすぐ60歳です」と答えたところ、「若いなあ! 60代は最高だぞ!」と声をかけていただいて。今まで培ってきたものを全部出せるのが60代だというんです。僕は今年で64歳になるんですが、まだそれを実感できていないところがあって。きっと松ちゃんは、その言葉を真っ先に実感できたんじゃないかと思います。今、幸せでしょう?

松重:まだまだやることが残っていますからねえ…。遠藤さんは脚本を書いたり、現場でも「こういうものをやりたいんだ」とずっとおっしゃっていました。次は遠藤さんの監督作品に出演したいという思いもありますし、どんな形でもバックアップします!

(取材・文:成田おり枝 写真:高野広美)

 『劇映画 孤独のグルメ』は公開中。
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