地方から書店が消滅している問題は、連日のように報じられている。なぜ、地方から書店がなくなると困るのか。それは書店が“知識のインフラ”に他ならないためである。さらに、現在は無料で本を発送してくれるネット書店も、相次ぐ輸送費の高騰や人手不足で、いつ送料を有料化するかわからない。地方と都市部の格差がますます開いてしまうことになる。
そして、地方だからこそ売れる本、地方での暮らしには不可欠な本もいろいろと存在するのだ。これまで地方の書店を取材し、見聞きしたことをまとめてみたい。
例えば、園芸や農業関係の本は地方では堅実に売れると宮城県の個人書店主が話していた。これは家の敷地が広く、庭を作りたい人が多いためという。東北地方は持ち家の敷地面積が日本有数という県が多く、実際に農村を回ってみると庭に花を植え、樹木が茂っている家が多い。空いている敷地で家庭菜園(と呼ぶには規模が大きいが)をしている家も多い。
ハンディタイプの図鑑も売れるという。これからの春のシーズンは山菜、秋はキノコの図鑑が堅いそうだ。持ち運びがしやすく、実際に野山で使えるものが人気である。図鑑がなくてもスマホで調べられそうなものだが、やはり図鑑の手軽さ、ページをめくって調べられる利便性が重宝されているようだ。若い世代や移住者も買い求める人が多いという。
以前に首都圏の書店で取材した際は、「年賀状の素材集が依然と比べてほとんど売れなくなった」という意見が聞かれた。しかし、秋田県にある書店ミケーネの阿部祥代さんは、「確かに昔のような山積みにして売れるほどではないけれど、うちではまだ需要があります。やはり地方では年賀状文化がまだ根強いですし、書店で素材集の実物を見て買いたい人が多いのでしょう」と話す。親戚や地域住民との結びつきが強い地域では、年賀状はまだ欠かせない文化なのかもしれない。
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高齢者は年賀状の素材集を買って家のプリンターで印刷するのではなく、地元のひいきにしていた印刷会社に印刷を頼んでいたケースが多かった。ところが、少子化や経済の衰退などで、そういった印刷会社は地方から相次いで消滅している。そのため、素材集を買って印刷する人が一定数いるのかもしれない。書店もそうだが、かつては地方には1軒はあった印刷会社も、閉店する例が相次いでいるのだ。
また、ミケーネで売れ筋なのは、地域に伝わる昔話をまとめた本や、地域の人たちが執筆したエッセイなどをまとめた同人誌なのだという。これは地元の書店という縁もあって、店頭で販売しているものだ。ほかにも、「羽後町出身の漫画家のおおひなたごうや、辻永ひつじなどの単行本も特設コーナーを儲けています」と、祥代さん。地域に縁の深い作家を応援する体制があるのも、地方の書店ならではの強みといえる。
一昔前まで地方に数多く存在していたのが、タウン情報誌、いわゆるタウン誌である。少子化や過疎化の影響でひっそりと休刊してしまう例が相次いでいるが、こういったタウン誌の需要は決して低いものではなかった。地方ではまだまだネットに掲載されている情報だけでは生活に不便で、タウン誌がカバーしている要素が多いためである。
タウン誌は雑誌だが、読み捨てられることは少なく、何年も保存されることが多かった。美容室や飲食店にも欠かせない存在で、広告効果も高かったといわれる。以前取材した飲食店の店主では「新聞なら1日で読まれなくなり、週刊誌は1週間で並ばなくなる。タウン誌は月刊が多く、捨てられないので、広告効果がかなり長く続いた」と話していた。
タウン誌に載っている情報は公的な自治体の広報誌でも扱えないものが多いため、地方在住者の間では休刊を惜しむ声が多い。なにより、地域に根差した編集体制ゆえ、きめ細やかな取材力が魅力だった。しかし、一度休刊してしまうと復活が困難になるうえ、後継の企業が現れて継続するパターンがほとんどないのが残念である。
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