共働き夫婦が約7割を占める現代において「稼ぐ妻」が世帯年収を押し上げ、存在感を増している。これを戦略的に捉え、「妻の稼ぎを伸ばす」ことで世帯年収を倍増させている者たちがいる。彼らに共通するものは何なのか。新時代の夫婦の戦略を解明していく!
◆夫の1.5倍以上も妻が稼げるワケ
夫(51歳):年収450万円
妻(47歳):年収700万円
妻の稼ぎを伸ばすことで世帯年収を激増させる。そんな新しい夫婦像を採用する人たちが増え始めている。機械メーカーに勤め、地方公務員の妻と2人の子供と暮らす谷岡敏夫さん(仮名・51歳)もそのひとりだ。年収450万円の敏夫さんに対し、市役所で係長として働く妻は年収700万円で、夫の1.5倍以上も稼いでいるが、それが叶うのは敏夫さんが“稼げる妻”を戦略的に支えているからだ。
「部下のいない名ばかり主任でヒラ同然の私と違い、順調に昇進を重ねる妻のほうが将来性も伸び代も高いですから。5年前の春だったかな。妻が激務で有名な財務課に異動になったのをきっかけに、平日の家事・育児は任せてほしいと私から持ちかけました。PTAや三者面談といった子供の学校行事も、半休や有休を活用しながら参加しています」
敏夫さんの一日は朝6時に始まる。起床後は朝食の準備と洗濯、17時すぎに帰宅したら掃除に夕食の準備など、敏夫さんが家事・育児全般を担う。そんな彼にも昇進のチャンスがなかったわけではない。
「数年前に係長への昇進の声がかかりましたが、残業や出張が激増するのに年収ベースで約20万円アップしか望めない。妻の家事負担が増えて世帯年収が減る恐れがあったので断りました。妻から『仕事に専念できるから、キャリアアップが叶っている』と言ってもらえているので、私自身はもう出世は望んでいません」
◆夫より稼げる妻の割合は…
谷岡夫妻のような共働きの形について、「家庭の事情で性のキャリアを途切れさせない社会の流れ、時代は確かに追い風となっている」とは、“家族の幸せ”を経済学的な観点から研究する経済学者の山口慎太郎氏だ。
この言葉通り、自分より年収が高い妻を持つ500人にアンケートを実施し、Q2「妻の年収増をバックアップする理由は?」でも、夫より稼げる環境にいる妻が54.8%を占めている点が明らかになった。こうした現象は大企業ほど顕著だ。
◆自分より年収が高い妻を持つ夫の共通点とは!?
「大黒柱妻」の年収アップに貢献すべく、家事・育児に限らず、時には直接“妻の仕事をサポート”する夫も!?
年収上妻の57.4%が年収600万円以上
そのうち35.2%が年収1000万円以上
Q1.妻の年収が上がった理由は?
昇進・昇給 49%
高い専門性 17%
転職した 12%
資格を取得した 8%
起業した 4%
副業・複業 2%
その他 8%
「女性の大学への進学率が高まり、働かないと損という意識が醸成されたのと、女性の管理職の割合や就業率を高めたい企業のニーズとが合致した」(山口氏)
Q2.妻の年収増をバックアップする理由は?
将来性がある 30.4%
昇進・昇給が早い 24.4%
自分に余裕が欲しかった 11.0%
自分に昇進する気がなかった 10.0%
キャリアアップの希望がある 9.4%
家計のため 8.0%
その他 6.8%
「妻の仕事の将来性の高さ」や「昇進・昇給が早かった」が半数以上を占めた。「女性活躍推進という社会の波に乗り、世帯年収を上げていこうと考える戦略的な夫婦も増えています」(働き方評論家・常見陽平氏)
Q3.妻の年収アップに何で貢献していますか?(複数回答可)
家事 65.6%
子育て 37.2%
妻の仕事のサポート 13.5%
<妻の仕事のサポートの内訳>
営業 3.4%
マネジメント 2.5%
仕事を紹介 2.2%
雑務処理 5.4%
「手を取り合って家庭を育むという世界観が共有され、夫も積極的に取り組める」と常見氏が指摘する通り、家事・子育ての面で貢献している夫は多いが、「妻の仕事のサポート」と直接的に貢献している夫も約1割に
Q4.家事分担の割合は?
最も多いのは「夫5:妻5」が23%
「収入の多寡で決めると、夫婦関係に亀裂が入る恐れも」(常見氏)
※アンケートは、SPA!が「自分より妻の年収のほうが高い」30〜59歳の既婚男性500人を対象にインターネット調査を実施(期間は’24年7月25〜30日)
【経済学者 山口慎太郎氏】
「家族の経済学」と「労働経済学」を専門とする東京大学経済学部教授。著書に『「家族の幸せ」の経済学』(光文社新書)など
【働き方評論家 常見陽平氏】
労働社会学を専攻とする千葉商科大学国際教養学部准教授。多様な視点で働き方事情を分析する人材コンサルタントとしても活躍する
取材・文/週刊SPA!編集部
―[[夫婦で稼ぐ]の新常識]―