2023年4月に岸田文雄前首相が襲撃された事件は、会場で手荷物検査などが徹底されず、爆発物が投げ込まれるのを許した。これを機に警察当局は、演説会では手荷物検査を原則として行うよう主催者に要請。昨年の衆院選では実施率が99%まで急上昇した。
警察庁が23年6月にまとめた検証報告書によると、和歌山県警は受付の設置や金属探知検査を求めたが、主催者が「聴衆は漁業関係者のみ」として実施しなかった。木村隆二被告(25)は警護の目をかいくぐって岸田氏から約10メートルの位置まで接近し、事件を起こした。
22年7月には安倍晋三元首相が銃撃され死亡する事件が起きたばかりで、教訓が十分生かされなかった。警察庁は岸田氏の事件後、主催者への働き掛けを強化。昨年10月の衆院選では、演説会の99%で手荷物検査、98%で金属探知検査が実施された。
23年4月時点でこうした検査が行われていた会場は15%程度だったとされ、同庁の担当者は「理解が進んだ」と話す。
木村被告は、組織に属さず単独でテロを実行する「ローンオフェンダー」(LO)とみられている。全国の警察は昨年からLOの情報収集を強化。衆院選の要人警護では注意を要する人物について「100%演説会場外で阻止できた」(同庁幹部)と胸を張る。
ただ、LOは準備から実行までを一人で行うため、事件の前兆をつかみにくい。実際、衆院選期間中には、男が自民党本部に火炎瓶を投げ込み、首相官邸の柵に車で突入する事件が発生。逮捕された臼田敦伸容疑者(50)=鑑定留置中=もLOとみられている。
今夏には参院選が予定されており、同庁幹部は「LO対策をより強める必要がある」と指摘。別の幹部は「何としても要人への接近を阻止する」と強調した。