この冬、もっとも忙しかった高校サッカー選手は、高岡伶颯(れんと/17歳/宮崎・日章学園)ではなかっただろうか。
高校選手権に出場するだけでも、一般の高校生から見れば特別なスケジュールをこなすことになる。高岡の場合、それに加えて飛び級で参加するU-20アジアカップに関連した合宿があり、いち高校生として学校行事があり、そして高校卒業後に加入するイングランドのサウサンプトンの練習にも参加した。
わかる範囲でざっと書き出してみると、昨年の12月16日から19日にかけて千葉県内でU-19代表合宿があって、それが終わると宮崎に戻って24日に高校の体育祭。そして高校選手権の初戦を迎えるべく、29日には千葉・フクダ電子アリーナのピッチに立った。
初戦の西目(秋田)戦では、いきなりハットトリックを達成して6-1で勝利。しかし、大晦日31日に行なわれたフクアリでの2回戦の矢板中央(栃木)戦では、同点弾を決めるも1-2で敗れている。高校1年、2年は1回戦敗退だったことを考えれば、ひとつの壁を越えることはできた。しかしながら、今大会での注目度、期待度の高さを考えると悔しい結果だっただろう。
年の瀬だけを振り返っても十分にバタバタしたスケジュールだが、年明けも早々に海を渡り、3月に正式契約するサウサンプトンの練習に参加。その後、1月28日に発表されたU-20アジアカップメンバーに選ばれたことで、日本に戻って2月1日からの合宿に合流した。
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2月4日には45分×3本の形式で行なわれた長野パルセイロとの練習試合で、1本目、2本目にフル出場。高岡が作ったチャンスから最初の2点を生み出し、5日はリカバリーの練習にも参加した。以上が、ざっとここ最近の高岡の動きだ。忙しいにも、ほどがある。
華々しいプロキャリアが始まる前の多忙なスケジュールを、本人はどう感じているのか。ミックスゾーンの短い時間のなかで聞くと、いたって真面目な答えが返ってきた。
【先輩・菅原由勢から「がんばれ」】
── この数カ月の多忙ぶりを、どう捉えていますか?
「まあ、どうですかね......贅沢なことだと思っています。これが当たり前だと思わないように。ここに来るまでに支えてくれた方々や、サポートしてくれている方々にしっかりと感謝して、(U-20)日本代表としてもしっかりと自覚を持って。そして、それを真に受けすぎず、自分らしいプレーでチームに貢献したい」
── 真に受けない、とはどういう意味ですか?
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「いろんな声があると思うんですけど、それを真に受けすぎず、ですね」
── 持ち上げられても、という意味?
「そうですね。平常心で。しっかりチームが勝つことだけを考えていきたいです」
このSNS時代である。さまざまな角度から、高騰気味な評価も当然、本人の耳に、目に入る。周囲の声を気に病んでパフォーマンスを落とす選手も少なくない昨今だが、それに対して「真に受けない」のが高岡伶颯17歳のスタンスだ。
U-20代表合宿に参加するまでの約1カ月間は、サウサンプトンで所属選手たちとトレーニングを行ない、一緒に汗を流した。トップチームの菅原由勢からは「がんばれ」と声をかけられたそうだ。練習で得たものは大きかったと語る。
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「コンタクトの強い選手とか、いろんな特徴のある選手がいるので、ここ(U-20代表合宿)に来る前に刺激を受けてよかった。(U-20アジアカップは)相手が外国人で、場所も中国なので、実戦練習をやってきたという感じです」
アジアカップのための実戦練習がプレミアリーグのクラブとは、隔世の感を覚えてしまう。それはともかくとして、まだ代表活動を優先させてもらえる立場でもあり、サウサンプトンでの本格的な勝負はシーズンが始まる夏以降ということがうかがえる。
U-20アジアカップの初戦は2月14日、中国・深圳(しんせん)でタイ代表と対戦する。今大会でベスト4に食い込めば、9月にチリで開催されるU-20ワールドカップ本大会への出場権を得られる。
【U-17ワールドカップの活躍を再び】
アンダー世代にとって、U-20アジアカップの存在は大きい。ただ、大会に向けて抱負を聞くと、なかなかイメージが沸かない、と正直な言葉が返ってきた。
「イメージはないですね。(2年前のU-20アジアカップでキャプテンだった)松木(玖生)さんのプレーとかは見てましたけど、戦って戦ってという感じでした。どの代も(優勝するのは)難しいと思うんですけど、歴史を塗り替えるためにも、まずはU-20ワールドカップ出場に向かってがんばっていきたい。アジアのレベルは上がっているとも聞くけど、日本のレベルも上がっています。日本が一番強いと思います」
あくまで狙うは優勝だ。
2年前のU-17ワールドカップでは、3戦連続の計4ゴールを記録して世界を沸かせた。今大会の目標は「自分に制限をかけないこと」だという。
「目標の点数? ないです。目標を決めちゃうと、それが頭をよぎっちゃうので。まあ、取れるだけ取っちゃおうと思います。アジアを突き抜けないと、これから先もやっていけない。サウサンプトンに行く前の重要な時間にもしていきたいです」
これから世界へと羽ばたこうとしている高岡伶颯が、まず目指すはアジアの頂点だ。