ファミリーマートが5000店規模で売場面積の拡大に乗り出す。一部店舗でイートインスペースを売場へと転換するほか、郊外店ではコンテナの外付けにより売場面積を拡大する。イートインの廃止で約100品、コンテナ増床で数百品の商品を追加できるという。
日販(1日当たりの売り上げ)を比較すると、ファミマは業界トップのセブンに大きく差を付けられてきた。売場面積の拡大によって増収を狙う。イートインの強化から方針転換した詳しい経緯などを関係者に取材した。
●「行き来可能」のコンテナを1000店規模に導入
コンテナの外付けは、敷地に余裕のある郊外店で進める方針だ。2026年2月までに約1000店舗で、コンテナ状の設備を取り付ける。ファミリーマートの広報によると、従来の店舗部分とコンテナ部分は、行き来が可能という。つまり、客視点では単純に面積が大きくなっただけに見える。
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コンテナ部分は売場として構成するほか、店の事務所をコンテナに移し、売場面積を拡大する計画だ。増床により数百品の商品を追加で販売できるようになり、売り上げを1割増やす効果があるという。コンビニの平均的な商品数は3000前後とされ、インパクトは相応に大きい。
2024年2月期におけるファミマの売上高構成は、6割弱が食品で、タバコを含む非食品が3割、チケットや宅急便などのサービスが1割強である。コンテナ部分にどういう商品を追加するか広報に聞いたところ「食品・非食品のいずれも強化する方針。どの商品を強化するかは、店舗の立地などに合わせて対応する」とのことで、詳細までは聞けなかった。郊外では現在、食品を強化しているドラッグストアがコンビニの脅威となっている点を踏まえると、非食品を強化するのではと筆者は考えている。
●一時は「イートイン大幅増」の過去も
売場面積の拡大を目的に、イートインの廃止も進めている。イートインを設置する約7000店舗のうち、3割に当たる2000店舗が対象だ。全店ではないことから、同社は廃止ではなく「売場化」と主張する。
この売場化によって、1店舗につき商品棚を2〜3台追加できる。約100品目の商品数を追加で扱えるようになり、日販が5〜7%増える見込みだ。ファミリーマートの広報によると、追加した棚には「コンビニエンスウェアや日用品、お菓子や加工商品などを拡充する」という。コンビニエンスウェアは近年ファミマが力を入れている衣料品ジャンルであり、靴下や下着、インナー類を取りそろえる。
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振り返ると、同社はこれまでイートインを強化してきた。2015年に強化方針を発表し、イートイン設置店は当時の約3000から2倍以上に拡大している。それではなぜ、方針転換に至ったのだろうか。広報は次のように話す。
「イートインの利用方法に変化が起きたのが理由です。例えば、イートインがコミュニケーションの場として機能してきた店舗では、コロナ禍を境にそうした利用ができなくなりました。新型コロナウイルス感染症が『5類』に移行した後も、利用が戻らなかった店舗について、郊外・都市ともに、店舗ごとに判断して売場化を進めています」
おそらく当初は、スタバのようにカフェ利用を増やす目的だったと見られる。だが、都内の好立地でもイートインを利用している客は少ない印象であり、方針転換にはうなずける。
●FC加盟店が語る「イートインのデメリット」
なお、イートインには店舗側のデメリットもある。ファミマを数店舗展開するフランチャイジー企業の関係者によると、イートインはホットスナックや弁当類の売上増につながるものの「清掃に手間を取られ、人件費増につながる」「イートイン客が店内でゴミを捨てるため、ゴミ処理コストが増える」「長居するマナー違反客がいる」といった課題があるという。
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常に清潔に保っていないと、イメージの低下で客が離れてしまうこともあるため、管理は特にネックとなっているようだ。通常の飲食店では、客が入れ替わるたびに店員がテーブルを清掃するが、人手不足に悩むコンビニにとって、こうした業務をさらに店員に課すのは難しい。
バックスペースを縮小してイートイン化した店舗もあり、逆に商品の売上減となった店舗もあると加盟店関係者は話している。ファミマはこのようなメリットとデメリットを比較して、廃止の線引きを決めたと思われる。
●日販、客数にはまだまだ「王者セブン」と大きな差が
各社のデータによると、1店舗当たりの日販はセブンの69万円に対し、ファミマとローソンは60万円に届いておらず、15万円前後の差を付けられている。2社がセブンを追う構図は昔から変わっていない。
日販の差は、主に客数の差に起因する。1店舗・1日当たりの客数はセブンが900人超に対し、ローソンは700〜750人程度。ファミマは数値を公表していないが、客単価がそう変わらないとすると、ローソンと同程度と考えられる。
「セブン1強」の要因はさまざまだが、好立地を確保している点や、プライベートブランド商品を拡充し「目的買い」に対応できている点などが挙げられる。対してファミマも、デジタルサイネージを設置して客単価増を狙うなど、さまざまな施策に取り組んできた。コンテナ外付けやイートイン廃止も同じ目的といえる。ファミマがセブンを超える日は、果たして来るのか。その前にセブン&アイ・ホールディングスが伊藤忠商事の傘下に入る未来もあり得る中、目が離せない。
●著者プロフィール:山口伸
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。
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