ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」
――今年のマイル戦線を占ううえで重要な一戦のひとつ、GIII東京新聞杯(東京・芝1600m)が2月9日に行なわれる。このレースについて、率直な印象を聞かせてください。
大西直宏(以下、大西)東京・芝マイルは、出走各馬の実力がそのまま反映されやすいコースですが、東京新聞杯は意外にも波乱傾向が強いレースです。実際、過去10年の結果を振り返ると、3連単では10万円超えの高額配当が5回もあって、伏兵の台頭が目立っています。上位人気馬で決着した年もありますが、思わぬ存在が馬券圏内(3着以内)に食い込んでくるケースが多い一戦と言えます。
――波乱となる要因について、どんなことが考えられますか。
大西 いくつか理由があると思うのですが、まずは関東圏での年明け最初の古馬マイル重賞という点が大きいのではないでしょうか。年明け当初は、明け4歳馬がキャリアの浅さから戦績が崩れていないこともあって、人気を集めやすくなります。
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しかしながら、明け4歳馬は古馬との対戦が少なく、実際のところ、両者の力関係は不透明な状態にあります。そうしたなか、過大評価された4歳馬が馬群に沈んで波乱となっていることが多い印象があります。
また、時期的に仕上げの難しさも影響しているでしょう。春のGI戦線を見据えて、ここを叩き台として使う馬も少なくありません。
そういった状況にあって、実績馬が仕上げ途上で本来の力を発揮できないケースが、過去にも何度となく見受けられました。馬自身のポテンシャルが高くても、100%の状態で出てこなければ、思わぬ高配当を生み出す要因となり得ます。
――データ的な特徴としては、上がり最速馬が勝ちきれない傾向があるようですね。
大西 はい。過去10年において、上がり3ハロンでメンバー最速タイムをマークした馬が勝ったのは、わずか1頭。上がり2位、3位の馬の勝利もありません。これは、東京・芝1600mという舞台設定を考えると、異例の傾向と言えます。
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一般的に東京のマイル戦は末脚勝負になりやすいのですが、東京新聞杯に限っては直線勝負一辺倒では通用しない、ということ。レースの流れを読んで、適切な位置取りができる馬が好走しやすい、というのが特徴です。
近年の勝ち馬の多くが、4角6番手以内での立ち回り。前目で運べる馬が有利と言えるかもしれません。
――8枠に入った馬の成績も芳しくありません。外枠が不利な理由もあるのでしょうか。
大西 ひとつは、ここ最近の東京・芝コースは冬場でも馬場状態がよく、極端な前崩れにはなりにくい点が挙げられます。ペースが上がりにくいこともあって、道中で内をロスなく立ち回れる馬が有利な状況にあるからでしょう。
もうひとつ、直線が長い東京コースといえども、外枠の馬は道中で外、外を回らされることで距離のロスが生じやすいです。どんなに末脚が優れていても、他馬より長い距離を走らされて、後方から大外を回って差しきるのは至難の業。
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そうなると、差し馬であってもある程度内目の枠で、それなりにいいポジションを取れる馬を狙うべきでしょうね。
――今年のレースで中心視されているのは、ブレイディヴェーグ(牝5歳)とボンドガール(牝4歳)。これらについては、どう見ていますか。
大西 直近の実績的には、この2頭が一歩リードしていると思います。ブレイディヴェーグは3走前にGIを勝って、前走でもGI4着。ボンドガールも前走のGIで2着と好走しています。さらに、前者はクリストフ・ルメール騎手、後者は武豊騎手というトップジョッキーが騎乗。人気を集めるのも当然でしょう。
ただし、ブレイディヴェーグは海外GIドバイターフ(4月5日/メイダン・芝1800m)を見据えた叩き台。ボンドガールは2000m戦を使われたあとのマイル戦、というのが気になります。どちらも能力の高さは疑いようがないものの、レースへの本気度や仕上がりには注意が必要かと思います。
――では、穴馬として気になる存在はいますか。
大西(8枠15番と)枠順には恵まれませんでしたが、オフトレイル(牡4歳)に注目しています。デビューしてから当初は1600m戦を主戦場としていましたが、その後は1800m戦と1400m戦を使われてきました。どちらの距離にも対応できますが、走りの質を見てもマイル戦が最も合っているように思います。
それに、ゲートが決まれば、好位からの競馬ができる馬。今回のメンバー構成を見ると先行勢が手薄なので、積極策を取れば大きく浮上する可能性があります。
さらに、馬体の成長は好材料。デビュー時は430kgだった馬体重も、前走では454kgまで増加しました。これは、順調な成長を示しており、まだまだ上積みが期待できる段階にあります。
前走のGII阪神C(12月21日/京都・芝1400m)では、スプリント路線の実力馬たちと互角の勝負を展開。セリフォスやママコチャに先着し、GI級のメンバー相手にも通用することを証明しました。
今回のメンバーなら、十分に上位争いができる実力を秘めています。よって、オフトレイルを東京新聞杯での「ヒモ穴」に指名したいと思います。