ピーター・クラモフスキー監督体制2年目だった2024年は7位と優勝争いに絡めなかったFC東京。同じ東京都にホームを置くFC町田ゼルビアがJ1初参戦ながら3位に大躍進し、16年ぶりのJ1復帰をした東京ヴェルディも6位にジャンプアップする中、この成績は誰もが納得いかないものだったに違いない。
迎えた2025年。アルビレックス新潟をYBCルヴァンカップ準優勝へと導いた松橋力蔵新監督を迎え、チーム再建を図っている。
サガン鳥栖から加入のマルセロ・ヒアンや2年目となるエヴェルトン・ガウディーノといった外国人選手、鳥栖からレンタルバックした木村誠二、ブレーメンから獲得した佐藤恵允ら新戦力が加わる中、やはり目玉と言えるのは、2020年夏以来の古巣復帰となる橋本拳人。デュエルの強さとボール奪取力、ロシアとスペインでプレーしたタフな国際経験値など、数多くのストロングポイントを備えた男がFC東京にもたらすものは少なくないはずだ。
「海外で4、5年プレーして、本当にいろいろなことがありました。スペインでの2年半を振り返ると、評価基準が日本と全然違うので、自分がいいプレーをしていると思っても、評価されないことも多かった。言葉も違うし、自分なりには戦術を理解しているつもりでも、プレーで表現しきれない苦しさや厳しさを味わうことが多かったですね。そういう中でメンタル的には非常に強くなったと思う。FC東京でも苦しい時に力を発揮できる選手になりたいですね。以前よりクリーンに激しく守れるようにもなったので、そういう部分も積極的に出していくつもりです」
こう話す彼はヴィッセル神戸に在籍していた2022年以来のJリーグで進化した姿を色濃く示していく覚悟だ。
そのためにも、自ら率先して松橋サッカーの体現者になる必要がある。同じボランチに指揮官の新潟時代の教え子である高宇洋がいる点はプラス要素だが、橋本も高や小泉慶ら周囲の面々を生かしつつ、タフに戦える集団を作っていくべき。
「松橋さんは練習からボールを使ったメニューが多いし、『自分たちが主導権を握って攻撃的なサッカーをする』というのはつねづね言っています。そういう中で、自分はボールを奪うところ、球際で勝ってマイボールにするという強みを出していきたい。攻撃的なサッカーをやる上でも、ボールを失った後にどれだけ素早く奪い返せるかは勝負の大きな分かれ目になってくる。それが一番の役割になると思います」と彼は語気を強める。
中盤でのバトルを制し、試合を優位に運ぶことができれば、FC東京のサッカーに躍動感が生まれ、前線の推進力や迫力も増すだろう。昨季のチームはそういった部分に少し物足りなさを感じさせるところもあっただけに、橋本の加入でギアアップが叶えば理想的だ。
近年でFC東京がタイトル争いを演じたのは、長谷川健太監督が率いた2019年(2位)だが、そのシーズンのようなタフさと泥臭さを取り戻すことができれば、明るい希望も見えてくる。31歳になった百戦錬磨のボランチがそのけん引役にならなければいけない。
「今のチームには(38歳の)長友(佑都)選手、(37歳の)森重(真人)選手がいるので、自分のことをベテランだとは言えないし、『疲れた』なんて言っていられない(苦笑)。僕の性格上、若手も話しかけやすいだろうし、コミュニケーションを取りやすいと思うので、みんなとの意思疎通を大事にしながら、優勝を目指したい。2019年の悔しさは今も残っているので、今度こそチームに貢献していきます」と強い決意をにじませた。
その先には日本代表復帰という野望もある。橋本は第1次森保ジャパン時代に何度か招集され、遠藤航、守田英正、田中碧に続く”第4のボランチ”として期待されていた。が、FIFAワールドカップカタール2022を控えた同年夏にスペイン2部行きを決断したことで、大舞台を逃す形になり、現在に至っている。
本人はその選択を悔やんではいないだろうが、もう一度大舞台を目指したい思いはひと際、強くなっているはず。30代になった今、可能性は少なくなっているが、長友が現在も代表に名を連ねているのだから、ノーチャンスとは言い切れない。それだけの底力を示し、今夏のEAFF E−1選手権にまずは滑り込みを果たすべく、今季は開幕からスパートをかけていくことが大切となる。
「優勝するためには、まず神戸を止める必要がある。(僕も以前いたので)すごく力のあるチームだということは分かっていますし、小さい時から一緒にやってきた武藤(嘉紀)選手もいる。彼が日本に戻ってきてからの活躍は見ていますし、止められるのは僕じゃないかなと。マッチアップする時には誰よりも激しくいこうと思っているので、クリーンな守備で止めたいですね」と橋本は不敵な笑みを浮かべていた。
その神戸との顔合わせは5月10日と少し先。それまでに上位をキープし、圧倒的な注目度の中でライバルと対峙したいところ。そうなるように、背番号18には今季Jリーグを席巻し、主役に躍り出てほしい。まずは15日の横浜FC戦との開幕戦を楽しみに待ちたい。
取材・文=元川悦子