カナダ・ハドソン湾の海氷上のホッキョクグマ(シロクマ)。体毛に氷が付着しにくい謎が解明された(ダブリン大トリニティ・カレッジ提供) 北極圏の沿岸や海氷上に生息するホッキョクグマ(シロクマ)の体毛に氷が付着しにくい謎を解明したと、アイルランドのダブリン大トリニティ・カレッジなどの国際研究チームが11日までに発表した。毛穴近くの皮脂腺から分泌され、毛に広がる皮脂の成分を分析したところ、「スクアレン(スクワレン)」と呼ばれる炭化水素が含まれていないことが分かった。
スクアレンはヒトやラッコ、アシカなど、さまざまな動物の皮脂に含まれる。研究チームはスクアレンがないと毛に氷が付着しにくいことを、比較実験や化学計測で確認した。極寒の環境でシロクマの体が氷だらけにならないことは、分厚い脂肪や毛皮とともに体温の維持に役立つ上、アザラシを狩るために氷上を移動する際、足音で気付かれるのを防ぐ効果があるという。
皮脂は脂肪酸やコレステロールなどで構成されるが、シロクマの場合は「エイコサン酸」など一部の成分が多いことも氷の付着しにくさにつながっていた。研究成果は環境や人体に無害な凍結防止剤を開発するのに役立つという。論文は米科学誌サイエンス・アドバンシズに掲載された。
スクアレンは1916年に工業試験所(現産業技術総合研究所)の油脂化学者、辻本満丸博士がサメの肝油から発見。その後、ヒトやオリーブなどさまざまな動植物にあることが判明した。水素を添加して安定化した「スクアラン(スクワラン)」は、化粧品の保湿成分などとして幅広い製品に使われている。