健常者は障がい者にどう接するべきか——トゥレット症、聴覚障がいの当事者が向き合ってきた現実とは

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2025年02月12日 09:20  日刊SPA!

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日本聴導犬推進協会のアンバサダーを務める難聴うさぎさん
自分の意思に反して体が動いてしまう“トゥレット症”の酒井隆成さん。2019年、大学在学中に出演したAbema TVの番組が話題に。
以来、CBCのドキュメンタリー番組に出演し、2024年には自身初となる著書『トゥレット症の僕が「世界一幸せ」と胸を張れる理由』(扶桑社刊)を出版するなど、トゥレット症の日常や経験を伝える情報発信を精力的に行っている。

一方、聴覚障がいをもつ難聴うさぎさんは、著書『音のない世界でコミュ力を磨く』(KADOKAWA)も持ち、SNS総フォロワー77万人を誇る人気YouTuber。企業と連携し「骨伝導のイヤホン型集音器」を開発したり、日本聴導犬推進協会のアンバサダーに就任するなど、活躍の幅を広げている。

今回、酒井隆成さんと難聴うさぎさんの対談を実施。障がいとの向き合い方や自己実現などについて語ってもらった。

◆「やりたい仕事はすべて挑戦した」

酒井隆成さん(以下、酒井):トゥレット症で外に出る人はまだまだ少なくて、学校に行ける人は増えているものの、バイトもできない人がたくさんいます。障がい者向けの求人サイトもありますが、トゥレット症があまり知られていないため、「体が動いちゃうんだったら商品を触るのはダメ」「勝手に声が出ちゃうんだったら接客はダメ」となんでも否定されてしまって、仕事がないんです。

難聴うさぎさん(以下、うさぎ):それでは選択肢が限られてしまいますね。

酒井:でも声が出ちゃうだけなので、「いらっしゃいませ!」と大きい声を出せば、ラーメン屋では逆にめちゃくちゃいい店員だと評価されるかもしれません。自分から提案すれば、環境を変えられる——。うさぎさんの著書を読んで、その通りだと思いました。

うさぎ:私は、やりたいアルバイトをすべてやりました。ティッシュ配りもしたし、訪問営業もしました。居酒屋などに行き、加熱式たばこをお客さんに販売するんです。髪の毛を結んで補聴器をあえて見せる。お客さんからすると、「耳の聞こえない人が頑張っているから、ちょっと試してみようかな」となるんです。

酒井:ある意味、うさぎさんの強みですね。バイトではないですけど、僕は趣味で絵を描くのが好きで、イラストレーターを目指したことがあります。パソコン上で描くんですけど、手が勝手に動くので、ペンがすぐ壊れてしまう。

1枚描き上げるのに3000円のペンが2本ダメになるので、例えば1万円で作画の依頼を受けると、収支が4000円になるんです。あまりにコストがかかるので、諦めてしまいました。

うさぎ:自分でペンをつくっちゃえば事業になりますよ。

酒井:たしかに! 破壊しようと思ってもできないペンがあったら面白い。うさぎさんと話していると、やりたいことがどんどん出てきますね。

うさぎ:基本的に不可能はないと思っています。できないことをできないと認める。そのうえで、壊してしまうのであれば、壊れないものをつくればいいだけです。

酒井:ペンって健常者の人が使いやすいようにできているから汎用性があっていいけど、僕らには使い勝手が悪い。それならば、僕らに特化してつくればいいわけですね。

◆日常生活で困る「意外なこと」

——ほかに日常生活などで困ることはありますか。

酒井:外に出る上での問題点を解決したうえでここにいるみたいなところがありますし、極論を言うとどうにかなってしまうんですけど、強いていえば、症状がひどいときに映画館に行けないのが苦痛です。映画は上映期間が決まっているのに、その期間にコンディションが悪いと、配信が開始されるのを待たなければならない。

うさぎ:私の場合、字幕がない映画がきついです。一応、補聴器をつけるけど、音が歪んで般若心経のように聞こえるので、映像だけでストーリーを想像しなければなりません。だから配信されるのを待つことが多いです。

酒井:確かに映画は登場人物が画面外で話していることもあるし、観ているだけではわからない部分もありますね。小さなスクリーンでいいから、障がいのある人でも最新の映画が観られる映画館があるといいのに。

うさぎ:本当ですね。

酒井:あとは、物理的なことで困ることが多いです。字を書くのが苦手だし、テーブルなどを叩いてしまうので、置いてあるモノがいつの間にか移動している。自分が想定してないところで起きる問題は、ちょくちょくあります。

うさぎ:物理的な問題だと、やっぱり電話ですね。電話がかかってきたときに周りに友だちがいれば代わってもらったりするけど、ひとりのときは困ります。知らない人に電話に出てもらったこともあります。

緊急だったので、「耳が聞こえない人が隣にいるって言ってください」「なんて言っているか教えてください」とお願いしたんです。無事、問題なく解決できました。

酒井:こういうとき、日本人はすごく優しい。

うさぎ:優しいですね。

◆「日本は障がい者にとって生きやすい」

酒井:自分で発言して環境をつくれれば、日本は障がい者にとって生きやすいと思う。 僕は会社で騒ぎながら仕事をしていますけど、逆にそれが名物になっています。面接の対応もしていますが、「テレビで見ました」と言って来てくれる人もいます。

日常で困るというよりも、むしろ困ることを強みに昇華しようと戦っているところがあります。問題が起きたら、どう乗り越えて目標を達成するかを考える。

うさぎ:私は効率よく生きていきたいから、ムダなことが嫌いです。ムダな時間があるとわかっていたら、その時間を有意義に過ごせるけど、限られた時間の中でなにかに悩む必要はないと思っています。

もし悩みごとが出たら、まずは自分がどうしたいかを決める。すると、それを達成するために逆算してやるべきことが、リストとして頭の中に出てきます。それをひとつずつ遂行するだけです。

酒井:マインドが経営者ですね。「ADHDだから」と言い訳している場合じゃなく、見習いたいです。

うさぎ:ADHDの長所は、みんなが思いつかないアイディアを出してくれることなので、会議にひとりはADHDの人を入れるべきです。発想だけでなく集中力も高く、なにかをやると決めたら、一直線にそれをできますからね。

◆健常者の人には気を遣わずなんでも聞いてもらいたい

——健常者にこう接してほしいといった要望などはありますか。

うさぎ:先ほど撮影前に「どちらの顔(耳)の向きがいいですか」と聞いていただいたんですけど、そういうのを積極的に聞いてくれるとうれしいですね。

酒井:そういう気になることは、とりあえず口に出してほしいですね。

うさぎ:そうそう。

酒井:こっちから一方的に言うと「配慮して」という押し付けみたいになっちゃうので、お互いに気になったことを言い合って、「ここまでは踏み込んでいい」というラインがわかる状態をお互いにつくれるといいですね。

うさぎ:私は人の世界に踏み込んじゃうタイプですが、そのおかげで心を開いてくれることがある。だから、私に対しても全然踏み込んでもらって構わないです。

酒井:NGはないですよね。僕も言われてみて気づくことがたくさんあるし、「初対面なので聞いていいかわからないですけど」などと前置きをしておけば、基本はなにを聞いても大丈夫だと思います。

うさぎ:そうすれば最短で仲良くなれる。

◆「障がい」という言葉はその人を守る盾でもある

——「障がい」という言葉のネガティブなイメージをなくそうと、最近は「がい」のようにひらがなで表記する傾向がありますが、そうした社会的配慮についてはどう思いますか。

酒井:障がいをもっている当事者でそれを気にする人は、僕の体感では少ないのではないかと思います。僕からすると、なんでそんなことを気にするんだろうというのが率直な感想です。

うさぎ:漢字かひらがなかを気にする以前に「障がい」という言葉自体に不満をもっていたり、違和感を覚えている人はいると思います。私はまったく気にしていませんが、私が発言するときには、「障がい」を使わざるを得ない。なぜならこの言葉を使ったほうが、世の中の人に受け入れられやすいからです。

酒井:なぜその言葉が存在するかというと、なんらかの病気の症状があることによって、社会的な障壁があるからです。ある意味ではその人を守るための盾でもあるので、社会との壁がなくなれば、それはただの個性になってしまう。そのことを多くの人に知っていただきたいですね。

——今後の目標を教えてください。

うさぎ:まだ自分がやったことがないことにもっとチャレンジしていきたいです。耳が聞こえない自分がどんどん新しいことにチャレンジすることで、みんなに元気や勇気を与えられる存在になりたいですね。

酒井:僕はグループホームをつくることです。トゥレット症の人は大きな声を出してしまうので、部屋探しに苦労します。そうした同じ病気をもっている人が安心して住める住まいを用意したい。これは絶対に実現したいことですね。

酒井隆成
トゥレット症の当事者として啓発活動に取り組む。2019年、桜美林大学在学中に出演したAbema TVの番組が話題に。以来、マスメディアの取材や自身のYouTubeなどで発信するなど、トゥレット症の日常や経験を伝える活動を行っている。大学卒業後の2023年、重度訪問介護を専門とするマツノケアグループに入社。著書に『トゥレット症の僕が「世界一幸せ」と胸を張れる理由』(扶桑社)。

難聴うさぎ
1歳から補聴器+読唇術、24歳で世界一周を果たし手話も習得。コミュ力モンスター/耳についての発信をYouTubeやTikTokなどで行うインフルエンサー。SNS総フォロワー77万人。著書に『音のない世界でコミュ力を磨く』(KADOKAWA)。

<取材・文/大橋史彦 撮影/星 亘>

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