
2月14日から16日まで(現地時間)の3日間、カリフォルニア州サンフランシコで行なわれたNBAオールスター2025。初日からダンクや3ポイントのスキルチャレンジや若手選手で構成されたチーム同士の対戦などが組まれるなか、NBAのマイナーリーグに当たるGリーグ・オールスターゲームには、河村勇輝と富永啓生が選出され、それぞれが存在感を発揮した。
久々の再会に喜ぶ河村とシーズン序盤の苦境から抜け出しつつある富永。
ジュニア時代から関係を深めてきたふたりの盟友の友情はアメリカ挑戦においても、大きな支えになっているようだ。
【河村が証明したGリーグファン投票1位の魅力】
今年はサンフランシスコで開催されたNBAオールスター2025。最終日に当たる2月16日(現地時間、以下同)、Gリーグ・アップネクストゲーム(Gリーグのオールスター)で躍動する河村勇輝、富永啓生を見ながらアメリカの人気シンガーソングライター、ジャック・ジョンソンの名曲『Better Together』を思い出していた。『Better Together』はシンプルなラブソングで、一緒にいる時のほうがいつもよりよくなれるという趣旨が込められて歌われているが、河村と富永の場合は深い友情に置き換えられる。そこに違いはあるものの、本当に仲がよく、アメリカでの初めての大舞台を一緒に楽しんでいるふたりのGリーガーを見て稀有なケミストリーを感じずにはいられなかったのだ。
Gリーグの選抜メンバーが集まった場でも、河村のスター性と的確なプレーは際立っていた。ファン投票では堂々の1位で選ばれた身長173cmのポイントガードに対し、所属した「チームストリクトリーBボール」のスタメン発表の際にも約1000人の観衆から大きな拍手が贈られた。Bリーグの島田慎二チェアマンもコートサイドで見守った晴れの舞台で、4リバウンド、3アシストをマーク。ハーフコートからアンダーハンドのパスでアリウープダンクを演出し、会場のファン、動画視聴者の度肝を抜くシーンもあった。
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「小さな選手でもNBAでプレーできること、今日も日本から、アジアからたくさんの方が応援しに来てくださって、そういった方々にも"小さくてもプレーできる、NBAでプレーできるんだ"ってことを証明したいと思うんで、それが僕の一つのミッションかなって思っています」
河村本人はそう語っていたが、小柄な身体でファンを喜ばせるプレーができることは、すでにその魅力のひとつになっている印象もある。ここまで平均13.9得点、8.8アシストと活躍してきたGリーグではすでに"リーグの顔"と称しても遜色ない存在に。今オールスター週末中もジェレミー・リン(台湾系アメリカ人初のNBAプレーヤー、現ニュータイペイキングス)と対談するなど忙しい時間を過ごしたようだ。
もっとも、そのような自身の活躍や人気について語るより、富永と過ごした時間について話す時のほうが生き生きとしていたのが、実に河村らしいところでもある。その言葉を聞いていると、高校時代からの盟友であり、同じ年にアメリカでプロ入りした富永の活躍を誰よりも願っているのは河村ではないかと思うほど。そしてもちろん河村にとっても、サンフランシスコでの日々は楽しいものだったようだ。
「僕のほうが1日入りが早かったので、その時はひとりで過ごしましたけど、彼がこっちに入ってきてからは夜ご飯とか行ける時はずっと、彼と一緒にご飯を食べています。リフレッシュできましたし、またレギュラーシーズンで、全力でプレーできるいい機会になったかなと思います」
【富永は右肩上がりの調子が再び自信に】
河村と長い時間をともにした富永のほうも、今回のGリーグ・アップネクストゲームでは存在感を十分に見せた。途中出場で得意の3ポイントシュートとフローターを決め、5得点。余裕を持ったプレーでビッグステージを楽しみ、何よりも大きいのは、好調時の富永の傍若無人なまでの自信が戻ってきていたことだろう。
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昨年12月下旬、所属するインディアナ・ペイサーズ傘下のGリーグチーム・マッドアンツでベンチに張り付けられていた際の富永の表情は、やはり精彩がなかった。それから約1カ月半が過ぎ、Gリーグでの過去4試合の得点は8-9-10-17と右肩上がり。なんと4戦連続でキャリアハイを更新したあとに迎えたNBAオールスター2025でも、その好調と好ムードを継続している印象があった。
「以前はまずプレータイムがまったくもらえていなかった。もらえたらやれるっていう自覚は全然ありましたけど、こうやってプレータイムがもらえて、長い時間、出れば出るだけ、やっぱり自分のプレーの強みが出てくると思っています。今は、プレータイムがもらえて、自分のプレーができているのかなと思います」
もちろんいつでも自分自身を信じきれていたわけではなかったはずだ。ネブラスカ大時代は地元のヒーローだった富永のような選手なら、その難しさはなおさらだろう。それでも常に自分を鼓舞し、河村のような友人の力を借りて、踏みとどまってきた。このまま苦境を這い上がっていけるのであれば、その道のりには大きな価値がある。
「シーズンが始まる前から、(Gリーグが)大変なリーグだっていうのはもともと聞いていた部分ではありました。(だからこそ)辛い時期を乗り越えなければいけないと思っていたので、そこは前向きに、自分のできることをやって、常にstay readyの状態、いつも準備できている状態でいることを意識していました。彼(河村)の存在も大きいですし、我慢して我慢してと思っています」
結局この日、河村と富永が所属したチームは、4チームによるミニトーナメントの初戦で敗れたものの、球宴の舞台での勝敗に大きな意味はない。それよりも、それぞれの形で持ち味を発揮できたことのほうが大きかった。ここで過ごした時間もまた今季後半戦、そしてその先のキャリアのなかで意味を持ってくる。
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"オールスターは時代を映す鏡"という表現があるが、マイナーリーグに当たるGリーグとはいえ、NBAが開催したオールスターにふたりの日本人選手が選出されたことは、日本バスケの成長を物語る一例だったのだろう。河村のアメリカでの実績にしても、まだほとんどはGリーグでのものであり、先輩の八村塁(ロサンゼルス・レイカーズ)、渡邊雄太(現・千葉ジェッツ)のようにNBAの舞台で縦横無尽に駆け回るのにはもう少し時間が必要になるだろう。
それでも、このふたりはそれぞれのステージで何かをつかみ、それぞれの形で前に進んでいける。よい時でも、そうではない時でも、Better Together――。
一緒にコートに立ったという意味では日本代表以来のビッグイベントを終え、後半戦での彼らのさらなる飛躍が楽しみである。