
アメリカ大統領サディアス・ロスが開く国際会議でテロ事件が発生。それをきっかけに生まれた日本を含む各国の対立が、世界大戦の危機にまで発展してしまう。この混乱を食い止めようとするキャプテン・アメリカことサム・ウィルソンにレッドハルクと化したロス大統領が襲いかかる…。“正義の象徴”を受け継いだ新たなキャプテン・アメリカの物語『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』が2月14日(金)から日米同時公開となった。本作で米大統領ロスを演じたハリソン・フォードの日本版声優を務めた村井國夫に話を聞いた。
−長い間ハリソン・フォード氏の吹き替えを担当されていますが、村井さんにとって彼はどのような存在ですか。
僕が初めて吹き替えたのがハリソンさんでしたが、その時はこんなに長く続くとは思いもしませんでした。もう40年以上も一緒で、それこそ長い旅路になりました。ハリソンさんがお元気で、何年かに一度彼の吹き替えができることは、自分が健康で吹き替えができる状況にいられることも含めて大きな喜びです。『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(23)でシリーズを終えられたので、これで最後かなと思っていました。けれどもハリソンさんは生涯現役だとおっしゃって…。今回の映画ではちょっと考えられないような、ここまでやるかと思うぐらい吹っ切ってやっていたのが刺激的でした。こうして刺激を与えてくださるのは非常にうれしい気がしました。元気なハリソンさんを見ていると、自分も頑張らなくてはと思います。
−これまでいろいろな役のハリソン氏の声を吹き替えてきましたが、ご自分の中で印象に残っている映画はありますか。
実は吹き替えをやったものよりも、やっていないものに対しての思いが強いんです。例えば、『刑事ジョン・ブック 目撃者』(85)は僕はやっていないんです。その悔しさがあります。だから「磯部(勉)め」と思ってね(笑)。それからインディ・ジョーンズの4作目の『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』(08)も僕じゃないんです。ミュージカル仲間の内田直哉がやりました。だから1作目から3作目と5作目はやれたけど心残りだったんです。それを録り直してくださるというので、これでコンプリートできたなと思いました。そういうことが印象として残っています。昔はテレビ局によって吹き替える人が違ったりしたので、何本かできなかったものもあって、それが心残りでした。
−ハリソン氏はアクションとシリアスの両方ができる俳優ですが、村井さんはどちらの彼がお好きですか。
それは甲乙つけがたいですね。やっぱり躍動するハリソンさんも見ていたいし、少し渋めの落ち着いた、年齢とともに変わってきた彼も好きですから、どちらが好きとは言えないです。でも、やっぱり動きのある方がチャーミングですよね。インディ・ジョーンズでショーン・コネリーさんと親子役をやった時(『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』(89))はすてきでした。色気もあるし、ちょっとわがままなところもあって。お父さんとけんかするところは、相手が天下のショーン・コネリーですから。僕はコネリーさんが世界で一番すてきな俳優だと思っているぐらいなので、親子の声での共演でしたが、そうやってできたことはとてもうれしかったです。
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−今回のサディアス・ロスという役を吹き替えてみてどんな感じでしたか。
今回は大統領役ということで、権力者なわけですから、落ち着きがあって、自分が背負っているものの大きさも表現しなければなりません。ところが、いかにも権力者というお芝居ではなくて、さりげなく自然にやっていながら、観客に威厳を感じさせるというのは、やはり役者としての長いキャリア故なのかなと思いました。彼の若い頃は、ただきれいなスターだと思っていましたが、年齢を重ねるうちに、いい俳優だと思えるようになったので、せんえつですけれども、そう感じさせるところがハリソンさんの魅力だと思います。
−今回の吹き替えは難しかったですか。
特に難しいと感じたところはないですけど、日本語吹き替えの演出の方から、吐息や吸息といった息の使い方から、何かを考えている時の声というようなところまで、細かく指示をしていただいたので、難しいといえば難しかったけれど、楽しいといえば楽しかったという感じです。今回はいろんな意味で勉強になりました。
−完成作を見た印象は?
派手なアクションと人間ドラマがうまくミックスされていて、ただの漫画みたいなものではなくて、人間が成長する姿や他者との関係性が描かれています。若きキャプテン・アメリカは、アベンジャーズを再開したいと思っていて、その中で悩みながら成長していく。一方のロスはレッドハルクになっていく…。ハリソンさんはこんなこともやるんだ。すごいと思いました。彼の表現の仕方が素晴らしくて、彼が楽しみながらやっていると感じました。
−マーベル映画の魅力についてはどう思いますか。
最近はダーティなヒーローもいますが、やっぱりスカッとする昔ながらのヒーローものであるところがいいですね。今回も、正当なヒーロー、美しいヒーローという感じがしました。僕が若い頃に見ていたスーパーマンもそうでしたが、正当なヒーローを見るといいなと思います。
−村井さんにとって吹き替えの仕事はどんな位置付けになりますか。
他人のお芝居に声を当てるわけですから、そういう意味では僕の仕事の中では一番難しいです。あとは日本語と英語なのでリズムが違います。ただ僕は、ハリソンさんをやることが圧倒的に多いので、演じているうちに、こういう言い方をするのかとか、彼の癖がだんだんと分かってきました。さっきお話した息の使い方も含めて細かいお芝居をなさる方なので、そのタイミングなども分かっていた方がいいと思います。彼の演技を何回もスローで見ていると、こういう表現をするんだという発見があります。それが自分が演技をする時のヒントになったりもするので、難しいけれど楽しいところもあります。今は吹き替えの技術も発達したので、昔よりもだいぶ楽にできるようになりました。
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−村井さんがイメージするハリソン氏の声はどんな感じなのですか。
ハリソンさんよりも僕の方がちょっと声が低いんです。ハリソンさんは、例えばインディがヘビと出合って興奮した時などは高い声もお使いになるように、全体的にちょっと高めなんです。それは意識していましたが、今回は年齢もあってか落ち着いた、渋い感じの声でした。
−最後に、この映画の見どころをお願いします。
やっぱりキャプテン・アメリカがどのように成長していくのかというところでしょうか。彼(アンソニー・マッキー)は本当にスマートな美しい肉体の持ち主で、アクションもキレのある素晴らしい動きをしています。その派手なアクションをぜひ楽しんでいただければと思います。ハリソンさんは、やっぱりレッドハルクに変貌するところが見どころですね。
(取材・文・写真/田中雄二)

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