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亡き母に捧げる、ホラー映画愛炸裂のパンクロックムービー。海外映画祭で熱狂の渦を巻き起こした『ザ・ゲスイドウズ』が、2月28日から凱旋公開する。
DJのようにマッシュアップして
楽曲制作のために田舎で共同生活を始めた売れないパンクロックバンドが、新たな境地を切り開いていく物語…と説明すれば収まりはいいのだが、手掛けたのは『異物 -完全版-』『悪魔がはらわたでいけにえで私』などで知られる宇賀那健一監督(40)だ。
バンドムービーなのにホラー映画に関する固有名詞が飛び出し、喋る犬や喋るカセットテープ、そして『悪魔の毒々モンスター』の監督ロイド・カウフマンがハイテンションで登場。それら奇天烈がアキ・カウリスマキ監督作のような牧歌的視点で淡々と捉えられていく。
ザ・クラッシュのジョー・ストラマーの名言「パンクとは姿勢であって、スタイルじゃねえ!」に宇賀那監督が映画で私信したかのような異色作。先人の影響をさりげなく自作に混ぜ込んでオマージュを捧げるクリエイターが多い中で、ここまでダイレクトに自分の好きなものに言及する監督も珍しい。
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「僕はホラー映画とパンク音楽が大好きで、人格形成においても多大な影響を受けています。今に至るまでずっと好きであり続けているからこそ、映画監督として作品を作る上でも公言していきたいと思っています。『ザ・ゲスイドウズ』は原作ものではないオリジナル映画ですが、これまでの人生で自分が影響を受けてきたもの好きなものを組み合わせてDJのようにマッシュアップして作った感覚があります」
登園拒否で母が見せた『悪魔のいけにえ』
映画タイトルにもなっている秀逸な劇中バンド名も、宇賀那監督の原体験がヒントになっている。「この作品を日本のパンクロック映画として世界に送り出すにあたり、『ドブネズミみたいに美しくなりたい』が僕の中での日本パンクロックの原体験だろうと思い当たりました。そこを自分のホームだと考えた時に『下水道』という言葉が閃いたんです」
映画監督として活動を開始して今年で10年目。その節目に「原点回帰」という意味を込めて本作を放った。そしてホラー映画に開眼し、映画監督の道を志すきっかけを与えてくれた亡き母へのメッセージも…。幼稚園に馴染めず登園拒否をしていた宇賀那少年に母が見せてくれたのは、ディズニーでもジブリでもなく『悪魔のいけにえ』『死霊のはらわた』などのカルトホラー映画だった。
「ホラー好きだった母は僕が大学生の時に癌で亡くなってしまいましたが、そんな母に向けて『僕の事を理解してくれる仲間たちといまだにしょーもない映画を作り続けているよ!』というメッセージを込めたつもりです。まさか息子が『悪魔の毒々モンスター』のロイド・カウフマン監督と一緒に仕事をしているとは…。母も天国でビックリしているはずです」
最低か最高か両極端
母からのホラー映画英才教育を受けると同時に、父からはヌーヴェルバーグなどの作家性の強い映画を教わった。『ザ・ゲスイドウズ』の根底にあるヨーロピアンテイストはそこから来ているようだ。
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「キャスト陣には『アキ・カウリスマキ監督とロイ・アンダーソン監督の作品を見てから撮影に臨んで欲しい』とお願いしました。この2人が作る映画はどれも敗者の物語であり、上手くいかない人間たちへの賛歌で、それはパンクロックも同じ。音楽自体は激しいけれど、そのアティチュードは弱者に寄り添うもの。それを映画として画に表すためには北欧の巨匠2人のトーンが近いと感じました」
自分たちの存在意義に苦悩するボーカルのハナコ(夏子)に、田舎おばあさんのトメは言う。「世界中のどこかには、他の誰よりもあなたたちの曲がブッ刺さる人がいる」。まるで宇賀那監督が自らを鼓舞しているかのような胸熱セリフだ。
「僕の作る映画は好き嫌いが激しくて、映画レビューサイトでは最低点の1か最高点の5かのどちらかです。でも低予算をフィールドにしている人間としては、中途半端なものを作ってそれなりに褒められるよりも、特定の誰かにブッ刺さる映画で勝負していきたいと思っています。トメさんの言葉を自分に言い聞かせて奮い立たせながら、これからも映画を撮っていきたいです」
『ザ・ゲスイドウズ』は、昨年夏に第49回トロント国際映画祭のミッドナイト・マッドネス部門で上映された。深夜の上映にも関わらず、1,000人超収容の会場チケットは…なんと完売。「ブッ刺さる人」は存在している、確実に。
(まいどなニュース特約・石井 隼人)
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