
利用料無料で、子どもたちに多様な教育プログラムをー。富山県舟橋村にある民間の学童保育施設「fork toyama(フォークトヤマ)」の取り組みが注目を集めている。全国の自治体や企業から視察が相次ぎ、昨年のグッドデザイン賞も受賞した。施設の代表を取材した。
東京から移住→学童保育立ち上げ
舟橋村は北陸唯一の村で、広さ約3.5キロ平方メートル。全国に1700余りある自治体の中で面積が最も小さい。それでも富山市中心部からの好アクセスなどを背景に移住先としての人気が高まり、過去30年で人口が倍増(24年2月1日時点で約3300人)。平均年齢も42.2歳と、全国有数の若さとなっている。
fork toyamaを立ち上げた岡山史興(ふみおき)さん(40)=一般社団法人fork代表理事=も、移住してきた子育て世代の1人だ。もともと東京でPR会社を経営し、地方創生などをテーマにした自社メディアを運営。舟橋村を取材して魅力を感じたのを機に、18年に移住するという大きな決断をした。
そんな岡山さんが「学童保育を作る」というさらに大きな決断をしたきっかけは、村が学童保育の直営を取りやめる決定を下したことだった。村直営だった学童保育が民間業者に運営委託されることになり、周囲の保護者らの間でも料金や環境面などに関して懸念が広がったことから「それならば自分が立ち上げてみてはどうか」と思いたった。
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22年にクラウドファンディングを実施し、広い庭付きの古民家を改修。自己資金、銀行融資と合わせて計4500万円をかけてリノベーションし、2023年5月から本格的に運営を開始した。プレオープン時、14人だった登録児童が今では50人を超えた。岡山さんや学童保育指導員を含めスタッフは8人が在籍している。
施設のコンセプトは「子どもたちが様々な生き方の選択肢と出会える、外部の大人と関われる地域拠点であること」。外遊びや宿題といった、通常の学童保育と同様の過ごし方だけでなく、外部から講師を招いた「ワークショップ」が特徴的だ。デザイナーから教わるCG制作体験、地元工務店の家づくり講座、和菓子職人による教室…。内容は多岐にわたる。
岡山さんによると、小学生が過ごす放課後の時間は年間1000時間を超える。「例えば鍵っ子が、その時間をずっと1人でゲームとユーチューブを見て寂しく過ごすのか、あるいは将来の夢につながるようなことに出会える時間や、友達と気兼ねなく遊べる時間になるのか。放課後の1000時間をどう過ごすかは子どもにとって大事なことだと思っています」と岡山さんは話す。
保育料無料を実現する仕組み「みん営」
fork toyamaでは、保護者が負担するのはおやつ代などの実費のみ。保護者には保育料の負担を求めない。その代わりに、「サポーター」として登録している個人や企業・団体の定期的な寄付、また併設しているカフェの売上で、運営費をまかなっている。岡山さんはこの仕組みを「民営」をもじって「みん営(みんなで営む)」と名付けた。
「学童保育の存在価値は、子どもを安全に預かってくれることだけではないと考えています。学童保育があることで保護者が安心して働くことができ、そしてそれは企業にとって社員の労働時間を確保することにつながっている。それは地域が暮らしを維持することにも通じています」。地域社会全体が子育てにかかわる「みん営」の仕組みをデザインし、保護者の収入に関わらず誰もが利用できる学童保育を実現したい、という思いがあった。
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この「みん営」のシステムは話題になり、全国各地の自治体や企業から毎週のように視察や問い合わせがある。2024年のグッドデザイン賞も受賞。同賞審査員からは、子育てが家族単位で行われることで孤立と負担が深まる社会において「みん営」の取り組みは「社会全体が子育てに関わるシステムを提示する」意義があり、「さまざまな人びとの協力によるfork toyamaのあり方は、学童保育が保育事業を超え、地域の活動拠点となる可能性を示している」と評価された。
「今は本当に小さな取り組みです。それでもこの考え方が広まっていくことで、子どもたちがより豊かな人生を送ること、そこで格差が生まれないような状態をつくることにつながれば」と岡山さん。子育てを理由に保護者が働くことを諦めず、保護者だけではなく社会全体で子どもを育てることに今後も向き合いたいです」と話している。
(まいどなニュース・小森 有喜)
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