画像:PR TIMESより ここ半年、アイドルに興味がない人でも、「タイプロ」という言葉は何度も目にしたのではないでしょうか。
タイプロとは、Sexy Zoneから改名したアイドルグループ、timelesz(タイムレス)の“仲間探し”をコンセプトとした新メンバーオーディション「timelesz project(通称タイプロ)」のこと。昨年9月から開始した密着番組『timelesz project -AUDITION-』(Netflix)は、毎週回を重ねるごとに話題を集めました。
2月15日の最終回で、ついに新メンバー5名が決定。オリジナルメンバー佐藤勝利、菊池風磨、松島聡に、橋本将生、寺西拓人、猪俣周杜、篠塚大輝、原嘉孝の5人が加わり、8人組グループの新生timeleszが始動しました。
もはや社会現象と言っても過言ではないほどの盛り上がりを見せたタイプロ。昨年5月のプロジェクト開始早々から、筆者の周囲でも「タイプロ」のワードが盛んに飛び交っていた印象です。
中には熱狂的に“タイプロ沼”にハマる人たちも少なくありませんでした。その傾向は、特に40代前後の女性たちに顕著だったように思います。彼女たちがタイプロに強烈に惹かれるのはなぜなのか、この年代ならではの理由を分析してみたいと思います。
◆タイプロで毎週泣く41歳女性に、夫がドン引き
「オーディション番組には興味がなかったけど、周囲に勧められて見始めたらハマりました。旧ジャニーズ事務所のグループを推していた10代のころの記憶が蘇ってきて懐かしくもあり、でも新鮮さもあって」と語るのは、都内に住む41歳の女性。
「タイプロを何度も見返すだけでなく、好きだったグループのライブDVDを引っ張り出したり、現在STARTO ENTERTAINMENT(旧ジャニーズ事務所)所属で活動しているグループのライブ映像を観たり……ほぼ毎日リビングを占拠! 毎週末、泣きながらタイプロを見ている私を、ドン引きした夫が冷ややか〜な目で見ていました」(同)
また別の45歳女性は、「40代の今だからハマった」と振り返ります。
「20〜30代は、子育てと仕事に追われてとにかくがむしゃらに過ごしてきました。45歳の今は子どもも大きくなって子育てが落ち着いて、同時に仕事も若干マンネリ化してきていたんです」
そんなタイミングで去年始まったタイプロは、彼女の心の穴にすっぽり収まったようです。
「候補生が頑張っている姿はもちろん、現メンバーが自分自身やグループに真正面から向き合って、前進しようとする姿がムネアツすぎて! 青春が戻ってきたような気持ちです。タイプログッズも買って、最終審査結果が出る前からファンクラブにも入りました」
◆一部でタイプロハラスメント、“タイハラ”も?!
一方で、タイプロにまつわる“ハラスメント”を受けたと話す女性も。彼女は30歳で、長くSTARTO ENTERTAINMENT所属のグループを推していますが、タイプロにハマることはありませんでした。
「『タイプロは見ていないし、興味がない』と言っているのに、周りに面白さをずっと熱弁したり、見ることを強要したりする人がいて……それが1人や2人ではないんです。今までアイドルの話なんて一切しなかったような人たちまでそんな状態で、私もアイドル好きなので気持ちは分かりますが、もはやタイプロハラスメント、“タイハラ”だと感じました!(笑)」
このように、40代前後の女性たちが、我を失うほどタイプロに沼るのはなぜなのでしょう。
◆憧れだけではたどり着けない“厳しさ”
課題を通して若い人たちが成長していく。タイプロにおいても、オーディション番組ならではの側面はもちろん魅力です。実際に10代の候補生や、歌もドラマも未熟だった候補生がめきめきと力をつけていく様子に胸を熱くした視聴者は多いでしょう。しかし、それだけでは他のオーディション番組と変わりません。
タイプロで肝となったのは、候補生だけでなく仲間探しをしている現メンバー佐藤勝利、菊池風磨、松島聡の3人にも大いにスポットが当たったことではないでしょうか。
「誰かを笑顔にすること」「アイドルとして見られること」「ステージに立つこと」。憧れだけではたどり着けない“厳しさ”を候補生に伝えるシーンが、随所に見られます。10代のころから国民的アイドルを目指してきた彼らだからこそ、そのパフォーマンスや語る言葉には説得力がある。メンバーのグループ卒業を経験した3人だからこそ、彼らは常に“仲間探し”というスタンスで臨んでいました。
◆ファンの幸せに人生をかける、プロの生き様
しかしそれ以上に、終始ファンの存在を大切に考えていることが分かります。4次審査の途中で松島が候補生に放った「ファンを舐めてもらっちゃ困ります、普通に。だってファンの方は自分の人生を懸けながらお金をかけて皆さんのライブを見に来てくれる」という言葉に、ぐっときた視聴者は多いはず。
「ファンを幸せにしたい」。そのために人生をかけてきた彼らは、間違いなくアイドルとしてプロフェッショナル。タイプロにハマった女性たちに話を聞いた中でも、仕事や子育てで厳しい現実と向き合ってきた経験のあるアラフォー世代の人たちほど、彼らのプロとしての姿勢について熱く語っていました。「尊敬の念を抱かずにはいられない」と。
指導者としてではなく、グループの未来やファンとの未来を見据えているプロフェッショナルな3人の姿は、タイプロならではの魅力といえるでしょう。
◆旧ジャニーズの「暗黙のルール」破ったことでも注目
彼女たちがタイプロにハマった理由はもう1つ、旧ジャニーズ事務所のグループに多かれ少なかれ触れてきた世代だからだと分析します。10代の頃に続々とグループが結成され、ジュニアブームもあった世代だからこそ、回を重ねるごとに沼ったのではないでしょうか。
今回のタイプロが大きく注目されたのは、旧ジャニーズ事務所の長い歴史のなかで受け継がれてきた「他の血は入れない」という暗黙のルールを、破ったプロジェクトでもあったからです。
これまでなら、オーディションを受けて、ジュニアとして何年も下積みをして、ファンと苦楽を共にして、ようやくデビューするというのが王道ルート。デビューしたグループが新たにメンバーを加えることは前代未聞であり、更にジュニアを経験せずにデビューすることも異例中の異例です。ファンからも多くの反対の声があがっていました。
◆10代のころの思い出を、きちんと尊重してもらえた
2023年に表面化した問題をめぐる騒動で、事務所のブランドが地に落ちたとき。自分たちが多感な時期に応援してきたグループやアイドル、ジャニーズを応援する文化そのものを否定されたような気持ちになった人も多かったはず。今回のタイプロという新たな取り組みもまた、過去の否定だと感じた人もいるでしょう。
しかし審査のなかで、timeleszは自分たちのルーツの“いいところ”は残そうという姿勢を強く示しました。3次審査ではジュニアのオーディションと同じ方式を採用しています。「先輩の衣裳を着る喜び」や「先輩に対するリスペクト」「懸命に下積みをしているジュニアの存在」。伝統やイズムを大切にしながら新たな挑戦をする3人の姿を見て、自分たちの10代の頃の思い出を肯定してもらえたような気持ちになったのかもしれません。
◆多くの“大物先輩”たちもタイプロに出演
オリジナルメンバー3人の想いを支持して、多くのSTARTO ENTERTAINMENTのタレントがタイプロに出演しています。
SUPER EIGHTの大倉忠義、Snow Manの渡辺翔太、目黒蓮、20th Centuryの坂本昌行、長野博、井ノ原快彦や、Hey!Say!JUMPの知念侑李、有岡大貴、そして堂本光一に木村拓哉。既に独立した山下智久(タイプロのイントロ楽曲『Anthem』をプロデュース)までも登場。そして最終審査のMCは嵐の櫻井翔が担い、華と愛のあるエールを添えました。
彼らがアイドルとして、timeleszや候補生にかけた言葉。見せたスタンスや背中にも、ファンにとって「応援していてよかった」「ファンでよかった」と思わせてくれるものがあったはずです。
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これだけの熱狂と感動が渦巻いたタイプロは、候補生、そしてtimeleszの元メンバー、STARTO ENTERTAINMENTの歴史を築いてきたアイドルたちと、多くのファンによって創られたエンターテインメントだったのではないでしょうか。
最終審査の結果については、人それぞれに想いがあることでしょう。賛否両論さまざまな意見も飛び交っています。しかし、タイプロが成功だったかどうか今はまだ分かりません。新生timeleszのこれからを、見守りたいと思います。
<文/鈴木まこと>
【鈴木まこと】
日本のドラマ・映画をこよなく愛し、年間でドラマ・映画を各100本以上鑑賞するアラフォーエンタメライター。雑誌・広告制作会社を経て、編集者/ライター/広告ディレクターとしても活動。X:@makoto12130201