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人間というものは多面的であり、誰しもいろんな顔を持っているーーー。
生まれながらに重い疾患を患っていた青年・マッツもそのひとりでした。両親はわが子の人生を悲観していたけれど、実は彼、ゲームの世界でとても幸せで豊かな生活を送っていたのです。
毎週金曜は各配信サイトで観られるオススメ作品を紹介する日。
今週もよく頑張った……週末はおうちでゴロゴロしながら、Netflixドキュメンタリー『イベリン: 彼が生きた証』を観て、カウチポテトになっちゃお〜!
【あらすじ】
ノルウェーに暮らすマッツには進行性の筋疾患がありました。年を重ねるうち、だんだんと筋力が弱っていき、ついには家にこもってゲームするのが精いっぱいの状態に……。
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マッツが25歳で息を引き取ったとき、両親は悲しみに打ちひしがれ、報われなかったであろう息子の人生を憂いていました。
思うように動くこともできず、友だちも作れず、恋もできなかったのではないか。そんなふうに思っていたある日のこと、両親のもとに、マッツの友人を名乗る世界中の人々からメールが届き始めたのです。
【ココが見どころ!】
<その1:家族が知らなかった「もうひとつの人生」>
ゲームの世界で、世界中の人々と友情を築いてきたマッツ。彼のブログにアクセスしたことをきっかけに、両親は息子が歩んでいたもうひとつの人生を知ることになります。
マッツの趣味はオンラインゲーム『World of Warcraft』。ゲームの中で マッツは “イベリン” と名乗り、人々と交流を重ねて、大きなコミュニティーの一員になっていたのです。
イベリンは人当たりが良くて思慮深く、友だちの相談によく乗ってあげていました。街中を駆け回り、人々の問題ごとも解決してあげていました。そして、初めて恋に落ち、プラトニックなデートを重ねていました。
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どれもこれも実際の人生では叶えられなかったこと。けれど、ゲームの世界ではすべてが叶う。両親が知らなかっただけで、実はマッツ(イベリン)の人生はとてもまぶしく、イキイキとしたものだったのです。
<その2:人間臭さもあるところが◎>
マッツは決してひとりぼっちではなかったーーー。その事実を知っただけで胸がいっぱいになり、彼がしてきたことを知るたび涙がじんわりにじんでしまいます。
ハンカチやティッシュが手放せない感動作であるいっぽう、マッツという人物が非常に人間臭くて共感しちゃう。「みんなに優しかったイベリン」も実はペルソナのひとつでしかなく、自分勝手な振る舞いをしてひんしゅくを買ったり、反抗期の子どもみたいに聞き分けがなくなったりと、聖人すぎないところがとてもリアルなんですよ。
そういうところも含めて誰かと交流できていたということは、本当の意味で友情を築けていたということ。マッツの人生は、本当に豊かだったんだなぁ……。
<その3:デジタル世界の再現がすごい>
本作では、マッツがイベリンとして体験したことを映像化するため、ゲームの中に残されていたログを頼りにあらゆるシーンを完全再現しています。
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アニメーターによって再現されたデジタル世界で、実際に話した台詞を声優が読み上げており、その徹底ぶりにため息が出ちゃう。あたかも “ゲームの世界の住人” になったかのような没入体験が待っています。
【妹の言葉が印象的でした】
現代においては、バーチャル世界でも人間関係を構築することができます。そしてその世界こそが、マッツにとってはかけがえのない人生でした。
マッツの家族は、この事実に救われたんだと思います。
さらにマッツには妹がいるのですが、健康な体で生まれてきたがゆえに「兄を差し置いて自分だけ人生を謳歌できない」と涙ながらに語っていたんです。けれど、マッツの本当の人生を知ったとき、そうした想いが昇華できたんじゃないかなぁと思ったり。
人生についてしみじみ考えさせられる、とても見ごたえのあるドキュメンタリーです。
■今回ご紹介した作品
『イベリン: 彼が生きた証』(原題:The Remarkable Life of Ibelin)
2024年10月25日からNetflixで独占配信中
※カウチポテトとは:ソファや寝椅子でくつろいでポテトチップをかじりながらテレビやビデオを見て過ごすようなライフスタイルのこと。
執筆:田端あんじ (c)Pouch
Photo:©︎Netflix