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日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』。パレスチナ人とイスラエル人が命がけで撮影したドキュメンタリー!
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『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』評点:★4点(5点満点)
「大きな物語」が小さな個人や家族を押し潰す
舞台はヨルダン川西岸、いくつもの小さな村で構成される村落「マサーフェル・ヤッタ」......というが、どこにあるのか分からなかったので、Googleマップに「Masafer Yatta」と打ち込んで検索してみたが出てこない。
仕方なくWikipediaに載っていた座標を打ち込んで、ようやく地図上の位置が分かったが、「ストリートビュー」は望むべくもない。
そういう小さな村落を、現地を支配するイスラエル軍が踏みにじり、人々の生活を破壊し(住居や小学校はもとより、井戸や水道管まで壊す非道ぶりだ)、さらに武装した「入植者」たちが押し寄せる。
数十年もそういう状況が続く中、そこに生まれ育ったパレスチナ人と、彼と友情を築いたイスラエル人ジャーナリストらが作ったドキュメンタリーが本作である。
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「その場の当事者」というミクロの視点から見えてくるのは、「〈法律〉で決まったことなんで」と言い募る血も涙もないビューロクラシーの不条理であり、「命令に従い〈任務〉をこなすこと」を最優先し、目の前の生きた人間の苦しみを無視するよう「しつけられた」軍人の非人間性だ。
小さな個人や家族を押し潰す「大きな物語」に一体どんな意味があるというのだろうか。
STORY:ヨルダン川西岸地区生まれのパレスチナ人青年バーセルは、イスラエル軍に占領されていく故郷を幼い頃からカメラに記録し、世界に発信していた。そんな彼のもとにイスラエル人ジャーナリスト・ユヴァルが訪れ、協力を申し出る
監督:バーセル・アドラー、ユヴァル・アブラハーム、ハムダーン・バラール、ラヘル・ショール
上映時間:95分
全国公開中
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