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【写真】海乃美月、凜とした美しさ! インタビュー撮りおろしショット
◆ボニーは「揺るがない強さが魅力」
1930年代アメリカ中西部で銀行強盗や殺人を繰り返した実在の人物、クライド・バロウとボニー・パーカー。社会からはみ出した彼らの無軌道な生き様は、禁酒法と世界恐慌の下、鬱屈した雰囲気のあった当時のアメリカの民衆から英雄視されることもあった。そんな2人の出会いと逃走を描いた映画『俺たちに明日はない』(邦題/1967年)は、アメリカン・ニューシネマの代表的作品として、今日に至るまで高い人気を誇る。
『ジキル&ハイド』『笑う男The Eternal Love ‐永遠の愛‐』『デスノートTHE MUSICAL』ミュージカル『ケイン&アベル』で知られる作曲家フランク・ワイルドホーンが手掛ける本作は2011年にブロードウェイで上演、2012年には日本で初演。その後ブラッシュアップされた本作は2022年にウエストエンドで再演され、今回、満を持して新演出版で届ける。第48回菊田一夫演劇賞を受賞した瀬戸山美咲の上演台本・演出により、クライド役で柿澤勇人と矢崎広、ボニー役で桜井玲香と海乃美月がそれぞれWキャストを務めることも話題だ。
――退団後第1作となる『ボニー&クライド』。ご出演が決まった時の心境はいかがでしたか?
海乃:宝塚でも上演された作品でしたし、楽曲が素敵だということも知っていたので、非常にうれしかったです。雪組公演は映像で拝見しまして、本当に楽曲が素晴らしくて、その分難易度も高いなと感じたことを覚えています。
今回、映画を見返したり、彼女たちがどういうふうに生きていたのかという史実を調べていく中で、普通に生きているだけじゃ体験できないような人生を、この作品に出ることで味わわせてもらえるような気がしてより魅力を感じました。
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海乃:強盗をしながら殺人も犯して2人で逃げていたカップルというイメージと、それにプラスして、みんなが閉塞感を感じているあの時代でヒーローとされていたくらい、人々の理想になっていったと言うか、かっこいいな、たくましいなと思っていました。
――演じられるボニーは、どんな女性だと捉えられていますか?
海乃:幼少期から詩を書いていたりと想像力が豊かなのですが、4歳の時に父親を亡くして、クライドほどではないにしても、生活環境が良くなかった女性。「ちゃんとしていなさい」と言う母親の元で育ったので、抜け出したい思いが人一倍強かったんだろうなと感じました。クライドは怒りが原動力だと思うのですが、ボニーは映画スターを夢見ていて、憧れや夢が原動力だったんじゃないでしょうか。
加えて、勢いがある女性だなとも感じます。普通は自分が一緒に生きて行くと決めた人が途中で殺人を犯したら離れますよね。私だったら一線をひいちゃう(笑)。でも彼女には一回決めたことを貫き通す信念と、それ以上に強い愛があった。この人しか愛せないと思う、ひとつ決めたら変わらないところ、ほかの人みたいに揺るがない強さがボニーの魅力だなと感じています。
――ボニーは、単なる“悪女”と言ってしまえない魅力がありますよね。
海乃:多くの人を魅了する存在として、端から見たら悪女に見えていたかもしれないですし、実際悪いことをしていますが、ボニー自身は悪女になろうとは思っていなくて、「新聞の記事に載りたい」「有名になりたい」「自分の夢を追いたい」という感覚だったと思います。
――ご自身に、ボニーと似ているなと感じる部分はありますか?
海乃:私も結構頑固なんです(笑)。
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海乃:そうなんです。トップ娘役になる前まではあまりそういう役に巡り合わなかったんですけど、就任してからは勝気で強気で姉御肌な役が増えました。私の性格として、ベースの部分ではそういう面を持っていたかもしれないですが、表現をするスキルがなかったので、すごく研究しましたね。
――演じられるキャラクターによって、普段の生活も影響されますか?
海乃:時と場合によるのですが、今回のボニーに関しては私生活から積極的に、作品に関する事を色々取り込んで行こうと思っています。今は、いろんなものに敏感に心が動く精神状態でいたいので、いつもだったら考え込むところもあえて考えずに感性を研ぎ澄ませようとしています。
◆Wキャストの桜井玲香とはそれぞれの持ち味を活かしたボニーを
――退団後初めての作品ということで、お稽古場の印象はいかがでしょう?
海乃:はじめは全く違う世界なのかな?と思っていたんですけど、私はお芝居が始まるとその人が役にしか見えないタイプなんですね。自分の思っていた以上にすぐに慣れました。「男性がいる!」とはなっていなくて、共演者の皆さんのお芝居にリアルな人物像を感じています。
今までは女性が男性を演じている相手役よりもさらに女性らしくしなきゃと、もうひとつ“娘役”という型を演じていたんですけど、その状態がフラットなところに戻った感じで、より素の自分でお稽古場に立っているような感覚もありますね。
――もともと人見知りはしないタイプですか?
海乃:一時期人見知りだったんですけど、今はそうでもなさそうです(笑)。トップ娘役時代はちゃんとしていなきゃと勝手なプレッシャーを自分に課して自分自身に集中していたりしましたが、今は、みなさんがどういう人か知りたい、自分のことも知ってもらいたいと思うので自然と話しかけています。余計なこともいっぱい話しているかもしれません(笑)。
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海乃:舞台や映像でおふたりの作品を拝見しているのですが、柿澤さんはお芝居を緻密に全部計算してやられているのかな?と想像していたんですけど、感性や勢いを大事にしていらっしゃるのかなって。矢崎さんは場を盛り上げてくださったり笑わせてくださるんですけど、その場の空気を読んでいらしたり、お芝居では史実を細かく調べて役作りをされている。おふたりの姿はとても勉強になります。
――ボニー役をWキャストで務められる桜井さんとはどんなお話をされていますか?
海乃:私がめちゃめちゃしゃべりかけてます(笑)。お互いが作品について調べた情報を交換したりしていますね。持ち味が全然違うので、役への考え方などは同じでいいと思うんですけど、それ以外はそれぞれのボニーで良いんじゃないかと話しました。クライドも柿澤さんと矢崎さんで全然違いますし。
◆退団後半年の充電期間を経て改めて気づいた舞台への思い
――海乃さんは宝塚在団中に『1789 -バスティーユの恋人たち-』や『グランドホテル』で、役替わりを経験されています。役替わりとWキャストでは、まったく同じではないかもしれませんが、同じ役を演じられるキャストさんを意識されたりはしますか?
海乃:『1789』の時はまだ研5(入団5年目)で、あんなに大きな役を任せられると思っていなかったんです。ただただプレッシャーを感じていて、どんなふうにお稽古をしていたか憶えていなくて(苦笑)。『グランドホテル』の時は、同じフリーダ役を演じられた早乙女わかばさんのすごく素敵だなと感じたところは盗んでいました。見た目も声も全然違うから同じようにはできない、違うものになって当たり前だと言い聞かせながら、でも近づきたいなとあこがれている部分が多かったです。
今回も桜井さんの演じ方であこがれている部分がありますが、私自身の演じたいボニー像を貫きたい気持ちが強いので、桜井さんから良いところをいっぱい盗みつつ、自分なりのボニー像を作り上げることに集中したいと思っています。
――共演には、元月組トップスターの霧矢大夢さんや、有沙瞳さんといった宝塚OGの方もいらっしゃいます。
海乃:めちゃめちゃ心強いです。霧矢さんは私が組配属になった時にちょうど退団公演をされていて、当時楽屋でお会いしたんですが、公演はご一緒していなくて。今回ボニーのお母さん役を演じていただけるので楽しみです。有沙ちゃんとは、1期違いなんです。今回歌稽古がみなさんとご一緒する初めての現場だったのですが、そこで有沙ちゃんとお話ができたことで、自然と周りの方とも会話ができたので感謝しています。
――退団から半年以上が経ちましたが、今の心境はいかがですか?
海乃:退団後一回舞台から離れてみて自分がどう感じるのかを知る期間にしたいと思っていました。自分が一番心の動くことは何かを探してみようと、半年過ごしていたんです。その間、モデルのお仕事だったり、地元のお仕事だったり、海外に行くことも目標だったので台湾でイベントのお仕事だったり、いろんなことに挑戦しました。そして「やっぱり演技や、歌の仕事をしていきたい」と思う自分がいました。舞台で1から役を作り、楽曲を自分のものにしてお客様に観ていただくのが好きなんだなと、改めて判った気がします。今お稽古をしていて、私はやはり舞台が好きなんだと実感しているので、今回の作品で新しい一歩を踏み出せることが楽しみです。
(取材・文:田中ハルマ 写真:高野広美)
ミュージカル『ボニー&クライド』は、東京・シアタークリエにて3月10日〜4月17日、大阪・森ノ宮ピロティホールにて4月25日〜30日、福岡・博多座にて5月4日・5日、愛知・東海市芸術劇場大ホールにて5月10日・11日上演。