写真―[インタビュー連載『エッジな人々』]―
「モーニング娘。」時代は「加護ちゃん」の愛称で親しまれるも、その後、喫煙騒動で所属事務所を契約解除に。昨年末には二度目の離婚を発表……彼女ほど「波乱万丈」という形容詞が似合うアイドルは、他にいない。半生の捉え方がどう変化してきたか、プロインタビュアー吉田豪に打ち明けたーー。
◆一番大変だった時期は記憶がパツッと飛んでいる
――加護ちゃんのことは昔からよく知っているつもりです。それこそモーニング娘。脱退以前にタバコを吸ったのにも家族間のトラブルとかいろいろ複雑な事情があると思ってるんですけど、最近は、自身の事情には一切触れず、すごいポップに話すようになりましたよね。たとえば「喫煙のきっかけは映画作品だった」とか。
加護亜依(以下、加護):そうそう、『パルプ・フィクション』という作品さえ観なければ私は吸うこともなかっただろうに(笑)。タランティーノの影響力がすごすぎて。
――カッコいい、私も吸わなきゃ、と。10年以上前のことになりますが、アイドルについて聞かれて、「家庭に問題がある子は花が咲く。いろんな気持ちを人に言えない、誰かに愛されたいと思う子がアイドルになる」とも言ってましたけど。
加護:えーっ、ぜんぜん覚えてないです。15年ぐらい前のことはたいへんすぎて記憶が消えてるんですよ。人間ってつらすぎると記憶を消すんだと思って(笑)。17歳、18歳のあの近辺はパツッと覚えがない。よっぽど直視したくなかったんでしょうね。
でも、今おっしゃっていただいたことは深い話だと思います。たとえば母子家庭だったり、そういう子って愛されたい欲が絶対にあるのでアイドルとか表に出る仕事にあこがれるのかな、家庭では満たされない何かを満たそうとするんだろうなって。
◆夢をかなえても満たされなかった
――実際、アイドルになって愛される側になったわけじゃないですか。それで満たされるものなんですか?
加護:これが不思議と満たされないんです。不思議ですよね。夢をかなえたのに何かが満たされないっていうのがずっと続いて。いま30代半ばを超えて40代に向かって、やっと満たされている。
結局、マインドの問題だと思ってて。自分がどこに幸せを置くのかとか。あの頃は満ちていたけど何かが足りないってところがたぶんミステリアスで儚くて、そこが「加護亜依」の人の魅力になってたのかなって思います。
――あんなに元気なのに。
加護:何か切なそう、みたいな。だからよく「加護ちゃんって元気そうだけど、なんか寂しそうだよね」とも言われてて。
――何か寂しそうだったのって、家庭の問題も徐々に出始めてた時期だったんですかね?
加護:いや、まだ出てないですね。家庭の問題はちょうど私が喫煙したときぐらいで。でも、そこはもう話したくないです。そこに自分が戻るとつらいんで。そうなれたのは、自分が強くなったのもあるんですよ。
◆楽しく生きるきっかけに自分がなれればいい
――その結果、いまは当時のことをおもしろ話みたいな感じで言えるようになったんですね。
加護:やっと自分の人生がギャグ化して(笑)。
ずっと何かあって、「よし頑張るぞ」ってなるとまた何かあっての繰り返しで。
――何回も芸能界を辞めると報道が出て。
加護:ホントに。やっとここまで来たのにまた引退報道が出るみたいなことがずっとあったので。これもうギャグじゃない? と思って。
「加護亜依の人生ってギャグだよね」みたいなことをポロッとお友達に言われたとき、自分の人生をやっと笑えるようになったんです。人生っておもしろいほうがいいな、それが自分なんだなって思えた。そういうのを見て少しでも「加護ちゃんもあんな感じだし、まあイケるか」って楽しく生きるきっかけになったらいいなって、この数年で思えるようになりました。
周りのスタッフさんもあえて私をヨイショしないところがすごい居心地よくて。昔はずっと「加護さん」とか言われていたんですけど、そうじゃなくて「もう落ちてるじゃん」みたいな(笑)。「あなたはもうダメな人で、何やったってうまくいかないんだから」ってギャグみたいに言ってくれる、周りで私のことをおもしろく接してくれる人が増えたんです。それで逆に「だよねー! ウケるわ自分」みたいになったところがある。
――その前は、もっと腫れ物に触る感じだったんでしょうね。
加護:そうです。「そんなこと言ったら加護さん傷つくだろうな」とか、インタビューでもそういう感じだったので。私は実はそうじゃないのに……みたいなところがあったんですけど、そういう雰囲気で変えてくれたところがすごくありました。「高額納税者がいまここよ! 一番下の、なんならもう一個下だから。これ以上ないから」って言われて。 たしかになって。
喫煙報道とか過去の結婚話とかも逆に触れないでくれる人もいたんですけど、それで私が委縮しちゃったところもあって、話したほうが自分もスッキリして。
――ある時期からタバコは持ちネタのひとつみたいになってきちゃいましたからね(笑)。
加護:最近ひどいです(笑)。どこの現場に行っても言われますからね。でも何かトラブルがあるほうが芸能界的にはおもしろいんじゃないかなっていうのは密かに頭の中にありました。
――ただ、乗り越えられず力尽きちゃう人もいるわけですよ。
加護:そこに負けてしまえばある意味では楽だったんでしょうけど、できなかったです。それはアイドル時代の負けたくないっていう気持ちが、そこだけは変わらずあるんだなって。
――’18年にはハロプロのコンサートにゲスト出演して、昔の曲を歌って。あれは泣けましたね。
加護:「Hello!Project 2018 SUMMER」ですね。泣きますよね。やっぱりあきらめなくてよかったって思いました。ちゃんとすれば見てもらえるものなんだなって。自分の考え方次第でこんなにも人生が変わるんだって思います。
――それまで自分はなんでこんなに不幸なんだ、みたいな思いもどこかにあったんですか?
加護:そう、ありました。私なんて……みたいな感じだったんですよね。悲劇のヒロインで渦の中にいるのが心地よかったりもして。
自分が幸せを望んでないのかなとか、勝手にそういうマインドに自分が持っていってて。そこにようやく気づけました。こんなに遠回りしないと気づかないんだ、ホントにバカだなーって(笑)。まだいろんなことある気がするんですよ。ずっと何かあったんで。でも、何かがあるから人生だし、また成長できるのかもなって。
――最近はすごい安定して、大きなトラブルがないですよね。
加護:はい、そのはずなんです。
――ただ、先日の2度目の離婚の発表は驚きました。
加護:ビックリですよね、しかも2年前の離婚をいま発表して(笑)。これは誰にも言わなかったんです。だから周りが一番ビックリしてました。「そういうとこあるよね」って言われて。
自分の本心を言わない人間なんだなって思う。小さい頃から。「言わないとみんな悩んでることがわからないから助けることもできない」ってよく言われて。言える人間になれたらいいなって。結婚も難しいですね。
――いままでみたいなたいへんなことがあったっぽい感じじゃないから、まだいいですけど。
加護:いや、たいへんでした(苦笑)。なんでなんだろうって思うような。不倫とかそういうのじゃないですよ。でもその引き出しはなかったっていう。
◆まだ言えていないことももう隠さず話せる気がする
――とはいえ、この先もまだチャンスがあれば結婚しますか?
加護:いや、ないですね。だって2回も失敗してるんですよ。3回目も失敗しそうじゃないですか(笑)。
長く続けていくことってすごくたいへんだし、自分はそれができない人なんだろうなって身を持って感じてるので。20代で最初の結婚を果たしたときはたぶんまだ渦の中にいて、もうちょっとで上がれそうなときだったので。まだ子供で、ちゃんと見えてないところがあったんだろうなと思います。
とりあえず昔よりめっちゃ笑うようになって、めっちゃつらいことがあっても笑っちゃうようになって。それがちょっと困ってる(笑)。そうしないとつらいんだろうなって。
――一種の自己防衛みたいな。ただ、こうして笑えるようになっただけでもまだ良かったんだろうなとは思いますけどね。
加護:そう! 笑えるようになっただけで成長だと思います。
――以前、「順風満帆にいかないのは宿命」と言ってました。
加護:いまもその思いはあります。神のご加護がない(笑)。
――この名前なのに(笑)。とりあえず、いつか自伝を書いたほうがいいと思いますよ。
加護:めっちゃ思います。まだ言えてないことも全部洗いざらい書いて、人生の半分が来たときに出したいです。もう隠さないで話せる気がする。たぶんみんなビックリすると思う。
――でも、ホントよく頑張ったと思いますよ、あの頃から知ってるからこそ言えますけど。
加護:うぅ……ありがとうございます(突然泣き出す)……。
――何度もハラハラしながら、ようやくここにたどり着いたのでよく頑張ったなって。これを言えただけでもよかったです。
加護:聞けてよかったです、本当に。いつだって芸能界やめることできたのに。あきらめることも大事なときもあると思うんですけど、あきらめないってところを世の中に伝えたいです。
【Kago Ai】
1988年生まれ。モーニング娘。の第4期メンバーとして芸能界デビュー。一時、芸能活動の休止を経て復帰。最近ではファンクラブを開設し、SNSやYouTubeチャンネル「加護ちゃんねる」「加護ちゃんの日常」でもさまざまなコンテンツを発信している
【Yoshida Go】
1970年、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。主な著書に『男気万字固め』(幻冬舎)、『人間コク宝』シリーズ(コアマガジン)、『サブカル・スーパースター鬱伝』(徳間書店)、『書評の星座』(ホーム社)など
※週刊SPA! 2025年3月4日号(2/25発売)「エッジな人々」より
取材・文/吉田豪 撮影/中山雅文 ヘアメイク/塙真次 スタイリスト/毛塚由恵
―[インタビュー連載『エッジな人々』]―
【吉田豪】
1970年、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。主な著書に『男気万字固め』(幻冬舎)、『人間コク宝』シリーズ(コアマガジン)、『サブカル・スーパースター鬱伝』(徳間書店)、『書評の星座』(ホーム社)など