【今週はこれを読め! エンタメ編】辛いけど一気読み!〜遠坂八重『死んだら永遠に休めます』

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2025年02月25日 11:40  BOOK STAND

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 「毎日が帰り道から始まればいいのに。 そう思ったことはない?」

 冒頭の二行で、主人公はこんな質問を投げかけてくる。 そんなふうに思ったこと......、私はないかな。「今日という一日が早く終わりますように」くらいは、時々思うけどね。皆さんはどうですか?
 主人公の青瀬は、毎日そう思うらしい。それも仕方がない。だって、労働環境があまりに悪すぎるから。全国にベアリング製造工場を持つ上場企業に入社して六年目、所属しているのは「総務経理統括本部」という部署だ。全社の全部門の雑務を一挙に引き受けており、仕事量はキャパオーバーだ。やってもやっても終わらず、休憩は取れないし帰れない。休めないからミスが増える。感謝はされず、文句は言われ、スキルは向上しない。十年で十三人が退職し、一人が自死、四人が休職中って! 青瀬はまだ二十代なのに、からだの各所が痛い。同僚たちも皆、「死線をさまよっている」(!)ような状況で、生命力を感じられるのは派遣社員の仁菜ちゃんだけだ。
 一番の問題は上司の前川である。状況を改善しようという考えが全くないどころか、悪質なパワハラ野郎なのだ。たいして仕事をしていないくせに高圧的に怒鳴り散らすし、休みの日に泊まりのイベントを企画し、参加を実質強制してくる。理由は、美しい旅館の女将にいいところを見せたいからだという。
 な、なんだそのバカバカしい理由は!この会社、昭和か? 青瀬よ、今すぐ退職届or休職届を出して、まずはゆっくり寝たほうがいい。部屋に溜まった大量のゴミを片付けるのはその後だ。ていうか、なんで辞めないの?
 ......と言いたくなったところで、事件が起きる。前川が突然に失踪したのだ。まともに仕事していなかったから、誰も困っていない。青瀬としては、むしろ消えてくれてくれたことに感謝してしまう。しかししばらく後、前川のアドレスから全従業員宛にメールが送られてくる。自分は部下の誰かに、もしくは全員に殺されたとある。前川は本当に殺されたのか。犯人は同僚なのか。青瀬は、自分たちにかけられた疑いをはらすため、抜けているように見えてやたら鋭いところある仁菜ちゃんの協力のもと、真相を突き止めようとするが......。
 浮かび上がってくるのは、前川周辺で起きていたさまざまな出来事と、あまりに予想外の真実だ。閉ざされた環境で心が歪んでいき、限界まで追い詰められて、自身の姿が見えなくなっていく会社員の姿が、容赦なく剥き出しにされていく。これはフィクション。それはわかっているのに辛い。だけど、ノンストップで読まずにいられなかった。
 働くって、楽なことではない。忙しすぎる時も、苦しい時も、ムカつく時も、自己嫌悪に陥る時もある。心が壊れるほど、追い詰めてはいけないのだ。自分のことも、他人のことも。
(高頭佐和子)


『死んだら永遠に休めます』
著者:遠坂 八重
出版社:朝日新聞出版
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