写真SNSでバズったショート動画「タイに来たらいいと思う」の福井県版パロディー、「福井に来たらいいと思う」が260万回再生を超え、SNSで話題になっています。
動画内で福井県の名物をクセ強めに紹介しているのは、福井県にある旅館「あわら温泉 グランディア芳泉(ほうせん)」の若旦那・山口高澄さん。元々、大手旅行代理店で働いていた山口さんは、実家であるグランディア芳泉を継ぐために会社を退職。現在はグランディア芳泉の常務取締役を務めながら、福井県の魅力を発信しています。
福井県と言えば、昨年、北陸新幹線が延伸。福井と東京の間が乗り換えなしで最短2時間51分になったことで、同旅館では首都圏からのお客さんが2倍以上に増えているといいます。そんな、いま大注目の福井県について、福井県を愛してやまない山口さんに、意外と知られていない福井県の魅力や、おすすめスポットを聞いてみました。
◆故スティーブ・ジョブズ氏が「聖地」と評したお寺
――福井県のPR動画をたくさん撮られている山口さんですが、福井県のイチオシスポットがあれば教えてください。
山口高澄さん(以下、山口)「福井県はどうしても金沢(石川県)に話題を持っていかれてかすみがちですが、おすすめしたいスポットはたくさんあります。
その中でも、ぜひ行っていただきたいのが『永平寺(えいへいじ)』です。永平寺は曹洞宗の大本山として非常に権威のあるお寺で、現在も修行僧が約100名、厳格な修行に励んでいます。一方で、観光客にもお寺が解放され、修行僧の生活を垣間見ることができるんです。このようなお寺は非常に珍しいと思います」
――現役の修行僧がいるのはすごいですね。
山口「故スティーブ・ジョブズさんは、永平寺をZENの聖地として、『これこそ日本の本当の心を表現した寺』だと評しています。実際に足を運べば、厳かな空気や禅の佇まいを感じることができると思います」
――永平寺に行ってみたくなります。
山口「もう一つのおすすめは、『一乗谷(いちじょうだに)朝倉氏遺跡』です。戦国時代に朝倉氏が約100年間にわたって越前の国を支配した城下町が、ほぼ完全な形で発掘されたものです。この遺跡は、国の特別史跡に指定されていて、出土品は重要文化財に指定されています。
永平寺も一乗谷朝倉氏遺跡もそうなのですが、福井県には長い歴史によって作られたものが多く、当時の形が現在も引き継がれています。時代を超えた“本物”に出会える場所とも言えるんです。実際に足を運んで、そのすごさを体感してもらいたいですね」
◆子どもが大喜び間違いなしの「恐竜博物館」
――子ども連れにおすすめの場所などもありますか?
山口「『福井県立恐竜博物館』にはぜひ行っていただきたいです。世界3大恐竜博物館と言われていることからもわかるように、クオリティがすごい! これもやはり歴史が与えてくれたものなんですよね。福井県は恐竜の化石がどんどん出てくる場所なので、必見です。お子さんだけではなく、大人も十分に楽しめます。
恐竜博物館に行った後は、福井名物の越前おろしそばを食べていただきたいです。その後に永平寺に行くのはいかがでしょうか。永平寺からの帰りに、永平寺だんご(御利益だんご)を食べるのもおすすめです。恐竜博物館と永平寺はセットで行かれる方も多いですよ」
――本当に見どころがもりだくさんなんですね。
◆「旅館そのもの」も楽しめるのが福井県
山口「見どころもたくさんありますが、福井県は旅館そのものを楽しむこともできるんです。あわら温泉もそうなのですが、場所柄、敷地の広い旅館が多いです。グランディア芳泉も7000坪の敷地を誇っています。
広々としたお庭に面したラウンジで、オールインクルーシブになっている施設も多く、そこではちょっとしたお菓子や軽食、ドリンク類も全部無料で楽しめます。広々とした施設でゆっくり過ごして、好きなときに温泉に入って、好きなものを好きな時に食べたり飲んだりするのもいいですよね」
◆「あわら温泉は15泊してもいい」と言える理由
――温泉の特徴はありますか?
山口「あわら温泉に関して言うと、現在15軒の温泉旅館が組合を形成しているのですが、74本の源泉がそれぞれの旅館に分配されています。これはなかなか珍しいことです。多くの温泉郷では源泉を組合が一括管理していますが、あわら温泉では各宿がそれぞれ違う源泉を持っているんです。
ですから、よく冗談で『あわら温泉は15泊してもいいくらいですよ』とお客様にもお伝えしていますが、宿ごとにいろんな泉質を楽しむことができます」
――それぞれの温泉を巡るのも楽しそうですね。
山口「泉質は単純アルカリ性成分で、別名『美人の湯』とも言われています。無色透明でなめらかで優しい湯触りが特徴です。老若男女に優しいお湯で、入れば間違いなくリラックスできますよ。
また、あわら温泉の街の中心には屋台の連合体『屋台村』があります。ここでは福井県の名物がたくさん味わえますので、温泉を巡りながら福井の名物を食べ歩きするのも楽しいと思います」
◆福井の魅力や日本の旅行文化を世界に発信
――今後、福井県やあわら温泉でやりたいことはありますか?
山口「北陸新幹線が福井県まで延伸されたことで今お客様が増えていますが、あくまでブームの一環であり、これを一過性のものとして終わらせないことが重要です。そのためには、福井県の知名度をもっと上げていく必要があります。
また、旅行業界全体で見ると、京都や北海道といった有名な観光地ではインバウンドが急増している一方、地方にはあまり浸透していないという課題があります。これは福井県も例外ではなく、海外からのお客様がまだ大きく伸びていません。海外の方々に福井県の場所やアクセス、魅力をうまく伝えていかないといけないですね」
――山口さんも海外進出の企画を立てている、という動画を拝見しました。今後の目標などはあるのでしょうか?
山口「現在、古民家の宿泊施設も運営しているのですが、そこの1階はカフェになっています。その古民家の運営をしながら、そこで出しているコーヒー豆を海外向けに販売しています。元々、旅館業を通して日本文化を発信したいという思いもあるので、まずは小さいことから盛り上げていきたいと思っています。いずれ、海外で日本の旅館文化を発信できるような企業になりたいと考えています」
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福井県・あわら温泉、そしてグランディア芳泉の魅力を余すことなくPRし続ける山口さん。海外進出も視野に入れた、山口さんの、そして福井県やあわら温泉の今後から目が離せません。
【山口高澄】
福井県あわら市で創業61年目を迎える、老舗温泉旅館「グランディア芳泉」の三代目。YouTube「若旦那の勝手に福井観光大使 グランディア芳泉」などで、旅館や福井県の魅力を発信。独創的な経営アイディアや動画が話題になっている。
<取材・文/瀧戸詠未>
【瀧戸詠未】
大手教育系会社、出版社勤務を経てフリーランスライターに。教育系・エンタメ系の記事を中心に取材記事を執筆。X:@YlujuzJvzsLUwkB