【第97回アカデミー賞】“最高スピーチ”はゾーイ・サルダナ!「移民の両親の誇り高い子ども」 映画館離れへの危機感もあらわに

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2025年03月03日 16:31  cinemacafe.net

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第97回アカデミー賞受賞者 Photo by JC Olivera/WWD via Getty Images
第97回アカデミー賞授賞式が3月3日(日本時間)、アメリカ・ロサンゼルスのドルビー・シアターで開催され、『ANORA アノーラ』が作品賞をはじめ、最多5部門に輝いた。この原稿では、4つのトピックスで授賞式の様子をふり返りたい。


番狂わせなしで納得の受賞結果
日本勢は受賞を逃す

オスカー前哨戦と呼ばれる映画賞で、受賞を重ねてきた『ANORA アノーラ』が下馬評通りに、強さを発揮した。監督を務めたショーン・ベイカーが監督賞、編集賞、脚本賞を受賞。自らの幸せを勝ち取ろうと奮闘する、若きストリップダンサーの主人公を演じたマイキー・マディソンが主演女優賞に輝いた。

一昨年に『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が、昨年は『オッペンハイマー』が計7部門で圧勝したのに対し、今年は『ブルータリスト』が3部門(主演男優賞、作曲賞、撮影賞)、『ウィキッド ふたりの魔女』『エミリア・ペレス』『デューン 砂の惑星PART2』がそれぞれ2部門に輝く分散傾向。主演賞こそ混戦ムードではあったが、番狂わせもほぼなく、多くの映画ファンが納得できる結果となった。

なお、ノミネートされた3本の日本作品、伊藤詩織氏が初監督を務めた『Black Box Diaries』(長編ドキュメンタリー映画賞)、山崎エマ監督作『Instruments of a Beating Heart』(短編ドキュメンタリー映画賞)、東映アニメーション製作の『あめだま』(短編アニメーション賞)は、いずれも受賞を逃した。

ゾーイ・サルダナの受賞スピーチに
海外SNSも沸騰

毎年、映画ファンの記憶に刻まれるのが、受賞者たちの感動のスピーチ。第97回アカデミー賞授賞式は、『エミリア・ペレス』で助演女優賞に輝いたゾーイ・サルダナが圧倒した。

「私は移民の両親の誇り高い子供です。夢と尊厳と勤勉な手を持ち、私はアカデミー賞を受賞した最初のドミニカ系アメリカ人です。そして、私が最後ではないと願っています。スペイン語で歌い、話す役で賞をもらえるという事実。私の祖母がここにいたら、とても喜んでくれるでしょう。これは祖母のためのものです」

ドミニカ系アメリカ人の父とプエルトリコ人の母をもつ彼女のスピーチは、瞬く間に海外SNSで沸騰。「感動した」「今夜の主役は彼女」といった主旨のポストが数多く見受けられた。トランプ大統領の移民政策に対する、一種のステートメントでもあり、カウンターとも受け取れる内容が、今後、有意義な議論につながることを期待したい。

山火事で甚大被害の“おうち”ハリウッドにエール

年明け早々、ハリウッドを直撃した大規模な山火事による甚大被害も、避けては通れぬテーマだった。そもそも「今年はアカデミー賞授賞式が開催できるのか?」という議論も巻き起こったほど。無事に開催されることになった今年の授賞式は、『ラ・ラ・ランド』をはじめ、ハリウッドを舞台にした映画の映像をコラージュし、エールを送った。

その流れで『ウィキッド ふたりの魔女』に出演したシンシア・エリヴォ&アリアナ・グランデが、歌唱パフォーマンスを披露した。同作は「やっぱり、おうちが一番」というセリフで知られる『オズの魔法使』から派生した作品。そう、授賞式に出席した映画人にとって、ハリウッドこそが“おうち”そのもの。シンシア・エリヴォが「Home」を熱唱したのもうなずける(こちらは『オズの魔法使い』を原作に、アフリカ系アメリカ人出演者が出演したミュージカル『ウィズ』からの楽曲だ)。

授賞式の中盤では、消火活動に尽力した消防隊員ら10数名をステージに招待。あえて、彼らにジョークを言わせる、明るい演出が印象的だった。もちろん、支援を訴えることも忘れていなかった。

『ANORA アノーラ』監督が訴え
「インディペンデント映画は苦戦している!」

授賞式の演出として、ユニークなCMが流れたのも印象に残った。それは、自宅で、スマホやタブレットを使って映画を鑑賞する人たちに、授賞式MCのコナン・オブライエンが「退屈そうだね、もっといい場所があるよ」と、映画館を紹介するという内容。映画館に連れてこられた人たちが、スクリーンを前に「あれ? スマホは?」「どうやって再生するの?」と戸惑う姿は、一見皮肉に思えるが、映画館離れに対する危機感の表れでもある。

映画館の衰退は、映画の多様性を脅かすことに直結している。作品賞に輝いた『ANORA アノーラ』は、低予算で製作されたインディペンデント映画であるため、今年4つものオスカー像を手にしたショーン・ベイカー監督は「コロナ禍の影響で、1000もの劇場が閉館してしまい、いまも減少傾向です。インディペンデント映画も苦戦しています」と訴え。「世界が分断しているからこそ、いまこそ映画館に足を運んでください」と呼びかけた。

「私は5歳のときに、母親に映画館に初めて連れて行ってもらいました。今日はその母の誕生日なんです。この賞を母に捧げます」(ショーン・ベイカー監督)。なお、『ANORA アノーラ』は現在、全国の映画館で上映中だ。



(Ryo Uchida)

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