松田るかが演技で大切にすること「相手の名前を覚える」その理由とは

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2025年03月04日 09:11  日刊SPA!

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『ちむどんどん』『光る君へ』などに出演し、独自の存在感で注目を集めている沖縄出身の俳優・松田るか。
ガレッジセールのゴリこと照屋年之が監督を務める現在公開中の映画『かなさんどー』では、認知症の父(浅野忠信)と亡き母(堀内敬子)の“夫婦の絆”に葛藤する主人公・美花を演じる。

雄大な沖縄の自然を舞台に繰り広げられる夫婦そして親娘をめぐる感動のストーリーとともに、沖縄で生まれ育った彼女のナチュラルな演技が胸を打つ本作。ちなみに「かなさんどー」とは沖縄の方言で「愛おしい」という意味である。

◆印象に残ったセリフは「大好き」の上位互換

――映画を拝見して自分は「夫婦の絆」について考えさせられました。作品を通じて松田さんが感じたことは何でしょうか。

お母さん、お父さんとして二人を見ていたけど、その前に奥さんであり旦那さんであり、その前は彼氏・彼女であるわけで……。それぞれの関係性が進んでいくなかで、たとえ家族とはいえ全てを知った気になってはいけないな、と思いました。

美花は生まれたときからお父さん、お母さんと一緒に住んでいて、まるで知った気になっていましたが、やっぱり知らないことってあるし、簡単に決めつけてはいけないなと。

――美花を演じる上で心がけたことは?

ストーリー的に現在と過去を行き来するので、感情のだし方で年齢差をつけられたらなと思いながら演じました。若い頃は細かいことにいちいちつっかかったりする感じとかをだして。

――印象的なシーン、心に残っているセリフを教えてください。

お母さんが言った「私は生まれ変わってもお父さんと結婚するし、またあなたを産む」ですね。「大好きだよ」の上位互換というか(笑)、親から言われたらすごい嬉しいなと思って。

どうしても恥ずかしくて、なかなか直接「愛してるよ」とか「大切だよ」って伝えることって自分もなかったなと。この映画を見てくださった人も、きっと誰か思い浮かぶ顔があると思うので、その人に直接、言葉を贈るきっかけになれたらいいなって思います。

◆沖縄の風景と幻想的なラストシーンの裏側

――沖縄の風景も印象的で心が洗われました。なかでもたくさんのテッポウユリに囲まれて美花が「かなさんどー」を歌うラストシーンは幻想的でした。

毎年「ゆり祭り」を開催している伊江島リリーフィールド公園(沖縄県)がロケ場所だったのですが、撮影もちょうど満開の日でしたし、雨も降らず、かすかにユリの香りも漂っていて。

島なのでビルとか家屋とか視界をさえぎるものがほとんどなくて、カメラの後ろも海なんですよ。遠くから波の音がザザーッと聞こえてきて、夜の撮影だったのでお客さんもいなくて。現実に引き戻されるものが何もない夢のような空間で、不思議な体験でした。

あのシーンは民謡「かなさんどー」の作家であり歌手の前川守賢さんがわざわざ現場に来てくださって、モニターではなく、遠くに停めてあるハイエースのなかで弾いてくれた三線を小型のイヤホンで聴きながら歌ったんです。ちょっとしたセッションのような感じでした。

――歌いながら自然と涙も流されてましたね。

監督からは「時間はたっぷりとっていいよ」と言われました。テキパキできるところはテキパキと、ゆっくり時間をかけるところはしっかりとっていうメリハリのある現場でしたね。

「歌いながら込み上げてくるものがあるだろうし、一番は助走に使っていいよ。二番から使うから」と監督に言われたんですけど、蓋を開けてみたら一番から使われてました(笑)。

――松田さんのプレッシャーを和らげる監督なりの演出だったかもしれないですね。

ご自身が俳優業もやられたり表にでられる方なので、出役の気持ちがわかるからこそ、役者に寄り添った演出や現場づくりを心がけられていて、それが作品にもつながっているのではないでしょうか。

◆理想の夫婦像は「背中を預けられる人」

――沖縄の風景の魅力を言葉で表すとしたら?

針葉樹がないので、尖ったエネルギーがたぶん無いのではないかと。

――なるほど。

スギのような背の高い木がなく、常緑樹というか横に広がる丸い葉っぱの植物が多いから視覚的に優しいと思います。

あと、沖縄に帰ると「あ、いた! この生き物!」って、東京では見ない生き物が多いことに改めて気づかされますね。今回の映画でも夜のシーンでヤモリが鳴いているんですよ。本州の方はヤモリの鳴き声をあまり聞いたことない人が多いと思うんですけど、うちなんちゅ(沖縄出身の人)は「あ! ヤモリ鳴いてる! 夜だ!」ってなるんじゃないかなと(笑)。

――では、松田さんが思い描く「理想の夫婦」とは。

体験したことがないので完全理想論になってしまいますが(笑)、ずっと思っているのが「背中を預けられる人」です。

――どういう意味でしょうか。

安心感、信頼感、「この人になら刺されてもしょうがない」と思える相手。「背中を預ける」ってそういうことですし、そう思い合えるのっていいなって。

◆上京10年で変わらない仕事への姿勢と俳優論

――上京して10年、仕事に対する考え方や姿勢は変わりましたか。

変わらないのが「なるべく相手の名前を覚える」。共演者のみなさん、スタッフのみなさん、できる限り覚えるようにしています。見落としがちですけど、結局どんな仕事も「人」と「人」との仕事でしかないというか。

――確かにそうですね。

台本を読んだりすると、どうしても自分が自分がって思いがちですが、その先には監督がいるわけだし、カメラさん、照明さん、音声さん……全部覚えきっているかはさておき(笑)、常にそういう意識で現場には入ります。

――変わらない謙虚さが松田さんを支えているのですね。

小さな島から東京にでてきて、何が方言かもわからず、みんなよりスタートラインが下だと思ってました。上には上がいると思ってずっとビビってましたし、悩みすぎて円形脱毛症にもなりました。なので、せめてそれくらいは自分にもできることなのかなって。

――芝居の面白さ、やりがいについてはいかがでしょう。

終わらないこと、だと思うんですよ。人間って「100」で知ることはたぶん不可能なので、終わりがないですよね。今回演じた美花だって、5年後もう一回台本を読み返すと、もっと違う人に見えるかもしれないし。突き詰めても突き詰めてもまだ“伸びしろ”がある。そこが魅力でもあり、そりゃハマっちゃうよなって思いますね。

――答えがないって逆に怖くないですか?

それぞれだと思います。決まった生活パターンで決まったことをやるのが好きな方もいらっしゃいますし、毎日違うことをしていたいって思う人もいらっしゃいますし。私はあまり怖さは感じてないです。

◆松田るかが克服できない「人の感情を察すること」

――客観的に見て、今の自分に足りないものや身につけたいスキルはありますか。

「客観視」は今の私にとって課題の一つですね。究極的には不可能だと思いますが……難しいですね……。

――思いや考えをわかりやすく言葉にするのってなかなか大変ですよね。

感じるだけでなく考えないといけないですよね。言語化するのが難しいということは、自分のどこにゴミが詰まってできていないのだろうか。それを解読していくことが、きっと演じる役に対するもっと深い読解にもつながっていくと思いますし。

――思考がものすごくロジカルですね。

この10年ちょっと仕事をしてきて、私は感覚型の役者ではないなと思って。やっぱりこの世界、天才っているんですよね。私はそうじゃないから頭を使っていこう、と。

――1人の人間として克服したいことは?

苦手であることは自覚してますが、克服できないと思っているのは「人の感情を察すること」ですね。もちろん察して動けるようにはなりたいと思いますけど、人って裏腹なことをするじゃないですか。構って欲しいのにひどい態度を取ったり。

◆30代を迎える心境「思っているより立派な人間かも(笑)」

――今年30代を迎えるにあたり、思うところを聞かせてください。

私の体感としては「やっと30になれる」という感じですね。でも、社会的・仕事的に30代って仕事や環境が大きく変わったりするイメージがあって。結婚したり出産したりする方もいらっしゃいますし、あと女性の場合、厄年が来るので(33歳)。

――そう考えると、わりと大きな節目ですよね。

むしろもう30歳だと思って生きてます(笑)。20代ってやっぱりまだ大人のようで大人じゃないというか。考えも浅はかだし、勢いで行っちゃうところもあるし。自分を大事にしない生き方ができちゃうんですよ、若いから。

だけど、これからはちゃんと自分を大事にしつつ、周りも大事にしつつ、「自分」だけではなく、「自分」と「周り」で何ができるのか、どうできるのかを考えていきたい。目的や目標のなかに私以外の人たちも介在させて生きたいです。

――月並みですが、食べ物の好き嫌いを直したいとか?

全然ないです(笑)。島で生まれ育ったものですから、けっこう何でも受け入れる性格というか。虫とかも苦手じゃないですし。

――人見知りは?

しないですね。

――車の運転が不得意とか、部屋が片づけられないとか……。

全然そんなことないですね……あれ? もしかしたら私、自分が思っているより立派な人間かもしれない(笑)。

◆知識欲を絶やさずに——俳優として成長し続ける理由

――より一層、興味・関心の幅を広げたい気持ちは?

「勉強」は常にしていたいです。何事においても。

――たとえば?

人ってどういうタイミングでその目の位置になるのか、とか。

――どういうことですか?

FBI捜査官の方が語っていたのですが、人って「昨日、何を食べた」とか過去のことを思い出すときはだいたい左を見るんですって。その逆に未来のことを考えているときは右を向くそうなんですよ(※諸説あり)。

――そうなんですか。

そんなことをカフェで人を見ながら考えるのが大好きで。そういった「知識欲」は絶やさずにいたいです。

年齢を重ねていくといろいろ経験したり知ったりして「わかっているもの」が増えていくじゃないですか。でも、この欲はなくしたくないなって。どんなことにも疑問を持ち、知識を入れることを止めたくないです。

――(目の前の時計を見て)まだまだ寒い日が続きますが……。

今のトーンの変化とかも気になるんですよ。「最後になりますが……」と言わずに締めくくる言い方というか。勉強になります(笑)。

――そうつぶさに観察されると聞きづらいですが(笑)、沖縄育ちの松田さんにとって冬は辛い季節では?

いや、逆に本州は暖房器具がしっかりしているので、寒い季節はしっかり文明の利器に頼り切ってます(笑)。

――では、春を飛び越えて夏が待ち遠しいですか。

でも、沖縄って冬か夏しかない感じだし、ちゃんと四季が感じられるのは都会ならではの良いところだと思いますよ。ゴキブリやアリも小さいですしね(笑)。

【松田るか】
’95年、沖縄県生まれ。地元・沖縄でスカウトされ、女子高生で情報番組のMCを務め話題を集めた後に上京。『仮面ライダーエグゼイド』でヒロインの仮野明日那/ポッピーピポパポ役を演じて注目を集める。主な出演作は『賭ケグルイ』シリーズ、『億男』、『あしやのきゅうしょく』、『レディ加賀』、連続テレビ小説『ちむどんどん』、大河ドラマ『光る君へ』など。最新主演映画『かなさんどー』が全国公開中

<撮影/鈴木大喜 取材・文/中村裕一 ヘアメイク/高良まどか スタイリング/小林優香(AS KNOW AS plus)>

【中村裕一】
株式会社ラーニャ代表取締役。ドラマや映画の執筆を行うライター。Xアカウント:@Yuichitter

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