〔国際女性デー50年〕「ガラスの天井」破った海将=挑戦チャンス奪わぬ社会に―近藤奈津枝・大湊地方総監

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2025年03月04日 14:01  時事通信社

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海上自衛隊の近藤奈津枝・大湊地方総監=2月6日、青森県むつ市
 青森県むつ市に拠点を構える海上自衛隊大湊地方隊は、津軽海峡や宗谷海峡を含む同県以北の海域を警備する。ロシア軍や中国軍をにらみ、「北の要衝」の守りを指揮するのは2023年12月に海将に昇任した近藤奈津枝・大湊地方総監(59)だ。陸海空3自衛隊でトップ階級の将に女性が就いたのは初めてで、今でもただ一人。自衛隊組織で「ガラスの天井」を破った近藤氏に話を聞いた。

 「もともとは高校の教員を目指していた。自衛隊の知識や安全保障に対する強い意識を持っているわけではなかった」。山口大を卒業後、中学で国語の臨時採用教員として働く中、訪れた市役所で自衛官募集のパンフレットが目に留まった。多様な職種とグローバルな活動環境に魅力を感じ、試験に挑戦すると合格。「こんな私でも必要とされているのかな。この組織に貢献したい」と国防の道に進んだ。

 「将」昇任について「女性初という意識は全くなく結果論」と穏やかな表情で語る。「使命感や責任感はもちろんある。それは男性、女性ではなくこうしたポストに就く全ての人が持っている」

 元号が平成に移った1989年に海自に入隊。女性自衛官の勤務環境は今ほど整っていない時代だが「苦労はあまり思い浮かばない」と振り返る。

 唯一「本当に悔しかった」と話すのは、幹部候補生学校を卒業後、女性を理由に遠洋練習航海に参加できなかったことだ。国内外で約7カ月間の洋上生活と訓練を行う遠洋練習航海は、幹部自衛官に必要な知識の習得や国際感覚の育成が目的。「私は艦艇乗りになりたかった。でも当時の艦艇には女性用区画がなかった」

 同学校の卒業生は桟橋からボートに分乗し、湾内に停泊する練習艦に乗り込むのが伝統だが、近藤氏を含む女性同期5人はそのまま桟橋に引き返すしかなかった。無念の思いが込み上げ「みんな泣いていた」という。

 「国家観、世界観、安全保障観、使命感。形成される価値観は想像以上に大きかっただろうし、その財産が欠けたことは非常にビハインドだと思った」。それでも、「ビハインドは『乗り越える』という大きな財産を与えてくれるので一概に悪ではない」と感じている。

 「キャリアアップが何を意味するかは個人の価値観」とした上でこう提言した。「女性が自己に挑戦するチャンスを摘み取るようなことは絶対にしてはいけない。そういう社会になってほしい」

 近藤 奈津枝氏(こんどう・なつえ)山口大卒。89年に海上自衛隊に入り、大湊地方総監部幕僚長、海自幹部候補生学校長などを歴任。23年12月、大湊地方総監に就任。山口県岩国市出身。

 【編集後記】入隊した36年前の自衛隊は圧倒的な男社会だったのだろう。遠洋練習航海に参加できなかったエピソードを聞き、機会すら得られないことの不条理を感じた。幹部自衛官への第一歩を踏み出す節目となったはずだ。

 女性初の「将」として脚光を浴びる近藤さんだが、性別への意識は全くなかった。常に考えるのは「与えられた任務や目標をチームで達成すること」。リーダーとして厚い信頼を寄せられていることに納得がいった。(時事通信政治部記者・中司将史)。 


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