東京電力福島第1原発事故を巡って強制起訴され、控訴審判決のため東京高裁に入る東電元副社長の武黒一郎被告=2023年1月、東京都千代田区 東京電力福島第1原発事故を巡り、業務上過失致死傷罪で強制起訴された元副社長の武黒一郎(78)、武藤栄(74)両被告について、最高裁第2小法廷(岡村和美裁判長)は5日付で、事故の予見可能性を否定して無罪とした一、二審判決を支持し、検察官役の指定弁護士の上告を棄却する決定をした。史上最悪の「レベル7」と評価された原発事故の刑事裁判は、発生から14年で旧経営陣の無罪判決が確定する。
裁判官3人全員一致の意見。検察官出身の三浦守裁判官は事故の捜査に関わったとみられ、判断に加わらなかった。昨年10月に死去した勝俣恒久元会長=当時(84)=も公訴棄却となっており、被害者らが求めた旧経営陣への刑事責任追及は退けられた。
指定弁護士は両被告ら3人が2008〜09年、津波地震を予測した政府機関の「長期評価」を基に、同原発の敷地高を超える最大15.7メートルの津波が襲来するとの試算結果などについて報告を受けていたと指摘。それにもかかわらず対策を先送りし、地元病院の入院患者ら44人が死亡するなどした事故を招いたとして禁錮5年を求刑していた。
一方、3人は事故を予見できなかったとして無罪を主張していた。
同小法廷は、長期評価の見解について「信頼度も低く、10メートルの高さを超える津波が襲来する現実的な可能性を認識させる情報だったとまでは認められない」と判断。事故は予見できなかったとした二審判決が「合理性を欠くと考えるのは困難だ」とし、無罪は相当だと結論付けた。

東京電力福島第1原発事故を巡って強制起訴され、控訴審判決のため東京高裁に入る東電元副社長の武藤栄被告(中央)=2023年1月、東京都千代田区