日本テレビ プレスリリースより 市川実日子は、ほんとうに不思議な存在感の人だと思う。例えば、彼女の何気ない表情が写るだけで、なぜかハッとするものがある。
毎週日曜日よる10時30分から放送されている『ホットスポット』(日本テレビ)は、市川にとって民放の連続ドラマ初主演。本作での市川は宇宙人おじさん相手に、平然と振る舞える凛々しさがある。もはや宇宙人以上に超人的な存在かもしれない。
男性俳優の演技を独自視点で分析するコラムニスト・加賀谷健が、本作の市川実日子を解説する。
◆バカリズム脚本の女性たち
バカリズムが好んで脚本作品に登場させる女性キャラクターたちは、ぺちゃくちゃしゃべってばかりいる。仕事の合間でも時間を見つけてぺちゃくちゃ、業務で一度中断されてもすぐに再開してまたぺちゃくちゃ。
そういう人いるよなぁ、そういう会話よくあるよなぁという視聴者の共感を集めるくすくす感が癖になる。最新ドラマ『ホットスポット』もまた第1話を見始めたら、これがもうとまらない。何が描かれているわけでもないのに面白い。
ほんど素の状態でリアクションを繰り返しているかのような女性俳優たちのやり取りが、絶妙な間合いで計算されているからなのか、どうか。ともあれ、バカリズム脚本の女性たちの中でも本作の市川実日子は、一段と素の状態なのに、突出してきらめく存在だと思う。
◆宇宙人であることを告白する中年男性
市川演じる主人公・遠藤清美は、シングルマザーでホテルに勤務している。毎朝規則正しく出勤して、夜勤スタッフからフロント業務を引き継ぐ。午前中いっぱいは、チェックアウト業務で忙しい。
夜勤スタッフのひとりに、高橋孝介(角田晃広)という中年男性がいる。どこにでもいそうなおじさんである。後輩スタッフから少しだけやっかい者扱いされている高橋だが、ある日、清美だけに自分が宇宙人であることを告白する。
フロント業務の合間に激白された清美は、あまり真に受けない。当然である。おじさんの戯言くらいにしか思わない。でもどうやら、ほんとうらしいのである。10円玉を指だけで簡単に折り曲げる特殊能力を見せられた清美は、うっすら信じてみるのだが……。
◆宇宙人以上に超人的な市川実日子
清美と高橋は、フロント裏の事務所で、信じる、信じないの押し問答を繰り返す。女性キャラクターたちによるぺちゃくちゃ話よりたわいないものであり、無駄な会話だが、角田晃広が演じる宇宙人おじさんになぜかジワる。ひたすらジワる。
高橋の宇宙的特殊能力を駆使して、清美は幼馴染たちの無茶振り相談などを解決してもらい、何かと助けられるのだが、フロント業務では結構な頻度で高橋に対して「イラッと」している。
そのとき大抵、清美は相手が宇宙人だろうと静かな怒りの表情を浮かべる。宇宙人相手にどうして平然としていられるのか。宇宙人以上に超人的な市川実日子の魅力というものがある気がする。
本作のようにエキセントリックな設定のドラマに限らず、リアリズム志向の作品でも同じである。やたらピカピカあざやかな色合いの野菜を洗う坂口健太郎が、不思議な存在感を醸す映画『サイド バイ サイド 隣にいる人』(2023年、以下、『サイド バイ サイド』)で、恋人役を演じる市川が超人的雰囲気を醸す坂口のかたわらで、常に凛としてフラットな感じだった。
◆眼差しの演技が一貫して魅力的
『サイド バイ サイド』はワンカット目から、着席したバス車内で揺られる坂口健太郎の横顔がひたすら魅力的なのだが、市川実日子もまた初主演映画『blue』(2002年)冒頭近く、バス車内のつり革につかまる横顔が印象的だった人である。
超人の傍らでも平然といられる市川実日子リアリティみたいなものがあるとして、それはいったいどこ由来なのか。みたいに考えたとき、この初主演映画は、そもそも市川実日子その人が、超人的な存在感だったのだとわかる。
女子高生役の市川が、クラスメイトたちを見つめ、画集を眺める。何かしら対象に視線を注ぐことに徹する。するとこの基本受け身でありながら、主体的でもある彼女特有の雰囲気が醸成される。それは、小宇宙的である。
『ホットスポット』でも客室前の廊下で高橋と立ち話する場面など、市川がふとした瞬間に見せる相手俳優への積極的な眼差しにはハッとするものがある。現在46歳。20歳そこそこだった『blue』当時から、この眼差しの演技が一貫して魅力的だ。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
コラムニスト / アジア映画配給・宣伝プロデューサー / クラシック音楽監修「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu