KDDI高橋社長インタビュー 「料金値上げ」示唆の意図、利益は投資に回して「世界一のネットワーク」に

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2025年03月07日 18:51  ITmedia Mobile

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MWC Barcelona 2025では、KDDIの高橋氏がグループインタビューにこたえた

 2024年のMWCに初出展したKDDI。2年目となるMWC Barcelona 2025では、傘下に収めたローソンをほうふつとさせる形のブースを出し、来場者の注目を集めた。キャリアが収益化を図るには、通信そのものに加えて、小売りなど、非通信領域への進出が必要になる――そんなメッセージをブースそのもののデザインから送り出しているようにも見えた。


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 初めて基調講演に登壇した代表取締役社長CEOの高橋誠氏が語ったのも、いかにしてキャリアが自らを変革していくかといったテーマで、展示とも一貫していた。そんな高橋氏が、MWCの会場で報道陣からの取材にこたえた。既報の通り、4月に高橋氏は社長を退き、現・取締役執行役員常務の松田浩路氏にバトンを手渡す。社長として最後のメッセージになるだけに、内容は多岐にわたっている。ここでは、その言葉を余すところなくお届けする。


●「AI RAN自体はちゃんと勉強しておけ」と技術陣には言っている


―― MWCでは、AIが多い印象でした。KDDIもネットワークオペレーションを最適化するAIを出展しています。


高橋氏 2年前に通信障害を起こしてしまいましたが、そこからゼロタッチオペレーション(人手を介さずに自動で行う運用のこと)が広がってきました。正直、一気にやりすぎると影響範囲が広くなるので、AIの学習は必要です。ハルシネーション(AIが誤った回答をすること)もあるので、ここは知見を一生懸命ためていきながら、ですね。


―― 基地局側に処理能力の高いCPU/GPUを入れ、AIで無線そのものを最適化するような「AI RAN」はいかがでしょうか。


高橋氏 GPUのコストがどこまで落ちてくるかですね。ただ、AI RAN自体はちゃんと勉強しておけと、技術陣には言っています。ベンダーを回ると、CPUでも動くようにする、GPUでも大丈夫ということを言っていますが、それはたぶんメークセンスだと思います。


 これは個人的な見解ですが、エリクソンやノキア、サムスンといった既存ベンダーは垂直統合ですが、全てアメリカのものではない。逆にOpen RANやvRANはサーバやソフトウェアなど、アメリカ製が多い。アメリカ側からすると、こっち(Open RAN)に持っていきたいとうい動きが強い。とはいえ、PCだって汎用(はんよう)機器の上でソフトが動く仮想化なので、時代としてはそちらに向かっていくと思います。


―― 端末側に入れるAIもかなり増えてきた印象です。


高橋氏 端末系だと、日本はJava(フィーチャーフォンのアプリ)のときからやってましたよね。ただ、日本は不用意にオープン化に走りすぎた。第1回の通信と端末の分離があって、インセンティブの抑制を打ち出し、そのあとに孫(正義)さん(当時はソフトバンク社長)が割賦を入れ、iPhoneを持ってきましたが、総務省は止められなかった(ので、そこが弱くなってしまった)。逆に、韓国はきちんと政府がそれを止めています。MWCを見ていても、KTなどの韓国キャリアはきちんと(端末と融合させた)AIエージェントをやってますよね。


●ネットワークとユーザー接点を持つ「ライフプラットフォーマー」を目指す


―― そんな中で、キャリアの進む道を打ち出した基調講演がありました。


高橋氏 講演でも引用しましたが、僕は最初にGSMAのチャートを見たときのことが、すごく頭の中に乗っているんです。あれは横がユーザーとのタッチポイントを深く持っているかどうか、縦がネットワークを持っているかどうかで、その2つがあると「ライフプラットフォーマー」になれるというものです。あれを見て、うちはこっちに進んでいかなければと思いながらやってきたところがあります。一緒に講演したe&(etisalat and)にしても、MTMにしても、そっち路線の講演をしていました。


―― GSMAのボードメンバーをやってきましたが、何か受け止めはありますか。


高橋氏 GSMAはGSM(欧米、アジアで主流だった2Gの方式)の団体だったので、そういう意味ではやはり欧州中心です。今はアジアも入って、日本からも(KDDIが)入っていますが、そこにコントリビュートするのはなかなか難しい。ただ、下のレベルのワーキンググループでは、いろいろなことを提案しています。


―― アジアや日本で何らかのアライアンスを作るのは難しいでしょうか。


高橋氏 MNOだと難しいかもしれないですね。韓国もそうですし、東南アジアを見ていても、MVNOにどんどんシェアを奪われて感じがあります。日本の場合も、政策としてMVNOによって競争を起こすはずでした。そこに楽天モバイルが入ってきて、UQ mobileやY!mobileがぶつかりにいったので、その楽天モバイルですらシェアがなかなか伸びていかない。そんな中でMNOとしてのアライアンスを作り始めるのは、なかなか障壁が高いと思います。それならば、データセンターやコネクテッドカーなどをやった方がいい。IoTで5000万(回線)という数字がありますが、あれを聞くと海外の方も「おっ」となります。


 グローバルも、ミャンマーの事業は回収すべきお金が回収できないかもしれないので減益しましたが(リース債権に対する貸倒引当金を計上した)、それ以外はうまくやっています。あとは、コンシューマー系をどうしようかというところですが、そこは「松田君、よろしく」ということで(笑)。


●動画配信サービスのトラフィックが増えている


―― 結果としてMVNOでの競争にならず、料金値下げを余儀なくされましたが、最近はARPUも反転しています。


高橋氏 付加価値が上がり、トラフィックもすごく増えています。技術陣とは、今後のトラフィックがどうなるのかという話はよくしています。IoTは監視カメラ需要があり、上りが増えていますが、それと同じようにAIが来るとみんながプロンプトを打つのでどうなるかが分からないですね。どんなトラフィックがあるのかが分からないので、そこの知見はみんなでシェアしたいですね。


―― YouTubeやTiKTokなどの動画を配信している人がものすごく多くなった印象がありますが、何かトラフィックに影響はありますか。


高橋氏 (昨年の)春ぐらいから、またYouTubeなどのトラフィックが上がりはじめています。これは、メディアの変化もあると思っています。石丸(伸二)さんの都知事選や、兵庫県知事選を見ても、みんながスマホで撮って、それを動画で上げていますよね。こうしたメディアの変化もありますし、これからAIがどうなっていくのかということもあります。AIも今は、GPUやトレーニングと言っていますが、逆にどんどんローカルに降りてくるかもしれない。MWCだとQualcommのブースに行っても、ZTEのブースに行っても、LLM(大規模言語モデル)がローカルで動いていますよね。その足りない部分がクラウドに行くことになるのかもしれません。


●衛星通信には+メッセージではなくRCSを導入する


―― 間もなく、StarlinkとのD2C(スマホとの直接通信)が始まります。一方で、イーロン・マスク氏の行動が読めず、リスクと捉える向きもありますが、KDDIはいかがでしょうか。


高橋氏 僕らも基幹網には使ってはいけないとは思っています。災害や非常時に何かできることがあればいい。極端な話、もしそれがなくなっても国家として問題がないようにしなければいけないと思っています。ただ、空が見えればつながるというのはやはり楽しいですよね。春のものはRCS(Rich Communication Services)やその先にあるGeminiとつながります。データ通信はできませんが、(メッセージアプリの中で)Geminiに聞けば、回答が来る。そのテキストメッセージの延長で、写真ぐらいは送れるようになりますし、位置情報も送信できます。今はRCSでGeminiですが、APIを空けて、いろいろなプレイヤーが作れるようにした方が面白いとは思っています。


―― +メッセージではなく、ですか。


高橋氏 インフラが高いので、どうしても。(GoogleやAppleが用意する)RCSにすると、そこが安くなります。iPhoneに入ってくる、それは大きいですね。


―― ネットワークという観点だと、Sub6の基地局が全て5G SAになっているというのは驚きました。


高橋氏 周波数的に、うちはSub6がすごく有利。隣接バンドですからね。ドコモは5Gで先行したかったからか、隣接バンドを取りに来なかった。うちは干渉問題がありましたが、衛星通信事業者が動いてくれたので、そこが強くなりました。今はすごくいい感じです。


―― 4Gが詰まらず、端末がスムーズに5Gをつかめるという点で、UQコミュニケーションズがあったのは大きかったですか。


高橋氏 それは、でかい。ソフトバンクにもWCP(Wireless City Planning)がありますが、あれも大きいと思っています。もとは僕のミスかもしれませんが、(WCPのベースになっている)PHSを手放したのは間違った判断でした。当時はここまで基地局がいるとは思っていませんでしたが、結果としてソフトバンクに塩を送ることになってしまいました。


●ユーザーを見ない値上げは問題になる


―― 先日の決算説明会の最後に、値上げを示唆するようなコメントがありました。改めて、その真意を教えてください。


高橋氏 あれは値上げというより、好循環な環境を作りたいということです。これは総務省からも言われていることですが、(基地局の)建設会社などのパートナーとは、購買交渉の過程で値上げの必要がないかを聞きなさいと言われています。ここが厳しいと、下を締め付けることになってしまうからです。政府としても、物価が上がるのはいいことで、価格転嫁はしなさいと言われています。電気代も上がっていますしね。


 ただ、それで通信料を値上げするというと、大変なことになります。一方で、どのキャリアも料金はアメリカの2分の1ぐらいになっているので、さすがに何とかしなければいけない。投資し続けなければいけない中で、人口も増えていないので、純増数も増えません。これは国にとってもよくないので、われわれがD2Cや5G SAなどで価値を提案し、そういうことを分かっていただいた上で価値のある価格設定にできれば、一番ハッピーですよね。


 もちろん、われわれはそれを利益として残すのではなく、すぐに投資に回します。その方が日本国民のためになるからです。トラフィックが上がり、もうかりますが、そのもうけを使ってどんどん投資をした結果として、3G、4Gは世界で一番いいネットワークになりました。結果としてネットワーク品質は僕らが一番になりましたが、ドコモ、ソフトバンクも投資をし続けています。


―― どんな価値提案をすればその方向に持っていけるでしょうか。


高橋氏 そこは工夫がいりますよね。以前、「さよなら、au」と言われてしまったことがありますが、お客さまの方を見ずに値上げというのは、それはそれで問題になります。ということを、次期社長がやっていきます(笑)。


●取材を終えて:ネットワークの上に価値を乗せて提供する姿勢が根底に


 ざっくばらんに今の思いを語った高橋氏だったが、ネットワークを作り、その上に価値を乗せて提供することで収益を上げ、それをさらに投資に回していくという視点は全ての話に通底していた。社長就任後にそのネットワークを強化し、好循環を作れたことは自身でも評価していることがうかがえた。一方で、それをコンシューマーにどう落とし込むかは、次期社長である松田氏に託された課題といえる。新体制になる4月以降のKDDIがどのような手を打ってくるのかも、楽しみになってきた。



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