羽生結弦さんと野村萬斎が初コラボ「SEIMEI」震災14年を前に鎮魂「MANSAIボレロ」

フィギュアスケート男子の冬季オリンピック（五輪）2連覇王者、プロ3年目の羽生結弦さん（30）と狂言師の野村萬斎（58）が初共演した。羽生さんが座長を務めるアイスショー「羽生結弦notte stellata 2025」が7日、宮城・セキスイハイムスーパーアリーナ（グランディ21）で初日を迎え、出会いから10年で初のコラボレーションが実現した。

間もなく発生から14年を迎える東日本大震災の被災地から“希望”を発信し、復興を祈念する公演。3年連続3度目となる今年は、萬斎がスペシャルゲストとして出演。震災が起きた2011年に「鎮魂」と「再生」への思いを込めて初演した「MANSAIボレロ」と、美しき和装に身を包んだ羽生さんのスケーティングが融合した。

ラベルの傑作舞踊音楽「ボレロ」の調べと萬斎の足拍子に合わせ、羽生さんが流麗な舞いを披露。震災直後、宮城県で最大の遺体安置所になっていた会場に詰めかけ、復興を願うファンのスタンディング・オベーションを引き出した。

2人の縁は15−16年シーズンに始まった。羽生さんが、萬斎の主演映画「陰陽師（おんみょうじ）」の楽曲を使用したフリー曲「SEIMEI」を演じて代名詞に。18年平昌五輪のフリーでも舞って2連覇を遂げ、今年10年の節目を迎えた。

今回の初タッグは、羽生さんからのオファーで実現。リハーサルで所作を合わせ、第2部の冒頭で2人による「SEIMEI」コラボが初めて現実となった。「今日が千秋楽かなと思うくらい、全ての体力と気力を使い果たしました。SEIMEIに関しては特に、何か威厳のようなものを常に背後から感じながら、決してミスをすることができないというプレッシャーとともに、本当に五輪かなと思うぐらい緊張しました」と羽生さん。渾身のハイライトとなった。

映画さながらの演出で、萬斎が「天地人」「出現、羽生結弦」と叫ぶと“式神”と化した羽生さんが降臨。リンクサイドを疾走した萬斎と2度目の金メダル曲「SEIMEI」を舞う姿がリンクした。

4回転サルコーや4回転トーループからの3連続ジャンプも完璧。「陰陽師」の世界観が氷上で再現され、最後に笛の音とともにフィニッシュを迎えると、驚きが勝る大歓声に包まれた。2人が退場した後も、どよめきが場内に響き続けるインパクトだった。

公演には無良崇人さんや鈴木明子さん、宮原知子さん、無良崇人さん、田中刑事さん、本郷理華さん、ハビエル・フェルナンデスさん、シェイリーン・ボーンさん、ジェーソン・ブラウンら国内外のスケーター仲間たちも集結した。

第1部のオープニングでは羽生さんが「notte stellata」を披露。平昌五輪のエキシビションで滑ったプログラムで、イタリア語で「満天の星」を意味するプログラムから、魂を込めた。11年に地元仙台で被災した羽生さんが停電の暗闇の中に見た「満天の星」に希望を感じたことから名付けられた曲で願いを届けた。

羽生さんは「2011年3月11日、皆さんがいろいろなものをなくして、壊れてしまった日に見上げた夜空がとてもきれいで…。その星たちから希望をもらったとか簡単なことは言えないんですが」と回想しながら「なくなったもの、いま生きているもの…全てに対して、魂から祈りを込めて滑らせていただきます」と呼びかけ、萬斎と鎮魂の共演を果たした。

公演後の取材では「3・11やいろんな災害に対して、できること、何かのきっかけになるように願いながら、祈りながら、滑らせていただきました」と覚悟を打ち明けていた。

初日は6256人が会場を埋めた。ショーは9日まで3日間、同所で行われる。【木下淳】

羽生さんとの初共演を終えた野村萬斎「本当に陰陽師が好きなんだな、と。自分がもう忘れていたようなことも覚えていて。10年前に会った時には、思いを内包しつつも、まだ言語化できなかったところもあったように思います。それが経験を重ねて殻を破って、まさに今、開いている。素晴らしいこと。ゴールドメダルを取った大切な曲に関わらせていただいて大変光栄でした。SEIMEIも3・11につながる演出になったんじゃないかな。この地でのMANSAIボレロにも感極まりそうになりました」