久木田菜々夏さん(撮影/長谷川唯)
“大学一の美女”としての称号を在学中に与えられるミスキャンパス。
コンテストに出場した彼女たちの人生は、一見華やかなものに見える。だが、当然のことながら、受賞後も人生は続いていく――。
ミスコン受賞者としてちやほやされ、就職でも有利となり、交友関係も華やかなものになっていく……キラキラした生活が続くようにも思えるが、そこに見えざる苦労や迷いはないのだろうか?
この連載では、彼女たちの素顔に迫るとともに、ミスキャンパスに輝いた彼女たちの“その後の人生”がどうなっていくのかを追っていく。
◆ミスコン受賞後、アイドルに転身
今回登場するのは、ミス明治学院2020年グランプリの久木田菜々夏(ななか)さん。
ミスキャンパスの一般的な進路としてイメージされるのはアナウンサーだが、彼女はその選択肢があったにもかかわらず、3年前からアイドルグループ「衛星とカラテア」のメンバーとして活動を続けている。
“聴き手の日常に寄り添う”世界観を目指しながらも、2025年にはZepp Shinjukuでのワンマンライブも決定した、注目のグループだ。個人でも、TikTokで「#埼玉の彼女」というハッシュタグのもと、あざとく男性に迫る動画が100万回再生を連発するなどバズり、本人にも25万人以上のフォロワーがついている。
◆TikTokで話題を集めた「#埼玉の彼女」
そのルーツは本人の過去にもあるようで……。まずは、ミスキャンパスコンテストに出場するまでの人生から語ってもらった。
TikTokを見るとあざといながらも憎めないキャラクターを演じきっているようにも思える。しかし、「#埼玉の彼女」は「設定」ではない。
実際、本人は埼玉県出身で、25歳の今に至るまで、埼玉を一度も出ずに生活を続けている。小学校から大学に至るまですべて共学で、人生においてその“あざとさ”をうまく使ってきたという。
首を傾けたり、唇を前に突き出したりしながらインタビューに答える様子は、確かにあざとい。
◆高校受験も“あざとさ”で突破
「嫌なことをしたくない、という思いが小さい頃から強くて。特に高校受験は本当にしたくなくて、指定校推薦で進学しようと決めたんです。
先生に対しては愛想よく、ニコニコしながら『内申点ください。お願いしま〜す』って言ってました(笑)」
首を傾げながら傾けて表情をつくり、中学校3年生時点での“あざとさ”を再現してくれた久木田さん。先生に上手に話しかけ、テストに出る範囲を聞き出していたという。
その振る舞いはTikTok上にある大学の教室内で男子学生にお願いしてノートを借りる動画に通じるものがある。
「学校の授業を全力で受けた」上で勉強していた成果ではあるようだが、努力と工夫の甲斐あって、無事、推薦で明治学院大学の附属高校に進学。もちろん大学受験もすることなく、エスカレーターで明治学院大学に入学した。
◆ミス青学への憧れはあったものの……
大学生活の様子を聞くと……
「ありがたいことに、お陰様で、結構、ほんとに、ずっと……モテていましたね」
言葉を選んでいるようで、結果的にはモテてきたという事実を伝えてくれたのだった。
「フットサルサークルとダンスサークルの2つに入っていました。フットサルサークルの男子は全員、ダンスサークルの男子はうち半分から告白されました」
だが、モテすぎると大変なこともあるという。
「付き合っていなくても、誰かと遊ぶという約束をした時点で、その噂が広まるんです。寄ってくる男子には自覚的に『私たち、いい友達だね! 』と言うようにしていました。フットサルサークルは1年ほどいたあたりで全員に告白されたので、さすがにやめました。正直、女子たちには妬まれていたかも」
◆コロナ禍の“ルール変更”でグランプリに
高校生の頃にミス青学に憧れていたという久木田さん。
ただ、自分が大学生になっても、ミスキャンパスコンテストに出るという発想はなく、1年生の時点でスカウトされても断ったほどだった。だが、3年生になって、友達に「出てみなよ」と説得され、半ば根負けするような形で出場を決意する。
久木田さんが出場した’20年は、それまでとは大きくルールが変わった年だった。
「コロナ禍だったので、本番が無観客だったんです。本番前のイベントもほとんどが中止になって。学校にも行けなくなって時間が空いた分、アプリで生配信をたくさんしていました。そこでついたファンの方々が本番でたくさん投票してくれたんだと思います」
他にも、外出が制限されたため、1度外に出ると、3着の服に着替えて写真を撮ってSNS投稿するなど工夫を重ねたという。
観客が学内からネット上に広がったことも功を奏したのか、見事グランプリを獲得。すると、多くの芸能事務所が、久木田さんに声をかけたのだった。
ファイナリストまで含めれば関東の主要大学だけでも毎年100人以上の“ミスキャン”が誕生する。久木田さんは、多くの事務所から声がけされたといい、各大学のグランプリの中でも、さらに「選ばれしグランプリ」だと言っていいだろう。
だが、もともと卒業後は“普通のOL”になるつもりだった久木田さんにとって、芸能事務所からのスカウトは人生の選択肢を増やし、悩ませるものだった。
「入学した当時は、卒業後はもちろん就職するつもりでした。教育発達学科だったので幼稚園の先生になるか、お菓子が好きだったのでお菓子メーカーに就職するかと漠然と考えていました。
配信をしていたらSNSにも興味も持って、関連企業にも内々定を頂いていたんです。それで、グランプリになった11月から、年をまたいで3か月くらい悩みました。
どうしたらいいかわからなくて、ひとりでよく泣いていました。早く決めないと就活も出遅れてしまいますし……。でも、最悪、就職は数年後でもできるなって」
◆アナウンサーではなくアイドルになった理由
芸能方向に舵をきったものの、ジャンルとしてはアナウンサーではなく女優やモデルを志向していた。だが、声をかけた事務所の中には、フリーアナウンサーや女子大生キャスターを多く擁する事務所も。
「アナウンサー一本には絞れなくて……。誰かをひきたてることは私にはできないなと(笑)。配信のように自分で自分のことを話すのは得意なんですけどね。女優やモデルができればと思って、今の事務所を選びました」
所属することになったスターレイプロダクションは、YouTuberやTikTokerなどのいわゆるインフルエンサー、恋愛リアリティーショー出演者などを多く擁する芸能事務所で、配信が得意な久木田さんとの相性はいいように思える。
だが、所属後も「自分は何を売りにして生きていくのか」という悩みは続いていく。
「自分の強みがミスキャンパスグランプリであることくらいしかなくて悩んでいました。ちょうどその時期に事務所でアイドルを作ります、という話が持ち上がって、メンバーに誘われました。それが『衛星とカラテア』でした。
むかし友人に『山下美月さんに似てるから乃木坂46受ければ?』と言われたこともありましたが、これまでの自分の人生でアイドルになるという選択肢を持ったことはまったくなくて。でも、お仕事を選んでる場合じゃない、やってみないとわからないと思ってアイドルになることにしました」
アイドルは幼い頃から目指す職業、というイメージは一般に強いかもしれない。久木田さんは10代の頃からその素質はあったものの、職業としてアイドルを目指していたわけではなかった。
だが、ミスキャンパス出場を勧めた友人、声をかけた芸能事務所など、周囲は徐々に“普通”の道から外れるように彼女を促していく。
彼女自身も多くの道を前に、どこを進むか考え続ける。こうして、21歳の“内定を蹴ったアイドル”が誕生したのである。
【久木田菜々夏】
1999年6月9日生まれ、埼玉県出身。2021年からアイドルユニット「衛星とカラテア」のメンバーとして活動スタート。アイドル、タレント、インフルエンサーと幅広く活躍中。TikTokの「#埼玉の彼女」動画でフォロワー数26万人を突破
<取材・文/霜田明寛>
【霜田明寛】
1985年生まれ・東京都出身。約20年にわたりミスキャンパスを取材。就活本を3冊執筆し、自身のセミナーから100名以上のアナウンサーを輩出している。その他の著書に『ジャニーズは努力が9割』(新潮新書)『夢物語は終わらない 〜影と光の“ジャニーズ”論〜』(文藝春秋)など。X:@akismd