総再生回数16億回超え! 青春ショートドラマ『まいはに』、驚異的ヒットのワケ

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2025年03月12日 16:10  女子SPA!

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いぬじゅん『ヒロインになるまでは 』(扶桑社文庫)
 日本テレビの青春ショートドラマ『毎日はにかむ僕たちは。』(以下、『まいはに』)が、Z世代の間で大ブームに。累計再生数はなんと16億回を突破し、Z世代の4人に1人が視聴するという驚異的な人気を誇っている。

 今回は、『まいはに』のプロデューサーである日本テレビの平岡辰太朗氏と井上直也氏に、プロジェクトの見どころや届けたい想いについてインタビューを行った。

◆『まいはに』人気の理由は、よくも悪くもリアルな描写にあり

――『まいはに』のプロジェクトが始まった経緯を教えていただけますか?

井上直也氏(以下、井上):昨今、短尺・縦型動画を手軽に楽しむ習慣が広がり、コンテンツが増える反面、一つのコンテンツに割ける時間が減少しています。そうしたタイムパフォーマンスが求められる時代に、SNSのなかでもTikTokが最も没入させられる可能性が高いと思い、2023年3月に『まいはに』の配信を開始しました。

TikTokはアプリを開くとすぐに音声付きの動画が再生され、短時間で強いインパクトを与えることができますからね。

――最近の縦型動画でいえば、YouTubeショートやInstagramリール、Voom、Xのフィードも注目されていますね。

井上:たしかに別のプラットフォームでも技術的には模倣できますが、TikTokのカルチャーまで再現することは難しくて。ほかの縦型動画では代替できない要素が多いんですよ。

――そうした多様なコンテンツがあふれるなかで、『まいはに』がZ世代の4人に1人が視聴する一大コンテンツとなった理由は何だと思いますか?

井上:『まいはに』の強みは、「あったかもしれない」というテーマをよくも悪くもリアルに描写したことです。青春のもどかしさをドラマとして表現することで、視聴者が共感できる内容になっていて、「私も同じ経験があります!」「最近のできごとを思い出して泣いてしまいました」といったコメントが多く寄せられていますね。

◆Z世代のクリエイターだからこそ生み出せる雰囲気

――そのほか、寄せられるコメントにはどんな特徴があるのでしょうか?

井上:コンテンツに対する共感のコメントももちろん多いですが、それ以上に潜在的な共感が広がっていると感じます。たとえば、僕自身は部活で頑張った経験がないので、部活で泣いている姿を見ても直接的な共感はありません。ただ、何かに打ち込んでうまくいかなかった時の感情には共感できます。それが『まいはに』の魅力なんですよ。

平岡辰太朗氏(以下、平岡):仮に「BeReal(※)」をテーマにしたとき、40代の人にはビーリアルが何かわからないかもしれません。でも、その奥にある「共感させたい部分」は変わらないんですよ。

自己承認欲求や他者との共有欲求という、根本的な欲求は年代を問わず共通しているので、そこには共感できるポイントがあるはずです。一方で、「ビーリアル」というだけで興味を持たない人も一定数いるでしょうけどね。

※「リアルな日常を友達と共有する」ことを目的としたアプリで、Z世代に人気

井上:そのリアリティを追求するために、制作現場では「こういう経験あったよね」といった話が飛び交い、スタッフも20代が多く、その感覚を共有しながら作り上げています。また、俳優たちも感情表現が上手なため、リアルな演技が見せられるんです。平岡さんはどう思いますか?

平岡:井上が言ったように、大人が作ったものではない等身大のクリエイティブが受け入れられているのだと思います。実際には大人が関わっていますが、TikTokは「ごっこ倶楽部」と呼ばれる10代後半から20代前半のクリエイターたちと一緒に制作しています。

大人が作ると、どうしても若者の文脈についていけない部分が出てきます。僕自身34歳ですが、その感覚を完全に掴むのはとても難しくて……。だからこそ、若者が主体となって作ることで視聴者も共感しやすく、再生数も伸びているのだと思います。

――ちなみに、企画から配信まではどのような流れなのでしょうか?

井上:縦型と横型で事業パートナーが異なります。縦型は「ごっこ倶楽部」と共同制作していて、スポンサー関係以外は従来の脚本を大きく変えることはありません。但し撮影や投稿後の結果をしっかり振り返ることを大事にしています。

TikTokのインサイト機能で「離脱時の秒数」や「リーチ数」などが見られるので、右脳と左脳をバランスよく使いながら進めています。横型に関しては「NUTS FILM」という別の会社と共同で、同じような方法で制作しています。

◆ショートドラマ、小説、楽曲がコラボ。『まいはに』初の小説プロジェクト

――『まいはに』の新プロジェクト『ヒロインになるまでは』が2025年1月にショートドラマ、小説、楽曲として同一タイトルで発表されたそうですね。このプロジェクトが始動したきっかけはなんですか?

平岡:担当編集さんから「『まいはに』で小説を出版しませんか?」と提案してもらったのがきっかけですね。「ブルーライト文芸」というカテゴリーが『まいはに』と相性が良いこともあり、すぐに話が進みました。

さらに、小説単独より大きく盛り上げる座組みにしたいと思い、小説にドラマや音楽を組み合わせることになりました。

――井上さんは『ヒロインになるまでは』のお話が来た際、どのように感じましたか?

井上:マルチプルなコンテンツの深さがあり、IP化に繋がる可能性があることに非常に興味を持ちましたね。

――「青春は思っているほど安定したものではない」というコンセプトに込めた想いとは?

平岡:年を重ねると青春時代を美化しがちですが、実際には小さな葛藤や悩みで本気で苦しむことも多いです。今回のメッセージは、その現実を伝えたいと思っています。

井上:あとZ世代の青春は、SNS時代の刹那的なつながりが特徴ですよね。SNSで簡単につながれる一方、昔の人間関係に比べて不安定でもあります。そうした現代の青春が「思っているほど安定したものではない」というメッセージに共鳴しているように感じます。

◆三者三様の独自解釈で、より多くの人が楽しめる作品に

――小説は、2014年に第8回日本ケータイ小説大賞を受賞しデビューした人気作家・いぬじゅんさん、楽曲は新世代シンガーソングライター・乃紫さんが手がけているそうですね。今回、コラボのうえで工夫したことはありますか?

平岡:「餅は餅屋」と言いますか、コンセプトを共有し、その後の作業は各クリエイターが自分の領域で進めることを大切にしました。企画段階でアーティスト、作家、放送局、出版社が一堂に会するミーティングを行うという形式で進めました。

最初の企画打ち合わせで、小説家のいぬじゅんさんやシンガーソングライターの乃紫さん、佐藤さん、そして私のプロデュース視点をしっかり固めました。こうした最初の合意形成ができれば、後は各自が作業を進めるだけだったのでスムーズでしたね。

――そうして完成した、ショートドラマ、小説、楽曲の各作品の見どころを教えてください。

平岡:まず、小説に関してですが、いぬじゅんさんは日常に巧みにファンタジー要素を取り入れるのがお上手でして。今回の作品でも、立場が入れ替わるという非現実的な設定が現実のように感じられる点が非常に魅力的です。

楽曲については、乃紫さんの書く「ヒロインになるまで死ねない」というストレートかつ強烈フレーズがすごく印象的で、Z世代の心に強く響くと思います。この言葉には、生きることの意味や自己実現の重要性が込められていて、若者たちの背中を押すメッセージが詰まっています。これは、乃紫さんにしか表現できないのだろうなと。

最後にショートドラマは、いぬじゅんさんの小説を映像化したもので、主人公の成長が視覚的に伝わりやすいです。映像を通じて、立場が入れ替わる設定やキャラクターの内面変化がよりリアルに感じられますよ。キャラクターの表情や仕草が細かく描かれているので、より一層深い没入感を楽しめるのではないでしょうか。

――その3つのジャンルが、コラボレーションすることで生まれるシナジーとは?

平岡:「クリエイティブな面」と「間口が広がる」という2つの要素があると思っています。クリエイティブな面では、これまで『まいはに』は日常をベースにした作品を作っていて、SFの要素をあまり取り入れていませんでした。

ですが、いぬじゅんさんの得意とする、「現実ではありえないけれども、もしかしたら起こるかもしれない」という絶妙なバランスで、『まいはに』のように楽しんでいただけると感じました。また、普段は挑戦しない内容に取り組めたことも、大きなポイントです。

YouTubeで配信したドラマに関しては、尺の面でも、通常の10分のYouTube動画ではなく、今回40分という長尺に挑戦しました。さらに、乃紫さんの音楽が関わることで、より没入感を高めることができました。

もう一つ大切なポイントは、多くの方に作品を楽しんでいただくために、間口を広げることです。たとえば、YouTubeのドラマを見て「これ小説が原作なんだ」と思って小説を買ったり、小説を読んでドラマを見るといったように、異なるメディアを通じて作品に触れる機会を増やしたいなと。

◆アナログとデジタルの新たな可能性を追求したい

――最後に、今後『まいはに』としての展望があれば教えてください。

平岡:今回の担当編集さんとのつながりも踏まえつつ、ショートドラマと小説の組み合わせにはまだまだ可能性があると感じています。ショートドラマのよさは圧倒的なスピード感にあって、毎週2、3本のコンテンツを上げ、その反応を見ながら制作を進める点です。

小説にも短編といったショートのようなジャンルがありますが、それこそ短編集とショートドラマを組み合わせることで、話題になったショートドラマを小説化したり、デジタル上の反応を見ながら小説に落とし込んだりすることができるのではないかと考えています。

また、アナログとデジタルの掛け合わせには新しい可能性があると感じているので、アーティストさんやほかのクリエイターさんとのコラボレーションも積極的に進めていきたいですね。井上さんはどうですか?

井上:私も同じ意見ですね。なかでも小説は内面描写を丁寧に描けるので、ショートドラマで流行ったものを逆輸入しているケースがとても多いんですよ。なので、今後もクリエイターやメディアとイベントを含めてコラボレーションしていきたいですね。グッズ展開や体験型イベント、プロダクト開発、すべてウェルカムです。公式アカウントまでDMお待ちしてます(笑)。

<取材・文/西脇章太(にげば企画)>

【井上直也】日本テレビ/コンテンツ戦略局/プロデューサー。2023年 TikTokにてTV局史上初となる縦型ショートドラマアカウント「毎日はにかむ僕たちは。」をクリエイター集団・ごっこ倶楽部と共同で立ち上げ&推進。広告無しでZ世代の4人に1人が視聴中、累計16億,平均400万再生以上の大ヒットメディアに成長させる。領域を越境することを信条とし、事業開発〜番組・コンテンツ制作〜マーケティング・分析〜アライアンス〜セールスを一気通貫で担当する

【平岡辰太朗】2014年に株式会社博報堂に新卒入社。ストラテジックプラナーとしてマーケティング全般領域の業務に従事したのち、2022年に日本テレビへ中途入社。Z世代向けの連続ドラマ枠「Zドラマシリーズ」やSNSショートドラマ「毎日はにかむ僕たちは。」のプロデューサーを務め、日々Z世代をハックするためのコンテンツ制作に奮闘中

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