限定公開( 6 )
ファーストリテイリング傘下のジーユー(GU)が、ファッションブランドUNDERCOVER(アンダーカバー)との新ライン「UG(ユージー)」を3月14日に発売すると発表した。これまでの両社のコラボレーションは期間限定の企画が中心であったが、今回は「永続的な協業ライン」であることが大きな特徴である。ファーストリテイリングは、これまでユニクロをはじめ数多くのコラボレーションを手がけてきたが、永続的に続く形でラインを立ち上げるのは極めて珍しい。今回は、この背景にある狙いは何なのかを探っていきたい。
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●ファーストリテイリングによるコラボレーションの系譜
ファーストリテイリングは、ユニクロを通じて多数の著名デザイナーやブランドとのコラボレーションを実現してきた。その初期の代表格が、ジル・サンダーとのコレクション「+J」である。2009年にスタートした「+J」は、ハイファッションをリーズナブルな価格で提供する画期的な試みとして大きな話題を呼び、ファーストリテイリングがコラボレーション企画に積極的に取り組むきっかけともなった。
「+J」は2011年をもって第1章を終えたが、2020年には第2章が再開され、2021年秋冬を経ていったん幕を下ろした。その後、2025年初頭には再度復刻を果たすなど、今なお根強い人気を誇っている。「+J」は、高品質かつデザイン性の高いアイテムをユニクロ価格で提供するという成功事例を築き、ファーストリテイリングによるコラボブームの起爆剤ともなった。
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この「コラボ企画」は、ファーストリテイリングが競合他社に対して一歩先んじるための戦略ツールとして確立してきた。「ユニクロ×UNDERCOVER」や「ユニクロ×クリストフ・ルメール」のように、一時的に完売が続くような反響を得たプロジェクトは枚挙にいとまがない。
しかし、ほとんどのコラボレーションは期間限定であり、継続的に展開されるケースは限られていた。今回、GUとUNDERCOVERが「永続的なコラボレーション契約」を結んだことは、ファーストリテイリングにとっても非常に珍しく、注目度が高い理由の一つである。
●GUの成長とブランド戦略の変遷
GUは2006年にファーストリテイリングの新たな低価格ブランドとして誕生した。当初は売り上げが伸び悩んだものの、990円ジーンズのヒットによって脚光を浴び、若者を中心に「トレンドを気軽に楽しめるブランド」として人気を高めていった。2013年にはブランド名を「g.u.」から「GU」へと変更し、ファミリー層からさらに広範な顧客層へ訴求するための体制を整えた。
GUの特徴は、ユニクロが積み重ねてきたノウハウを生かしながら、より安価に、より軽いトレンド感を提供している点である。低価格路線をキープしつつ、シーズンごとに流行を取り入れたアイテムを迅速に売り出すことが強みであり、多くの若年層やファミリー層を取り込んできた。その一方で、競合には同様の価格帯・ターゲットを狙う企業も増えてきており、近年は差別化の必要性がさらに高まっている。
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そんな中で、GUは近年、ブランドやデザイナーとのコラボレーションを積極的に展開するようになった。MIHARAYASUHIRO(ミハラヤスヒロ)やbeautiful people(ビューティフルピープル)、rokh(ロク)、さらにはコスメブランドのSABON(サボン)との協業など、カテゴリや世界観の異なる企業との企画商品を打ち出すことで差別化を図っている。「GU=安いだけでなく、おもしろい」と感じさせる仕掛けがコラボの狙いだが、それらの企画の多くが期間限定であった。
●新ライン「UG」が目指すもの
こうした流れの中で、2021年から継続的にコラボを重ねてきたUNDERCOVERとの協業が、「UG」という新ブランドラインとして永続化することが決定した。
通常、デザイナーと大手アパレル企業のコラボレーションは一度限りで終わる場合が多いが、「UG」は企画段階から素材開発、ビジュアル制作までUNDERCOVERが深く関わり、両社が対等にブランドを創り上げる形式となっている。実際、3月14日発売の初ラインアップには、共同開発した新素材を使ったセットアップや、UNDERCOVERらしい独創的なグラフィックをあしらったアイテムなどがそろい、ファッショントレンドに敏感な層から大きな期待を集めている。
ファーストリテイリングが誇る生産管理ノウハウやグローバルな販売網と、UNDERCOVERの持つストリートテイストで革新的なデザインの融合は、価格と価値のバランスを再考させる動きといえる。つまり、「ファストファッションの枠を超えた、より高いデザイン価値を持つ商品をリーズナブルに提供する」という構図を目指しているのだ。
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●GUが推し進める「スーパーバリュー戦略」と、その狙いとは?
GUはこれまで、「低価格×ある程度の流行」で消費者に訴求する「グッドバリュー」ポジションを確立してきた。しかし、ファストファッション市場の競争激化や消費者の多様化にともない、単に安いだけでは埋没してしまう危険性が高まっている。
そこでGUは、さらに高いデザイン性を加味しつつも価格は抑えるという、いわば「スーパーバリュー戦略」を本格的に推し進めようとしている。
このスーパーバリュー戦略は、そもそも実現自体が難しく、維持も容易ではない。なぜなら、高いデザインクオリティーを保ちながら、適正な価格設定を両立させる必要があるからだ。
期間限定コラボであれば、話題性によって一時的に消費者を取り込むことが可能だが、長期的に継続するためには、常に新鮮かつ高品質なアイテムを安定供給する必要がある。複数のブランドやデザイナーと限定企画を重ねてきたファーストリテイリングでも、永続的な契約を継続しながら「価値の高さ」を維持するのは容易ではないはずである。
しかし、ファーストリテイリングがそこにあえて踏み込んだのは、「GUを第二の成長の柱としてより強固に育てる」という戦略があるからではないだろうか。ユニクロはグローバル市場においてベーシックウェアの代表格として地位を確立しているが、よりファッション性に振り切ったブランドとしてGUを世界規模で浸透させるためには、画期的で継続的な企画が必要だ。UNDERCOVERとの「UG」は、その最有力カードと考えられている可能性がある。
●永続コラボがもたらす効果と今後の展望
永続的なコラボレーション契約を結ぶことで、GUとUNDERCOVERには以下のような効果があると考えられる。
1.ブランド価値の向上
期間限定のコラボではなく、常に新作が期待できるラインとして消費者に認知されれば、「UGはいつ買ってもデザインや品質が良い」といった評価が浸透しやすい。価格と価値が一定以上のレベルを保てれば、長期的なブランドロイヤルティーを築くことができる。
2.新規顧客の獲得と市場拡大
UNDERCOVERというハイエンドかつストリート感の強いブランドに魅力を感じる顧客層は、従来のGU顧客層とは必ずしも重ならない。そうした新しいファン層を安価なラインで取り込みつつ、両ブランドの世界観を拡充できる可能性がある。
3.ファストファッションを超えるポジションの確立
「低価格だけど、かなりオシャレ」という位置づけは、従来のファストファッションのイメージから抜け出すための突破口となり得る。こうした上位次元のポジショニングを継続できれば、競合他社にはない差別化を図ることができるだろう。
今後、「UG」は春夏だけでなく、秋冬コレクションも投入し、継続的にアップデートされていく見込みである。UNDERCOVERの高橋盾氏が培ってきたクリエイティブ力と、ファーストリテイリングが誇る大規模生産・販売管理システムを掛け合わせることで、驚きとコストパフォーマンスを両立させたラインアップを送り出すことが期待される。
ただ、ファッションのトレンドサイクルは短期化しており、消費者のニーズも多様化している。常に新鮮な企画を提供し続けなければ飽きられてしまうリスクがある。そのため、「UG」の永続化という挑戦には、相応のリソース投下と柔軟な商品開発体制、そして継続的なイノベーションが求められる。GUが、今後「低価格なのに、かなりオシャレ」というスーパーバリュー路線を安定して走り続けることができるかが、勝負の分かれ目となるだろう。
「UG」が新しい顧客を獲得し、GUを第二の成長エンジンに育てる起爆剤となるのか。まだ始まったばかりの永続コラボレーションだが、今後の展開を追い続けたい。
●著者プロフィール:金森努(かなもり・つとむ)
有限会社金森マーケティング事務所 マーケティングコンサルタント・講師
金沢工業大学KIT虎ノ門大学院、グロービス経営大学院大学の客員准教授を歴任。
2005年より青山学院大学経済学部非常勤講師。
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