【MLB】大谷翔平の目標は「復帰」ではなく「進化」 ドジャース日本人三本柱への期待

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2025年03月14日 07:40  webスポルティーバ

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後編:ドジャース先発陣に日本人3投手が占める意味 

3月18日、ロサンゼルス・ドジャースの2025年シーズンが東京ドームで幕を開ける。2年連続の世界一を目指すチームにおいて、大谷翔平、山本由伸、佐々木朗希はポストシーズンに向けた先発三本柱として期待されているなか、3人はそれぞれどのようなアプローチでチームに貢献しようとしているのか。

開幕前の状態を踏まえ、それぞれの2025年シーズンを占ってみる。

前編「野茂英雄から大谷翔平までの道のり」〉〉〉

【復帰ではなく進化を求め続ける大谷】

 大谷翔平がメジャー屈指のパワーピッチャーであることは、すでに数字が証明している。2018年のデビュー以来、400イニング以上を投げた先発投手の中で、防御率が大谷より低いのはわずか5人で、奪三振率が大谷を上回るのは6人しかいない。しかし、故障の影響で7シーズンにわたる先発登板は86試合にとどまっている。

 ロバーツ監督は先日、大谷の投手復帰が5月よりもさらに遅れる可能性を示唆し、指名打者としての出場を優先しながら慎重に調整を進めると説明した。

「投球練習の強度を上げつつ、試合での負荷も増やしていくのは得策ではないと判断した。だから、少しペースを落とすことにした」と語る。

 これは大谷が「打者優先」を決めたという意味ではない。事実、このキャンプでは新たにノーワインドアップを試すなど、投手としての進化も模索している。

「バッティングもそうですけど、常に変化を求めていきたい。そのなかのひとつかなと思います」と大谷。マーク・プライアー投手コーチも「投球動作にリズムや躍動感があるのはいいこと。流れやタイミングを良くすることで、結果的に腕への負担も軽減できる」と前向きに評価する。

 ただし、大谷の挑戦には大きなハードルがある。2度目のトミー・ジョン手術(ヒジの靭帯再建手術)から先発投手として復帰し成功した例は少なく、過去にはシカゴ・カブスのジェームソン・タイヨンとテキサス・レンジャーズのネイサン・イオバルディくらい。昨シーズン、ドジャースのウォーカー・ビューラー(ボストン・レッドソックス)は復帰を果たしたものの、ポストシーズンで好投した一方で、レギュラーシーズンは16試合に先発して1勝6敗、防御率5.38と苦戦した。

 さらに、大谷には「二刀流」という特有の課題がある。打者として毎日試合に出場しながら、先発投手としてのスタミナを再構築しなければならない。これを成し遂げたのは、過去にロサンゼルス・エンゼルス時代の大谷自身しかいない。

 通常、投手はマイナーでリハビリ登板を重ねて調整するが、大谷はチームを離れることがないため、メジャー球場で試合前にチームメイト相手にシミュレーション登板を行なう。これについても「前回の手術の時もやっているので、初めてではないし、自分のフィーリングが大事」と冷静に語っている。

 印象的なのは、大谷が「元の状態に戻れるか」という不安をいっさい抱かず、むしろ投手としてさらなる進化を誓っていることだ。投球スタイルを新たに構築するのか、それとも過去の自分に近づけるのかと問われると、「ケガを恐れてパフォーマンスを落とすことはない。手術前にも言いましたけど、93〜94マイル(150キロ)くらいだったら、ある程度(じん帯が)切れていても痛みなく投げられた感覚はあった。そこで満足することなく、どれだけうまくなれるかだと思う」と言葉に力を込めて答えている。

 2024年、大谷は打者として飛躍的な進化を遂げた。次に目指すのは、投手としてのさらなる高み。そして、より「ハイレベルな二刀流」へ----大谷は常に、上だけを見据えている。

【さらなる飛躍が期待される山本】

 3人のなかで最も多く先発し、長いイニングを投げるのは、メジャー2年目の山本由伸だろう。

「去年はルーキーとしていろいろ配慮してもらい、3カ月間、右肩のリハビリをしていたので、今年は1年を通してしっかりチームに貢献したい。先発ローテーションの軸として回れるように頑張りたい」と山本。12年総額3億2500万ドル(約487億5000万円)と投手史上最大の契約を結び、当然ながらサイ・ヤング賞クラスの投球が期待される。そのプレッシャーについて問われると、「目の前の1試合、投げ終えたらまた次の1試合。そのために1日1日、練習と調整を積み重ね、より良い登板にしていく。その繰り返しです」と、あくまで冷静に語った。

 そんな山本の今季の成績を、データ分析に定評のある米サイト『ベースボール・プロスペクタス』は、24試合先発、126.1イニング、防御率3.64、10勝5敗と予測している。これは1年前の同サイトによる防御率3.11の予測を下回るものだ。

 過去の例を見ると、日本人投手はメジャー1年目にまずまずの成績を残しながらも、対戦を重ねるうちに打者に研究され、成績を落とすケースが多かった。「3年限界説」と言われた時代もあったが、近年はダルビッシュ有(サンディエゴ・パドレス)や大谷のように、メジャーで進化しながら長く活躍する投手も増えている。ドジャースが山本に12年契約を与えたのも、彼がサイ・ヤング賞級のパフォーマンスを長期にわたって維持できると確信しているからだ。

 果たして彼は予測を覆し、1年目の18試合先発、90イニング、7勝2敗、防御率3.00の成績からどこまで飛躍できるのか。

【才能の片鱗をいきなり垣間見せた佐々木】

 初登板が最も注目を集めるのは佐々木だ。山本よりも背が高く、速球も速く、年齢も若い。投手としての才能は、もしかすると大谷をも凌ぐかもしれない。

 そんな佐々木が3月4日(現地時間)のオープン戦でメジャーのマウンドに立ち、圧倒的なポテンシャルを証明した。直球は98〜99マイル(158km前後)を記録し、特に決め球のスプリッターは全米の専門家を唸らせた。

 MLB公式サイトは、佐々木のスプリッターの特異性を示す3つのデータを紹介している。

 まず第1にピン量(ボールの回転数)の少なさ。昨シーズンのMLB平均スプリッターの回転数は1302回転/分だったのに対し、佐々木のスプリッターはわずか500〜600回転/分。これはナックルボールに匹敵する低回転であり、そのため打者の手元で急激に沈み込む。

 第2に落差の大きさ。投手の手元からホームプレートまでの沈み幅(重力の影響を含む)は平均43インチ(約109cm)で、昨季MLBで最も変化量の大きかったスプリッター(41インチ)をも上回る。まるでテーブルから転げ落ちるような軌道だ。

 そして第3に横の変化。通常、スプリッターやチェンジアップは投手の腕側(アームサイド)に変化するものだが、佐々木のスプリッターは左右両方向に動く。左打者に対してはグラブ側へ最大6インチ(約15cm)カットし、右打者には腕側へ7インチ(約18cm)も動いていた。ドジャースのデーブ・ロバーツ監督も「朗希のスプリッターは速いし、ある球は真下に落ち、ある球は左へ、またある球は右へ変化する。何をするかわからないから、しっかりと芯で捉えるのが非常に難しい」と絶賛する。

 MLB公式サイトは、これらのデータを総合し、佐々木のスプリッターは、MLBを席巻する次の偉大な球種になると断言している。

 佐々木は千葉ロッテ時代、直球の球速低下に悩んでいたが、このキャンプではドジャースのコーチ陣とともにフォームの改善に取り組んできた。その成果がデビュー戦での好投という形でさっそく表われ、順調な調整ぶりを印象づけた。

「基本的に下半身の使い方です。メカニクス的なところでキャンプ中にラボに入って動きを洗い直して、そのなかでどうやっていこうかというところです。まだ始めて少しですけど、いい方向には来ているので継続して、もう一段階上げていけたらなと思います」と佐々木本人は語る。

 そのポテンシャルの高さから、ナ・リーグ新人王の最有力候補と見なされている。昨年の新人王に輝いたピッツバーグ・パイレーツのポール・スキーンズは、23試合、133イニングを投げ、11勝3敗、防御率1.96だった。佐々木もこの水準を目指すことになるだろう。

 1995年、野茂英雄が新人王に輝いた際はストライキによる短縮シーズンにもかかわらず、28試合に先発し191.1イニングを投げた。改めて近年先発投手の起用法が変わったことがわかる。さらに野茂と石井一久が先発陣として活躍した2003年との比較で言えば、2025年のドジャースの強力打線がどれだけ不調に陥ったとしても、チームOPSで30球団中30位ということはあり得ない。

 ポストシーズンを含め、3人の日本人投手にとって歴史に残る偉大なシーズンとなることを期待したい。

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